宇宙開発事業団
本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
本調査は、アジア太平洋域アセアン諸国を対象に衛星データ利用のニーズを把握し、今後の地球観測プロジェクトの計画立案および、宇宙利用の活性化につながる方向性を見いだすことを目的に、宇宙開発事業団が平成14年度に三菱商事株式会社に委託し、10月末日に調査結果を受領したものである。
第一回目: 平成14年6月25日から7月23日
第二回目: 平成14年9月12日から10月3日
本調査にて対象にしたアセアン各国における現地調査訪問先については、従来関係を継続してきている科学技術関連・宇宙関連機関にとどまらず、さまざまな分野における利用機関より訪問先を選択した(各国訪問機関一覧を参照)。
本調査は各国において選定した機関を訪問し、終始インタビュー形式で実施した。
その内容としては、現地訪問先・機関において直面している「問題」、現在の問題への「対処方法」や、将来的に必要と考えられる「今後の要望」、「宇宙技術の活用への期待」について意見聴取を行った。
タイ | インドネシア | フィリピン | マレーシア | ベトナム | |
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地図作成分野 |
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環境監視分野 |
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災害監視分野 |
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農業・漁業分野 |
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その他 |
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1990年代のアジア通貨危機を契機に、食料不足を解消する目的で短期的に食料を補ったり、人間の命に直接かかわる医薬品・医療プロジェクトなどの刹那的な緊急支援・物資配給支援が主流となっているが、アジア太平洋域諸国が本当に日本政府に対し望んでいることは、ひとたびアジア太平洋域諸国における国民がその技術・使用方法を理解、習得すれば継続的に、幾度も繰り返し使用できるインフラ基盤(設備・機器を含む)整備であることが本調査を通して明らかになった。
アセアン諸国にて、ある地球観測衛星を対象に受信・処理・解析設備を整備することを計画・実施し、その衛星情報を対象に技術的トレーニングを施しても、対象とした衛星の寿命が到来した時点で、「ふりだし」に戻ってしまうという状況では、斯様なインフラ基盤整備に踏みきれない。アジア太平洋域諸国が望んでいるのは、長寿命衛星というよりも、衛星の寿命を想定し、同じ目的を持った次期衛星が準備されており、継続的に打ち上げられ、観測を継続するという情報の継続性である。
衛星情報といっても、アセアン諸国が特に求めている情報は継続的で途切れることがない(リアルタイム性を有した)地球観測衛星情報である。一日に数回とか、一週間に数回といった衛星観測情報では、地上における「緊急対応」には不十分で、常にリアルタイムな衛星情報が継続的に受信・処理・解析される環境が必要であると考えている。特に、人命にかかわる災害時(例えば、洪水・地すべり・火山噴火・地震など)には、正確で且つタイムリーな衛星情報の活用が切望されている。
アセアン諸国が、衛星情報を利用していくに当たり一番の悩みのタネは「衛星受信料及びデータ購入料が高く、支払えないこと」にある。アセアン諸国における利用も含め、世界中で、誰にでも幅広く利用される衛星情報を無料或いは無料に近い適切な価格で提供していくことが期待されている。
継続的な地球観測を確実に進める。特に、有償、無償いずれでも良いが、既に社会インフラに組み込まれている気象衛星サービスの継続は保証されなければならない。
衛星に要求される仕様は以下のとおりである。
人材の育成、技術の継承、利用技術の政府機関や一般への普及広報を目的とする衛星技術実利用パイロットプロジェクトを継続しこれを通して実生活に役立つ宇宙技術利用とそのためのツールの開発を行う。このようなパイロットプロジェクトの実施はアセアン諸国で要望が強く、また過去のパイロットプロジェクトにおいても成果をあげており、今後も継続すべきである。
既にアーカイブ構想やAPANなどのデータインフラの整備が進みつつあるが、アジア諸国ではそれぞれの国内におけるデータ伝送インフラの整備に遅れがあり、わが国とナショナルノードとの接続までしかその恩恵を受けられない状況にある。一方で衛星回線を利用するマルチチャンネルTVプログラムサービスは広く普及している。これらの現状を考えると、通信衛星の空きチャンネルと既存の衛星TVを利用するデータ配信サービス等の開発(仕組みつくり、ハードウェア開発、課金の方法など)が必要である。
更新頻度やコストなどの問題から、地球観測衛星データを利用した精度の高い地図の更新が期待されている。
経済発展の犠牲にしてきた環境の保護・改善に係わる政策が重要視されており、総合的な環境の監視を実現させ、社会生活の向上を図る上でバ ランスのとれた発展を実現させることが望まれている。
毎年重大な被害をもたらす洪水や、旱魃、森林火災、台風など気象災害、地滑り、など監視を宇宙インフラからの情報を利用し効率的に実施するこ とが必要とされている。
沿岸部から保護地域や内陸部に違法移動を繰り返す養殖池の監視、漁業資源管理農業資源管理での利用が望まれている。
タイ王国にでは現在タクシン首相の下に、政府機関のリストラクチャリング、民営化等の機構改革がすすめられている。一方、毎年のように起こる自然災害の被害軽減や農業、林業、漁業の効率化等に積極的に宇宙技術を活用することを目指している。タイにおける地球観測データの利用は歴史は古いが、リサーチの域を出ることなく、データ利用も殆どがGISTDA(旧NRCT)内部とRFD(王立森林局)等の限られた機関で使用されていたに過ぎない。タクシン首相になってからGISTDAの独立行政法人化や首相指示による洪水被害の把握へのリモートセンシングの活用指示、GISの統一化などの動きが出されリモートセンシングが注目されている。
既に英国サリー大学の技術移転によりマハナコーン大学が80m分解能の衛星を打ち上げ運用しており、GISTDAも2.5m分解能の光学センサーを搭載する小型地球観測衛星の開発プロジェクトを立ち上げようとするなど自前の宇宙技術開発に邁進している。
林業、農業(土地利用図、所有地あるいは公有地の境界の明確化)、災害被害軽減支援、防災支援、森林火災の特定等の利用ニーズがある
GPSに関しては、地図環境が十分に整っていないことから潜在的需要に止まっている。社会的には自動車台数が増えつつあり、カーナビゲーションの市場が今後期待できる。また都市計画局では全国を6領域に分けて管轄しており、それぞれの領域で都市計画、経年変化の抽出等のニーズがあり、衛星画像による観測の応用範囲のひとつである。カーナビゲーション等のビジネス領域については、ディジタル地図の整備が重要で、民間企業であるESRI社はカーナビ利用要求に応える道路情報のデータベースを保有しており、これを海外企業に販売していると言っているが、別情報では世界標準のカーナビ用地図の規格を満たす精度が得られていないとの話もあり、まだ今後のビジネスチャンスはあるものと考えられる。
通信についてはタクシン首相が起こしたシン衛星社(Shin Satellite)が通信事業を独占しており、ブロードバンド通信、放送衛星業務等を掌握している。インターネット環境に関しては現在最高速度のサービスが128kbps程度でわが国のブロードバンドに比べて遅くしかもコストが高いという問題がある。衛星通信を利用した僻地との通信は積極的に展開しようとしている。
現在使用されている国家地図は、数十年前に作成されたものがベースとなり、正確性が疑問視されており、また、近年の都市化及び港湾開発に利用出来る高精度の国家地図の作成が望まれている。
大気汚染、工業地域排水・生活排水・農業排水が原因の水質汚染、不法投棄による土壌汚染の監視、マングローブや珊瑚礁の管理・監視、森林保護区における不法伐採の監視が望まれている。
大規模な森林火災、洪水、油流出、海難事故の監視が望まれている。
農業土壌の管理や、客観的統計の整備、海洋汚染監視と水産資源保護ならびに、離島間通信の確立が望まれている
インドネシア共和国における2回の調査の結果を踏まえて、彼らの宇宙技術を利用したインフラストラクチャのイメージを描くと下図に示すようになる。宇宙技術は地球観測、GPS、通信の分野が考えられる。地球観測はインドネシア共和国が火山国で地震の被害を受けること、石油産出国であること、人口密度が高いことなどから潜在需要は大きいがあまり活用されていないことが特徴としてあげられる。また一人あたりのGDPが低いことから車社会には到達しておらず現地におけるカーナビ・測地関連の要望は低い。しかし、漁業関連等の問題(資源の確保と違法漁船の把握取締り)等で衛星利用のニーズが認められる。
地球観測の利用範囲は地図作成、林業、農業(樹種分類図、土地利用図、土壌図の作成)、災害被害軽減支援、防災支援、環境(オイルスピルの監視と不法投棄の監視)、森林火災の特定、ガス石油等の資源探査支援、漁場予測と違法漁船の監視等の利用ニーズがある。
GPSに関しては、ディジタル地図環境が十分に整っていないことから潜在的需要に止まっている。但し国民所得の高さから自動車社会を向かえつつあり、カーナビゲーションの市場が今後期待できる。GISは情報を必要とする機関がそれぞれ独自の規格でデータを作成している状況である。
通信は国土が北米大陸に匹敵する広がりを持っているので早くから自国の通信衛星を保有しているが、ブロードバンドの情報通信に耐える容量を持っていない。コンピュータの利用も徐々に浸透している状況であるので僻地等での情報伝達手段として通信衛星の需要は認められる。
雪崩以外のすべての災害が起こると言われており、年間20近く発生する 台風による洪水被害、乾季の旱魃、火山噴火・地震の被害などを軽減することが望まれている。
防災分野でも必要となるハザードマップと、国土の精密な地図の整備が望まれている。
ゴミの不法投棄などによる環境問題や、海洋汚染、貴重な飲料水の確保にもつながる水質汚染管理での利用が望まれている。
災害時などに利用出来うる、安価な移動体通信、インタラクティブな遠隔教育、福祉・厚生面では医療教育及び遠隔医療の実現が望まれている。
フィリピン共和国における2回の調査の結果、同国が災害、貧困、環境問題を抱えていることを踏まえて、問題解決のための宇宙技術を利用したインフラストラクチャのイメージを描くと下記イメージ図のようになる。宇宙技術は地球観測、GPS、通信の分野が考えられる。
地球観測の利用範囲は地図作成、林業、農業(分類図、土地利用図、土壌図の作成)、災害被害軽減支援、防災支援、環境(オイルスピルの監視と不法投棄の監視)、ごみ不法投棄、各種環境汚染(特に水汚染)監視等の利用ニーズがある。
GPSに関しては、地図環境が十分に整っていないことから潜在的需要に止まっている。
フィリピン共和国では主要な島の間をマイクロ回線で結ぶ基幹通信線は存在し、この数年の間にその基幹線も光ファイバーに置き換えられようとしている。また、電話による文字情報伝達が課金制度の影響もあって極めて盛んである。このような状況で通信衛星の需要はブロードバンド通信を除いてはあまり大きくはないと考えられる。
各種目別の農作地管理、土壌分類調査、また、輸出品としてパーム油や高級木材に係わる森林管理が望まれている。
不法投棄による海洋油汚染の監視と、工業化に伴う水質汚染の対応が望まれている。
森林火災、オイルスピル監視が望まれている。
天然資源開発における利用が望まれている。
マレーシアにおける2回の調査の結果、同国がIT corridor計画を推進しておりその中でe-government, tele educationなど技術立国を目指す動きをしていることを踏まえて、彼らの宇宙技術を利用したインフラストラクチャの要望イメージを描くと下図に示すようになる。宇宙技術は地球観測、GPS、通信の分野が考えられる。
地球観測の利用範囲は地図作成、オイルパームファームの管理(生産者側、政府徴税側双方)、林業、農業(土地利用図、土壌図は出来ているのでその先の管理農業)、災害被害軽減支援、防災支援、環境(オイルスピルの監視と不法投棄の監視)、森林火災の特定、ガス石油等の資源探査支援等の利用ニーズがある。
GPSに関しては、地図環境が十分に整っていないことから潜在的需要に止まっている。但し国民所得の高さから自動車社会を向かえつつあり、カーナビゲーションの市場が今後期待できる。
通信に関しては既に通信衛星を保有しており、色々な場面で使用している。しかし十分利益を上げていると考えられるPETRONASのような会社においても、通信衛星回線の利用はコスト面で難しいと答えていることから、通信コストが経済事情に比べて高いという感じは否めない。
マレーシアはAstronautic Technology社が外国企業等と共同で衛星開発を進めており、既にサリー大学からの技術移転プログラムによる80m分解能の地球観測衛星や低軌道傾斜角のコンステレーション衛星による通信及び地球観測衛星構想、韓国との共同開発による2.5m分解能の光学カメラ等の計画を推進中である。この分野での技術蓄積のあるわが国企業からの積極的アプローチが必要である。これらの動きを活性化するためにはタイやインドネシアでNASDAが実施してきたNASDA衛星画像を利用するパイロットプロジェクトの実施により利用技術と関連ツールの整備が必須である。
森林火災及び台風等による洪水の被害が深刻であり、また山岳地帯での地 滑り、中央部高地における旱魃等の自然災害も多い。その中でも、毎年多数の死者をもたらす洪水監視が急務と思われる。
土地利用や盆地開発に求められる精度の高い土地利用図の作成を必要としており、国内61県の地図の完成が望まれている。
沿岸監視、漁場探査及び違法操業船の発見が望まれている。
都市環境の監視(大気汚染、土壌汚染監視)、地球温暖化など気候変動の監視、農林環境管理、漁業資源環境管理が望まれている。
ベトナム社会主義共和国における2回の調査の結果、同国が新たに環境省を設置し環境問題、GIS等に衛星技術を活用する技術立国を目指す動きをしていることを踏まえて、彼らの宇宙技術を利用したインフラストラクチャのイメージを描くと下図に示すようになる。宇宙技術の利用は地球観測、GPS、通信の分野が考えられる。
地球観測の利用範囲は地図作成、環境監視、林業、農業(森林樹種分類、土地利用図、土壌図)、災害被害軽減支援、防災支援、環境(オイルスピルの監視と不法投棄の監視)、森林火災の特定、ガス石油等の資源探査支援、漁業支援と違法漁船の監視等の利用ニーズがある。
GPSに関しては、地図環境が十分に整っていないことと車社会に入っていないことから他国とは異なる展開となる。
通信コストは他国に比べ異常に高く、特に国際通信は禁止的価格設定となっている。通信インフラの設置にも法律的制約がありインフラ整備は将来の問題である。しかしながら、このような貧弱な通信回線によっても既にインターネットアクセスが可能で、政府機関にもインターネットを活用してウェブサイトを開設しているところもある。また政府の研究機関ではソフト開発で欧米諸国と肩を並べる実力を有するところもあり技術レベルには期待が持てる。
サリー大学の小型衛星シリーズの導入による自前の衛星保有の話もあるが、実行には至っていないようである。地図関係での衛星画像利用が始まっているがフランスSPOTの影響が大きい。しかし本音レベルではフランスを嫌っているという話も聞かされ複雑である。NOAA、MODIS受信はロシア企業の製品を使用している機関もある。
ベトナム社会主義共和国における宇宙関連事業の展開は彼等側の心情を理解して進めないと挫折する恐れがある。