宇宙開発事業団
本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
平成15年9月8日(日本時間)に、米国航空宇宙局(NASA)が公表した「NASA飛行再開実施計画書(以下「実施計画書」)」(NASA's Implementation Plan for Return to Flight and Beyond)の概要を報告する。(実施計画書の目次を下記に示す。)
実施計画書の「概要」の仮訳を下記に示す。
ここには、シャトル飛行再開に向けた実施計画に関するNASAの考え方が、コロンビア号事故調査委員会(CAIB)の指摘した主要(key)な3項目の所見(NASAの体制・文化・組織的問題、安全な飛行再開に対する要求事項、技術的卓越性の強化)に基づいて記載されている。
実施計画書の「NASAの対応概要」のうち、第1部(CAIB勧告に対するNASAの対応)の仮訳を下記に示す。
ここには、CAIBの勧告(Recommendation)に対するNASAの具体的な対応内容の概要が、CAIB最終報告書中の勧告にさせて記載されている。
コロンビア号事故調査委員会(CAIB)の報告書は、シャトル飛行再開に向けて我々の活動を推進するためのロードマップをNASAに提供してきた。CAIBはその入念な作業を通して、事故の原因を突き止め、スペースシャトル計画の安全性を向上させるための一連の包括的な勧告を提供してきた。NASAはCAIBの所見を受け入れ、我々は委員会の勧告に従うつもりであり、そして報告書とそこに含まれる全てを採用する。この実施計画(Implementation Plan)は、CAIBの勧告に対応し、安全に飛行再開するためにNASAがとる方針についての要点をまとめたものである。
CAIBはその所見において、次の3つの事項に焦点を当てた:
本概要は、これら3つの事項に対するNASAの主要な対応に関して述べるものである。
CAIBは、NASAの歴史と文化が、技術的な失敗と同様にコロンビア号事故の原因となったと判断した。NASAは、その文化を改善し、積極的な改善措置のとれる分野を特定し、明確にするために綿密な評価を続行する所存である。このことを行うために、NASAは、
コロンビア号の事故の物理的な原因は、外部燃料タンクの左側バイポッド支柱からの断熱材の破片が左翼前縁部の下面に衝突し、裂け目(breach)が生じたことによって再突入の間に過熱した空気が侵入し、翼構造を破壊したことである。この問題を解決するために、NASAは上昇中の危険な破片を特定して取り除くとともに、安全性を向上させるため他の重要なリスク低減の努力を行う。
NASAは、危険な破片の除去という根本的な課題を超えて、安全な飛行に向けて他のリスクの発生源をさらに十分に理解し、予測するためにシャトルのシステムをより深く調査していく。特に、我々はシャトルの老朽化による既知の潜在的な欠陥を評価し、シャトルの状態を軌道上で評価してシャトルの損傷に対応する能力を向上させる。
NASAは打上げ中の予期せぬ破片を発見し、ミッション中の一般的技術情報を得るために、画像とその他のデータを使用している。試験飛行を行うための基本的な前提は、異常を発見するための総合的な機体動作の視覚的な記録である。スペースシャトルは常に開発途上の輸送手段であるという新たな理解が得られたことによって、我々はスペースシャトルに関する運用データを収集する能力を向上させていく。
(訳者注:下記事項はタイトルのみ。具体的内容は略)
もしコロンビア号への損傷の程度が打上げ中または軌道上で検知されていたならば、NASAはクルーを救出するために可能なこと全てを実行したであろう。将来には、我々は軌道上での問題に対応するためのより広範な選択肢を提供する計画、手順、および装備を整えて飛行を行うことになる。
CAIBとNASAは、事故への関係の有無に関わらずNASAの技術が不足している分野を事前に識別しておくため、コロンビア号の悲劇の直接原因の他にも広範に調査を行ってきた。
CAIBは、勧告の一部が飛行再開の前に実施されるように指示した。他の項目は、有人宇宙飛行プログラム全体を改良するための継続的で長期的な作業である。我々は引き続きプランを改善していくと同時に、それらを実施するための予算を確保する。NASAは、選定されたオプションを全て評価し、実施中の試験活動の幾つかを完了するまで、飛行再開(Return to flight)のために勧告されるハードウェアとプロセス変更の全てとその費用を、明確に決定することはできないであろう。
コロンビア号の事故は集積したfailure(訳者補足:和訳としては「不首尾、不履行、故障」など)によって引き起こされたが、同様の意味合いで、我々の飛行再開は集積した努力の成果でなくてはならない。NASAの全ての人が、この報告書で詳述された対策を立て、維持し、そして実施するという責任を共有している。我々が、この実施計画にある変更を喜んで受け入れ、保持し、実施し続けるという挑戦に立ち上がることにより、故郷地球(home planet)を理解し保護する、宇宙を探査し生命を探索する、次世代の探検者を鼓舞する、というNASAの使命達成を確実なものにするであろう。
以下に、コロンビア号事故調査委員会(CAIB)の勧告に対するNASAの対応概要を、報告書中の順序に従って示す。我々が飛行を再開する前までに、"RTF"(訳者注:Return to flight)と識別されたアクションを満たさなければならない。各々の回答の具体的な詳細は、この実行プランの次のセクションで詳述する。この計画はまだ最終版ではなく、定期的に更新する予定である。これらの勧告を実施し、CAIBの報告書をさらに詳しく検討していく過程で、対応をさらに完全なものにしていくことができるであろう。CAIBの勧告を踏まえたプログラムマイルストンによって、飛行の再開時期が決まってくる。
コロンビア号の事故の直接的な原因は、打上げの際に外部燃料タンクから剥がれ落ちた破片であった。それを受けて、我々は氷、断熱材などを含む外部燃料タンクに起因する破片を最小限にすることに専念した。現在、スペースシャトル・プログラム(SSP)は外部燃料タンク全体の熱防護システム(TPS)の設計を見直し、上昇中に破片が落下する可能性を検証している。特に以下の項目に重点を置く。
NASAは、破片による損傷に対してシャトルを強化するための改良設計を検討している。2003年の4月、NASAは、リスクの低い短期的なものからリスクの高い長期的なものまでを含めて、17の改良設計の候補を挙げた。そのうちの8つの短期的候補を選んで、各々について詳細な実現性の検証を行っている。
さらにNASAは、衝撃に対する耐性を決定し、衝撃による破損を正確に予測するためのコンピュータ・モデルを作成するために、RCCとタイルに対して断熱材による衝撃試験を行っている。
NASAは、飛行再開の前にすべてのRCCのコンポーネントとハードウェアについて、正式に承認された手順で検査を施すことを確約している。短期的な対策として、いくつかの部品を選択して取り外し、それをメーカに送り返して総合的な非破壊検査(NDI)を実施させる。長期的な対策として、スペースシャトル・プログラムは機体のRCCシステムの部品の検査基準と非破壊検査技術を点検している。たとえば、既にフラッシュ・サーモグラフィー (off-vehicle flash thermography)を導入した。そして、機体上で行う非破壊検査(on-vehicle NDI)の開発も継続して行う。すでに近い将来実施できる可能性の高い候補が5つ判明しており、実施に向けて推進されている。
NASAの短期的なリスク緩和策として、外部燃料タンクから危険な破片剥離を無くすという案、地上及び機体上に破片による機体損傷を発見するためのカメラを配備する案、シャトルやISSの遠隔操作システム(RMS)カメラを用いて軌道上の機体を観察する案、さらに、シャトルがドッキングのためにISSに接近する際にISSのクルーに機体を観察させる案などが検討されている。また、短期的な改善活動として、タイルやRCCの修理を行うための船外活動の検討が行われている。このような、新しい能力の組み合わせにより、何らかの損傷が発生した場合、それを発見し速やかに対処することができるようになるであろう。NASA の長期的な目標は、すべてのシャトルのミッションにおいて、熱防護システムの修理能力を持たせることである。
スペースシャトル・プログラムは、設計上の制約を考慮しつつも、機体が最小限の損傷で大気圏再突入が行える能力の評価を行っている。NASAはRCC 断熱材衝撃試験、アークジェット試験、および風洞試験により軽微な損傷、重大な損傷を定義し、認証上許される範囲内で飛行計画を変更し、現在行われている飛行承認規定を拡大する方法を検討している。さらに、翼の前縁部の構造に対する熱を緩和するために飛行経路の変更の検討も行っていく。
スペースシャトル・プログラムは、現在、飛行したRCCと飛行していないRCCの特性の総合的なデータベースを開発するために、RCCの試験計画を作成し、実施している。この複数組織にまたがるチームは、継続的に試験計画の更新を行い、設計の更新、ミッションや寿命の調節、その他翼の前縁部の構造やRCCの寿命に関する重要な事項を支援していく。
NASAは、衝撃に対する耐性を見るためにRCCとタイルに対して断熱材による衝撃試験を行うとともに、衝撃による破損を正確に予見するためのコンピュータ・モデルの作成を行っている。
環境によるさびを防止するために、発射台には亜鉛含有量の多いコーティングが用いられている。飛行再開前に、NASA のケネディ宇宙センターでは射点の保守方法を改良し、RCCが酸化亜鉛に曝される度合いを減らし、亜鉛に起因するピンホールの形成を防止する対策を施す。さらに、検査の改良、構造物の保守管理、洗浄、構造物の保護、抜き取り検査などを強化している。
スペースシャトル・プログラムでは、飛行用に予備パネルの完全なセットを維持管理することとする。さらに、プログラムの長期的な使用を支持するために、追加の予備パネルを調達する必要があるかどうかも決定することとする。
断熱材の衝撃試験から、既存のコンピュータ・モデルを改良する必要のあることが明らかになった。NASA は、ミッションの安全性や成功に対して重要な査定を与える飛行前や飛行中のすべての解析ツールの適性を評価し、さらに、すべての必要な改良を行う。
NASA および米国空軍は、打上げ過程を視察するための地上設備の使用を改善することに取り組んでいる。スペースシャトルミッションの安全性を確保するために、さまざまな静止画と動画の機能について、静止画と動画の両方に最適なカメラ位置について、昼夜の受像可能範囲や、生中継と録画した画像について、および最低限の天候条件について、合同で評価を行っている。
NASA は、打上げに備えて、どのように設備を組み合わせるかを決定するが、その選択基準は、損傷の検出やエンジニアリング評価の機能を向上させることを確実にする。STS-114 では、日中に打上げを行い、点灯して外部燃料タンクを分離することにした。これによって、上昇中に3種類の有用なカメラによる画像を最大限に撮影することができ、エンジニアリング上重要な領域を特定することができる。
外部燃料タンク (ET) の分離後の画像をヒューストンのミッションコントロールセンターにダウンリンクできるように、NASA は機体のアンビリカルカメラの修正オプションの評価をすることとする。これらの画像を地上へダウンリンクするのが、リアルタイムで行われるか、あるいは安全軌道の確保後すぐに行われるかは、選択オプションによって決まる。STS-114 から開始してこれらの修正が完了するまで、フライトクルーは外部燃料タンクの分離を記録し、ミッションコントロールセンターに画像データをダウンリンクするために、手持ちのデジタル静止画像を使用することになる。
NASAは、SRB 分離までは地上ベースの画像を補い、ET 分離中の主要な撮影を行うために、スペースシャトルのさまざまな位置にカメラ一式を取り付けることとする。STS-114 では、バイポッド領域、および機体翼先端と最下層の面状タイルを表示するために、ダウンリンク機能を備えたカメラが ET に付け加えられる。STS-115 と STS-116 では、重要な主脚ドアとアンビリカルドアの領域を含む機体下面の大部分を表示できるカメラを追加することとする。
NASA は、STS-107 においては、コロンビア号の状態を評価するために、国家の機能 を十分に活用しなかった。NASA は、打上げ時、軌道上、再突入時における機体の状態を評価する支援を受けるために、NIMAや ほかの官公庁と契約覚書を締結した。NASA は国家の機能を利用するために必要な人員や職位を決定したので、実施手順を作成する。
NASA は、新たに代替技術が開発、導入されるまで、組込み式補助データシステムの維持管理が必要であると認識している。スペースシャトル・プログラムでは、組込み式補助データシステムレコーダの耐用年数を延長するために、現在、さまざまなオービタサブシステムのセンサ要件を再検討し、持続可能性の要件を評価・更新し、磁気テープの代替メーカを調査し、さらに手順の改善を行っている。
NASA は、組込み式補助データシステムに代わるものとして、システムの老朽化に対処し追加機能を備えた代替品を評価することとする。VHMS (Vehicle Health Monitoring System) は耐用年数を延長させるためのプロジェクトであり、既存の組込み式補助データシステムを、すべてデジタルによる業界標準計測機器に交換することを目的としている。VHMS では、強化された機能によりセンサの追加がより容易になり、スペースシャトルの保全状況の監視が著しく改善されるはずである。
NASA は、非破壊的できわめて効果的である配線の完璧な検証法を開発するという目標に向かって取り組み続けていく。
外部燃料タンクは、前方分離ボルトによって、固体ロケットブースタ (SRB)の前方スカートに取付られる。打上げから約2分後に、発火装置が点火され、前方分離ボルトがそれぞれ2分割し、外部燃料タンクから SRB が分離されることになる。外部燃料タンクの接続器具に取り付けられたボルトキャッチャーには、分離ボルトの半分が保持され、もう半分のボルトは SRB 前方スカートのキャビティに保持される。STS-107 の調査では、ボルトキャッチャー組立の安全係数が、必須安全係数の 1.4 に対して、およそ 1 であったことが分かった。我々はボルトキャッチャー組立の設計を変更することとする。再設計したボルトキャッチャアセンブリおよび外部燃料タンク接続ボルトと締め具取付補強材の試験と設計評価は進行中である。
作業プロセスは承認審査の段階にあり、適正な処理を確実なものにするには、少なくとも2名の人員が最終工程の処理とET間部分のハンドスプレー作業を行うものとする。
微小隕石および軌道上デブリ(MMOD)は、今後も問題となる。ISS 向けに算定されたものと同じ安全度でシャトルを運用する勧告に従うために、NASA は、MMOD に対する脆弱性を減少させるシャトルの設計のアップグレード、および運用の変更(たとえば、ISS ドッキング後のシャトルの姿勢の見直し)を評価する。
上記に加えて、NASA はMMODの 安全条件を、ガイドラインから要求に変更する。
異物混入について、NASA はすべての処理活動で一貫した定義を使用する。現在のメトリックは改善する必要がある。処理スケジュール全体を通して、異物混入の予防監視を行う。異物混入に関する研修を毎年実施するものとする。
我々の優先事項は、常に安全な飛行を実施し、ミッションを成功裡に達成することである。我々は必要なマイルストンが達成されたときにのみ飛行し、計画されたスケジュールによって追いつめられることはないようにする。
NASAは、その時々に利用可能な資源により構成されるシャトルの飛行スケジュールを採用し、それを維持する。スケジュールリスクは定期的に評価され、許容されないスケジュールリスクは延期される。NASAは、マニフェストに関する全ての制約事項を取り込み、通常の量の変更を受け入れるに十分なマージンを持ったシャトル打上げスケジュールプロセスを開発する。このプロセスは打上げ予備日、貨物/補給の予備日、そしてクルーのタイムラインの予備日を伴う。スペースシャトル・プログラム(SSP)は、現行の技術的、日程的、及びプログラム的リスクを評価するリスク・マネージメント・システムを強化させる。さらに、SSPは最近ISSに用いられたリスクマネージメントプロセスをも審査する。データはひとつのNASA Management Information System に保管され、Space Flight Enterprise の上級管理者がスケジュール実行度合(schedule performance indicators)とリスク評価をリアルタイムで視覚的に審査することができるようにする。
ミッション・マネージメント・チーム(MMT)は再編成され、通信、指令系統、また検討中のオプションの関連リスクを的確に評価できるためのチームの能力を改善する。明瞭な報告経路と正式な手順が整備され、上昇と軌道上画像分析からの気付き事項を審査する。この勧告を満たすため、この新しいMMT体制は飛行再開前にリアルタイム・シミュレーションにより訓練される。これらのシミュレーションでは、フライトクルー、フライトコントロールチーム、技術スタッフ、そしてMMTを、複雑なシナリオのなかで統合し、より良い問題認知と対応を習得するものである。さらに、打上げ後のハードウェア点検と上昇再現が実施される。このプロセスはまた、ミッション中の異常の再調査と対処、及びMMTにそれらの問題を認識させるためにも設置される。
以下の対応は勧告7.5-1、7.5-2、7.5-3、および9.1-1に適用されるものである。NASAは安全に、また来たる将来にむけて技術的優越をもって(スペース)シャトルプログラムを運営するための組織的構造と文化を整備する責任を負っている。NASAはオプションを十分に審査し、危険性を理解し、必要とされる変更を実行するに必要な時間を確保する。飛行再開前には、異なった分野によるチームが形成され、勧告の定義付け、設立、変更、そして実行のための詳細な計画を作成する。
その第1段階として、NASAは最近、ラングレー研究センターにおいてNASA Engineering and Safety Center(NESC)を設立した。NESCは増強された技術及び安全評価を提供し、2003年10月1日から稼働する。安全及びミッション保証の本部事務局がNESCの予算提供とその独立性を保証する。
中間での寿命認定はNASAのシャトル耐用年数延長作業(Shuttle Service Life Extension work)における主要な要素となる。シャトルを再認定する取り組みはコロンビア号事故以前に開始された。2002年の12月に、スペースシャトル委員会はすべてのスペースシャトル・プログラムとその構成員に、彼らのハードウェア認定及び検証要求の見直しを課し、プロセスと運用状態が元のハードウェア認証に一致していることを確認させた。これは、シャトル耐用年数延長を組み込んだ継続的なプロセスとなる。
NASAには、軌道上のトラブルシュートと地上運用の支援のために、主要なスペースシャトル・サブシステムの明瞭な写真と画像を敏速に収集できる能力が必要とされる。
NASAは、(シャトルの)主要部分の画像、およびデジタル画像データベースに記録されたものについての内容の認識と取得を行う。画像はデータベースに保管され、それらは上位図面、または機体のゾーン別所在(vehicle zone locator)と相互に関係付けられて参照することができる。広範囲のハードウェア完成画像の品質を改善するために、360°視野カメラと高解像度写真のような先端技術を取り入れることも含まれる。
NASAは、SSPによる、シャトル技術図面システムの更新検討のオプション開発を促進する。これには費用、日程、最新のプロセスへのインパクト、そして危険性に対処する選択幅を最優先させることが含まれる。デジタル・シャトル・プロジェクト(DSP)は以下のような能力をもつものとする。