独立行政法人航空宇宙技術研究所風洞技術開発センターは、8月9日付で品質マネジメントシステム(QMS:Quality Management System)の国際規格であるISO9001(2000年版)の認証を取得いたしました。
風洞技術開発センターは、航空宇宙技術研究所の独立行政法人化を機に新しく設けられた風洞設備を統括する部門で、風洞の利用に関する技術を標準化する活動の一環として、風洞試験の実施及び試験データの提供に関する品質マネジメントを推進しています。今回の認証取得により、風洞技術開発センターはQMSの構築を完了し、今後はQMSの運用並びに継続的な改善を通して、風洞試験ユーザに満足のいく風洞設備の運営を目指して行く所存です。
今回構築したQMSは、風洞技術開発センターが管理する9つの風洞において実施される風洞試験に適用され、結果として得られる「試験データ」を顧客(ユーザ)に供給する「製品」に位置づけています。QMSは、試験データを生産するための風洞試験の実施手順を規定するほか、インフラストラクチャーとしての風洞設備の維持・管理や、試験に関連する文書や記録の管理についても要求事項を定めています。風洞技術開発センターのQMSで特徴的なのは、試験に関する情報セキュリティもシステムに組み込んだ点です。情報セキュリティはISO9001の規格要求事項ではありませんが、風洞ユーザからの直接的なニーズに応えています。
風洞技術開発センターは、QMSの構築を通して技術ノウハウの文書化や標準化を実施するとともに、顧客満足度の向上や是正・改善といった、風洞業務に対する各担当者の意識改革を実現しました。また、QMSに基づく風洞運営を行うという点で、米国のNASAを始めとする諸外国の代表的な風洞保有機関とも肩を並べることになりました。
今回の認証取得における認定機関及び審査登録機関、認証範囲は次の通りです。
なお、風洞技術開発センターの品質マニュアル(QMSを定めた文書)は、航空宇宙技術研究所のホームページ(http://www.nal.go.jp/)にて公開する予定です。
ISO9001は、品質マネジメントシステムの要求事項を定めた国際規格です。ISO9000(基本及び用語)、ISO9004(パフォーマンス改善の指針)とともにISO9000ファミリーと呼ばれています。ISO9000ファミリーは、経済活動の国際化の中で、国や組織によって品質保証の考え方が異なり、モノやサービス(製品)の自由な流通の妨げとなることを防ぐために制定されたものです。現在のISO9000ファミリーは2000年12月に発行されたもの(2000年版)で、1994年版では6つだった規格(ISO8402, ISO9000-1, ISO9001, ISO9002, ISO9003, ISO9004)が改訂され、3つの規格に再構成されたものです。ISO9000ファミリーは、発行以来100ヶ国以上で国家規格として採用されており、日本でもJIS Q 9000ファミリーとしてISO9000ファミリーの完全一致規格が制定されています。
規格というと、ネジの形状・寸法のような「物」を連想しがちですが、ISO9000ファミリーは、マネジメントシステムという「組織」の概念を対象とした規格です。また、1994年版では「製品」の考え方が製造業者の作る製造品であり、品質が「モノ」に重点を置いた内容であったものが、2000年版では「製品」の定義がサービス業などにも適合するような広い意味に置き換えられ、品質もより広い意味での「質」を意味するようになりました。
ISO9001の特徴は、マネジメントシステムに対する要求事項を規定する一方で、それを実現するための手段を規定していない点です。これはこの規格が画一的なシステムを強制するものではなく、各組織の実体にあったシステムの構築を許容することを意味しています。
製品やプロセスなどが特定の規格などの要求事項に適合していることを第三者が審査し、証明することを一般に「認証」(certificate)といいます。ISO9001に基づく品質マネジメントシステムに対しては、認証のための審査登録制度が運営されています。この制度は、組織の品質マネジメントシステムがISO9001の要求事項に適合していることを審査登録機関が審査し、適合していればその組織を登録し、公表するものです。審査を行う審査登録機関は、この制度を運営する国毎に設けられた認定機関(Accreditation Body)によって認定・登録され、公表されています。日本では(財)日本適合性認定協会(JAB)が認定機関として1993年11月に設立されました。
ISO9001の認証は、どこの審査登録機関によって審査が行われたかに加えて、どこの国(どの認定機関)の審査登録制度によって認証されたかが明示されます。今回の認証取得において風洞技術開発センターは、審査登録機関としてDNV、認定機関として日本のJAB及びオランダのRvAを選びました。
名称*1) | 略称記号 | 速度領域 | 特長 |
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6.5m×5.5m低速風洞 | LWT1 | 1m/s〜70m/s | 航空機用としては我が国最大の連続循環式風洞です。通常の機体やヘリコプター、飛行船などの試験のほか、離着陸時の地面効果の試験もできます。 |
2m×2m低速風洞 | LWT2 | 3m/s〜67m/s | 測定部断面が2m×2mの連続循環式風洞です。2種類の支持方式で模型を支持できます。手ごろな大きさで使いやすい風洞です。 |
2m×2m遷音速風洞 | TWT1 | マッハ数0.1〜1.4 | 我が国最大の連続循環式遷音速風洞です。ジャンボジェット機やエアバス機などの速度域の試験ができ、毎年多くのユーザから利用申し込みがあります。 |
0.8m×0.45m高レイノルズ数遷音速風洞 | TWT2 | マッハ数0.2〜1.4 | 高レイノルズ数*2)で試験ができる間欠吹出式遷音速風洞です。もともとは、ジャンボジェット機のような航空機の翼断面形状(翼型)の試験を行う風洞でしたが、現在は全機形状の模型の試験もできます。 |
1m×1m超音速風洞 | SWT1 | マッハ数1.4〜4.0 | 測定部断面が1m×1mの間欠吹出式超音速風洞です。1999年度の全面的改修により機能改善を行いました。H-2やH-2Aロケット、宇宙往還機、SSTなどの試験に使われています。 |
0.2m×0.2m超音速風洞 | SWT2 | マッハ数1.5〜2.5 | 我が国唯一の連続循環式超音速風洞です。測定部断面は0.2m×0.2mです。運転しながらマッハ数を1.5から2.5まで連続的に設定できます。 |
1.27m極超音速風洞 | HWT1 | マッハ数10 | ノズル出口直径1.27mを持つ世界最大の吹出真空吸込式極超音速風洞です。マッハ数の変動が±0.3%以内となる高い気流の質を維持しています。スペースプレーンや宇宙往還機などの高精度な熱・空力試験ができます。 |
0.5m極超音速風洞 | HWT2 | マッハ数5, 7, 9, 11 | 風洞の形式は1.27m極超音速風洞と同じですが、ノズル出口直径は0.5mの大きさです。マッハ数が4通りに設定でき、広範囲な試験ができます。 |
0.44m極超音速衝撃風洞 | HST | マッハ数10,12 | ノズル出口直径0.44mの間欠式極超音速衝撃風洞です。データが取れる時間は2ms〜40msと短いのですが、約15分に1回の頻度で効率よく、また低コストで試験ができます。 |
*1) 各風洞の名称にある寸法は測定部の大きさを示す。極超音速風洞、極超音速衝撃風洞の測定部は円形断面(直径)、他は矩形断面。
*2) レイノルズ数は流れの相似パラメーターです。風洞では実機よりも小さい模型で試験を行いますが、このパラメーターの大きさを一致させて試験を行えば、模型まわりの流れの状態を実機の流れと相似にできます。