プレスリリース

航空宇宙技術研究所 このプレスリリースは航空宇宙技術研究所(NAL)が発行しました

ロケットエンジンの高性能化を可能とする世界最高速の液体水素玉軸受を開発

超高速ハイブリッドセラミック玉軸受,回転数120,000 rpm,
DN値300万を達成

平成14年3月27日
航空宇宙技術研究所

 航空宇宙技術研究所では、将来の再使用型宇宙輸送機に必要な再使用型ロケットエンジンの研究を進めています。小型軽量でかつ高性能が要求される再使用型ロケットエンジンでは、液体水素(-253℃)や液体酸素(-183℃)の極低温推進剤を燃焼器に供給するターボポンプの高速化が必要になります。また、現在の多段式ロケットにおける上段用ロケットエンジンでも、その重さや性能が衛星などの打上げペイロードに大きく影響するため、回転数が100,000 rpm(回毎分)級のターボポンプが有利になります。そのため、超高速ターボポンプの研究開発が、世界的に進められています。小型軽量化に繋がる超高速ターボポンプのキーテクノロジーは、ポンプやタービンの回転軸を支える軸受や軸シールの超高速技術です。

 今回、航空宇宙技術研究所では、世界に先駆け、高速性能や冷却性能に優れる外輪片案内方式を採用した、窒化ケイ素セラミック玉を用いたハイブリッドセラミック玉軸受(内径25mm、写真)を開発し、液体水素を使った性能試験で、高速性の指標となるDN値(軸受の内径(mm)×毎分の回転数(rpm))が300万で、回転数が120,000 rpmという世界最高速を達成しました。表1に現在のロケットでの液体水素ターボポンプ軸受の回転数とDN値を示します。

今回開発したハイブリッドセラミック玉軸受の特徴は以下のとおりです。

  1. 軽くて極低温下でも耐摩耗性に優れる窒化ケイ素セラミック玉を使用することで、高速回転時に発生する遠心力荷重が鋼玉に比べ約60%減少でき、軸受の発熱や摩耗を少なくできました。窒化ケイ素セラミック玉は、鋼玉に比べテフロン潤滑膜が厚く付着するので、高い荷重を支えることができます。
  2. 特殊な表面処理により潤滑性を高めたガラス織布強化テフロン保持器(※1)を使用して、極低温でも玉や内外輪に付着させたテフロン潤滑膜で軸受を潤滑します。
  3. 外輪片案内方式の軸受(図1)を採用することで、軸受トルクが従来の外輪両案内軸受の約1/2になるため、超高速回転で問題となる摩擦発熱は、回転数120,000 rpmで4 kW程度と大幅に減少できました。特殊な平円ポケット形状を採用して、高速回転する、外側の案内面が片側しかない保持器の振動発生を抑えています。

 開発したハイブリッドセラミック玉軸受の高速回転時における性能試験を、液体水素中、回転数120,000 rpm、スラスト荷重(軸方向の荷重)2,160 N(ニュートン)(220kgf)で行った結果、従来の軸受鋼玉を使用した軸受は、軸受温度が不安定な挙動を示し焼付き状態になりましたが、ハイブリッドセラミック玉軸受は、軸受温度がほぼ一定に安定し優れた性能を発揮しました(図2)。

 今後、航空宇宙技術研究所では、DN値300万でのハイブリッドセラミック玉軸受の長期間使用した場合の耐久性の評価を進め、超高速ターボポンプに必要な軸受や軸シールの超高速技術を確立します。

写真 ハイブリッドセラミック玉軸受の外観

写真 ハイブリッドセラミック玉軸受の外観


図1 外輪片案内軸受の構造

図1 外輪片案内軸受の構造


図2 回転数120,000rpmでの軸受外輪温度の推移

図2 回転数120,000rpmでの軸受外輪温度の推移


表1 液体水素ターボポンプ軸受の回転数とDN値
ロケットエンジン真空推力(kN)回転数DN値(mm×rpm)
スペースシャトル SSME 2087 37000 167万
HII-A LE-7A
(1段目)
1073 42000 168万
LE-5B
(2段目)
137 52000 130万
アリアン5 HM60
(1段目)
1029 39000 156万
HM7
(2段目)
62 61000 104万
VINCI
(2段目)
155 85000 開発中で不明

※1)ガラス繊維強化テフロン保持器
 極低温で潤滑性が優れるテフロンを含浸させたガラス繊維の布を円筒状に巻いて製作した複合材を使用した保持器のこと。


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