プレスリリース

航空宇宙技術研究所 このプレスリリースは航空宇宙技術研究所(NAL)が発行しました

日常運航データ再生ツール・
DRAP (Data Review and Analysis Program)を開発


平成14年7月2日
航空宇宙技術研究所

 独立行政法人航空宇宙技術研究所(NAL)では、運航安全のより一層の向上を目指して航空ヒューマンファクターに関する研究をすすめています。日常の運航データを将来の航空安全に活用するためにかねてより開発を進めていました「日常運航データ再生ツール・DRAP(Data Review and Analysis Program)Ver.1.0」が完成し、このほどプログラム著作物登録申請を行いました。

 DRAPは、機上で記録された飛行データをもとに飛行状態をアニメーションで再生するソフトウェアです。DRAPの開発は、エアライン各社が行っているDFOM (Daily Flight Operation Monitoring) やFOQA (Flight Operational Quality Assurance)といった日常運航において取得した飛行データをパイロットその他へフィードバックして、将来の運航安全性を向上させるための活動に利用されることを目的とし、NALの飛行実験データ処理技術や飛行シミュレーション技術を活用して行ってきました。
 DFOMやFOQAの活動は従来から行われていましたが、パイロットに飛行データをフィードバックする際に、数値あるいはグラフを用いるにとどまっていました。DRAPはこの飛行データをアニメーションで表示できるため、パイロットが飛行後に自身の飛行状態を直感的にレビューすることが可能となります。

 1999年から開発に着手し、当初より日本航空株式会社DFOMグループと共同で開発作業をすすめてきました。日本航空株式会社には、特にソフトウェアの仕様やバグの発見・改修提案などユーザ側からのアドバイスをいただくとともに、2000年春よりプロトタイプ版の運用評価を実施いただきました。また、2001年春より全日本空輸株式会社及び株式会社日本エアシステムにもプロトタイプ版の運用評価に参加いただき、実用化に向けたソフトウェアの開発をすすめてきました。

 このたびVer.1.0が完成しましたが、今後もユーザからのフィードバックやNALの研究成果をもとに機能拡張等開発を継続し、同ツールをエアライン各社に更に広く活用していただけるよう努力していきたいと考えています。

 なお、Ver.1.0の完成に際し、同ソフトウェアが運航安全のより一層の向上に寄与するとのことから、自社機種へのDRAP運用が本格化している日本航空株式会社及び全日本空輸株式会社それぞれの社長よりNALに対して感謝状が贈られました。また、株式会社日本エアシステムについても、すでに導入している米国製アニメーションソフトウェアに加え、DRAPの対応機種拡張作業に併せて平成14年度からDRAPの自社機種への導入を本格化する予定です。

日常運航データ再生ツール・DRAP(Data Review and Analysis Program)について

 DRAPは、旅客機に搭載されたデータ記録装置によって取得された飛行データをアニメーション表示するためのソフトウェアである。このソフトウェアは、DFOM (Daily Flight Operation Monitoring)やFOQA (Flight Operational Quality Assurance)(注)等、日常運航から得られた飛行データをパイロットその他へフィードバックし、安全運航をより一層向上させるための活動に利用されることを目的としており、これまでに航技研で行われた飛行実験、データ処理、飛行シミュレーション、コックピット・インターフェイスなどに関する研究成果を統合する形で開発している。
 1999年からの開発当初より日本航空DFOMグループと共同で開発作業を実施し、日本航空からは特にソフトウェアの仕様やバグの発見・改修提案などユーザ側からのアドバイスを受けてきた。また、2000年春から同社に、2001年春からは全日本空輸及び日本エアシステムにもプロトタイプ版の運用評価への参加を依頼し、Ver.1.0の完成に向けてソフトウェアの開発を継続してきた。

■ 日常運航データのフィードバック
  • 現在、我が国を含め、各国の大手エアラインを中心に、 FOQAあるいはDFOMと呼ばれる安全活動が導入されている。
  • FOQAは、運航会社自身による安全モニタにより航空安全の一層の向上が可能になるものと、欧州の航空当局をはじめ、FAA(米連邦航空局)やJCAB(国土交通省航空局)等にも注目されている活動である。
  • 我が国においても大手エアラインを中心に、各社の機体にデータ記録装置を装備するとともに、ほぼすべての運航において数百項目にわたるデータを計測して分析、評価を行っている。そして、例えば降下率が各社が定めた許容値を超えたなどといった事象が生じた場合や、パイロットが自己研鑽の目的でデータの閲覧を希望した場合に、将来の運航安全強化の目的でパイロットにその情報をフィードバックするといった活動が行われている。
  • 飛行データをフィードバックする場合、これまでは、主にグラフ・プロットや数値および文章を媒体としてパイロットにフィードバックされていた。
  • DRAPはこの飛行データをアニメーションで表示できるため、パイロットが飛行後に自身の飛行状態を直感的にレビューすることが可能となる(図1)。

図1 日常運航データのフィードバック
■DRAPの機能及び特徴(表示例 図2参照)

主な機能:

  • 飛行データの3次元アニメーション表示
    (コックピット視点からの)外視界表示、機体外部表示及び計器表示ウインドウにより飛行データをアニメーション表示する。また、水平面内の飛行軌跡を表示する2次元マップ機能及び操縦入力表示機能を有する。
  • 日本国内3次元地形表示
     国内の地形及び滑走路の諸元がデータベースとして用意され、特定の滑走路への離陸、着陸時のアニメーションを表示することができる。
  • 離陸、着陸、巡航及び着陸復行時の機体位置推定
     機上で記録された飛行データをもとに、アニメーション描画用の機体位置データを再構築するアルゴリズムを有する。
  • 垂直及び水平方向の風向風速精密推定
     機体の空力特性データを用い、垂直及び水平風を精密に推定し、計器上に表示する。機上の計器には表示されない、より正確な風の情報をレビューすることが可能となる。

特徴:

  • ボーイングB747-400、 B777及びB767のデータに対応可能である。(今後他機種へ拡張予定)
  • DRAPプログラム本体と飛行記録その他の航空会社固有のデータベース部分とは分離した構造である。(飛行データその他は航空会社自身が管理する。)
  • Windows NT、 2000、 Me、 XP及び98上で動作する。

図2 表示例

(注)FOQA/DFOMについて

  • FOQA/DFOM とは、QAR(Quick Access Recorder)等の機上のデータ取得装置で日常運航データを記録し、それをパイロットの自己研鑽や運航品質向上のためのフィードバックおよび機体やエンジンのモニタリング等整備の効率化、その他に利用し、ひいては運航にかかわるシステム全体の安全性強化に役立てるという活動である。
  • DRAPはこれらのうち、主にパイロットの自己研鑽に用いられることを目的として開発している。
  • 我が国では、日常運航データを運航品質向上ならびに運航安全の目的でパイロットにフィードバックする活動をDFOM (日本航空など)及びFOQA(全日本空輸、日本エアシステムなど)と呼称して実施している。

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