プレスリリース

航空宇宙技術研究所 このプレスリリースは航空宇宙技術研究所(NAL)が発行しました

次世代超音速機エンジンの燃焼器試験において、
巡航時のNOx排出低減目標を達成


平成14年9月12日
航空宇宙技術研究所

 独立行政法人航空宇宙技術研究所(NAL)と超音速輸送機用推進システム技術研究組合*1は、経済産業省/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)支援による環境適合型次世代超音速輸送機用エンジンの技術研究を目的とするESPRプロジェクト*2の一環として超低NOx(窒素酸化物)燃焼器技術の研究開発を進めています。

 本年6月上旬、NALの高圧高温燃焼試験設備(写真1)において、メインバーナに最新形態のプレミキサーを使用したセクター燃焼器*3の評価試験(写真2)を実施しました。この試験で、ESPRプロジェクトのNOx排出低減目標である、最もNOxの生成される巡航時(飛行マッハ数2.2)の燃焼器作動条件において燃料1kgあたりのNOx排出量5g*4を達成しました。さらに、パイロットバーナにも改良を加え、7月上旬に実施した評価試験では、NOx排出量が燃料1kgあたり3.8gにまで削減されました。また、離陸や進入・着陸で想定される燃焼器作動条件での排出も、現在の亜音速ジェットエンジンの10分の1以下*5という優れた結果を示しました。
 この評価試験の結果から予想される次世代超音速機の巡航、離陸、進入・着陸、アイドルでのNOx排出量を現在の亜音速機及び超音速機(コンコルド)と比較したのが図1です。いずれの条件でも、大幅な低減が期待されます。

 上記の燃焼器には、プレミキサー(写真2、右)により、燃焼器に流入する空気流中に液体のジェット燃料を霧状にして混ぜ、燃料粒子をほぼ蒸発させて燃焼させることで、高温燃焼でもNOxの生成を抑制できる予混合予蒸発方式*6を採用しています。

 目標のエンジンでは、燃焼器への空気温度と圧力は、巡航時には640℃、11気圧、離陸時には540℃、22気圧にも達し、その時の燃焼ガス温度は1660℃になります。このような温度、圧力の高い条件では、プレミキサー内で燃料と空気とを混合する間に燃料に火がついてしまう自発点火や、燃焼室からプレミキサー内へ火炎が侵入する逆火という望ましくない現象が起きやすくなり、最悪の場合にはプレミキサーや燃焼器ライナが焼損してしまいます。
 燃料が噴射されてから自発点火が起きるまでの非常に短い時間(1000分の1秒のオーダー)内に燃料を蒸発させるための高度燃料微粒化技術や逆火の原因となる淀みや逆流を起こさないで燃料と空気とをよく混合するプレミキサーの開発により、NOx排出削減の目標を達成することができました。

 今後、来年度予定されているアニュラー型燃焼器試験及びエンジン試験*7に向け、さらに研究を進めます。
 ここで開発された超低NOx燃焼技術は、亜音速機用エンジンはもちろん、液体燃料を使用する発電用ガスタービンの燃焼器にも適用できるもので、NOxの大幅な削減の有効な手段と期待されます。

写真1 高圧高温燃焼設備
写真2 セクター燃焼器
図1 燃料1kgあたりのNOx排出量(g)



用語の解説

*1
我が国のエンジンメーカ三社、石川島播磨重工業、川崎重工業、三菱重工業で構成する研究組合。
*2
環境適合型次世代超音速推進システムに必要な技術開発を目的とした研究プログラム。名前の通り、NOx、CO2などのエンジン排出物の削減、騒音削減が最重要技術課題となっている。
超音速輸送機用推進システム技術研究組合、航空宇宙技術研究所、産業技術総合研究所、及び欧米エンジンメーカ4社(ロールスロイス(英)、ゼネラル・エレクトリック、ユナイテッド・テクノロジーズ(米)、スネクマ(仏))で研究体を構成。
*3
航空機用エンジンには、環状燃焼器(アニュラー型燃焼器)が使われる。このアニュラー型燃焼器を周方向に分割した扇形の燃焼器をセクター燃焼器と呼ぶ。
*4
超音速機のエンジンから排出されるNOxは成層圏のオゾン層を破壊する可能性があり、その大幅な低減は次世代超音速機が受け入れられるに不可欠な重要技術課題である。超音速機排気の地球大気影響シミュレーションによると、300人乗りの超音速機が500機運行されるというシナリオでは、巡航時のNOxの排出が燃料1kgあたり5g以下であれば、高さ方向のオゾンの減少が1%以内に抑えられると予測されている。この値をクリアすることが、次世代超音速機エンジン開発の前提とされ、ESPRプロジェクトにおいても低NOx燃焼技術研究の目標とされている。なお、コンコルドの場合、巡航時のNOx排出量は燃料1kgあたり18gである。
*5
この低NOx燃焼技術は、現在の亜音速機のエンジンにも設計変更により適用できるもので、想定エンジンとほぼ同程度の条件でのエンジンであれば、離陸時のNOx排出も著しく低減できることが期待される。なお、ジャンボジェットの場合燃料1kgあたり45g程度で、最新のボーイング777の場合にはエンジンによっては燃料1kgあたり50gを越える。
*6
現在使われている燃焼器では、燃料は燃焼室のすぐ入口で霧状にされ、燃焼室内で空気と混合される。燃料の粒は蒸発を始め、その燃料蒸気は空気と混ざって燃焼する。これらの過程は燃焼室内で同時並行で進むこととなる。一方、予混合予蒸発方式では、燃料は燃焼室の上流に設けられたプレミキサーとよぶ管状の流路の入口で霧状にされ、そこを流れる空気と混合される。燃料の粒は蒸発し、その燃料蒸気は空気と混ざり、混合気となる。このようにしてできた混合気は燃焼室に入って燃焼する。このように燃料の蒸発、燃料蒸気と空気との混合が、燃焼室に入る前に起きるようにしていることから予混合予蒸発方式と呼ばれる。燃料が完全に蒸発し、その蒸気が空気とよく混ざっていることが重要である。
*7
来年度、ロールスロイス社、ダービー工場において同社の大型燃焼試験設備を用い、今回試験したセクター燃焼器を周方向に16個配置したアニュラー型燃焼器の評価試験が予定されている。このアニュラー形態での試験は、次世代超音速機エンジンの超低NOx燃焼器の試験としては世界最初となる。
一方、国内においては、高温技術実証用エンジンに装着した試験が予定されている。

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