本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
1. 目的
温室効果ガス観測技術衛星プロジェクト研究推進委員会における温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)の計測方法等の検討結果について報告する。
2. 当委員会設置までの経緯
- 宇宙開発事業団(以下、NASDA)は、平成14年8月21日の第5回宇宙開発委員会計画・評価部会に、平成19年の打上げを目標とした温室効果気体観測技術衛星の開発研究の見直しを要望した。その時点の温室効果ガス・オゾン観測センサは、NASDAのオゾン観測センサ(OPUS)と、環境省の傾斜軌道衛星搭載太陽掩蔽法フーリエ変換分光計(SOFIS)の機能を代替したセンサで、観測方式としてADEOS/ILAS, ADEOS-II/ILAS-IIで日本が国際的に技術開発の優位性をもち、宇宙実証済みである太陽掩蔽法を採用していた。
- 宇宙開発委員会計画・評価部会は、GOSATプロジェクト評価小委員会を設置し、当委員会は、平成14年10月7日、16日、25日の3回にわたって開催された。この委員会で認められた温室効果ガス観測技術衛星プロジェクトの意義は、次のとおりである。
- 温室効果ガス・オゾン観測センサは、京都議定書の第1約束期間において温室効果ガスの分布を測定する。
- 衛星データと地上モニタリングデータを組合せ、解析モデルにより、亜大陸規模の二酸化炭素などの温室効果ガスのネット吸収排出量の推定の改良に寄与する。
- 衛星及び観測システム技術の開発、軌道上実証、観測を行い、第2約束期間での温室効果ガスの国別単位の排出量・吸収量の推定への発展につなげる。
- GOSATプロジェクト評価小委員会第1回で、環境省/NASDAは、太陽掩蔽法FTSの観測データをネット吸収排出量推定に利用することのメリットをUCI(カリフォルニア大学アーバイン校)のグループが述べた論文(Pak & Prather, GRL, 28(24), 4571-4574, 2001)を紹介した。このような知見を含む検討に基づき、環境省/NASDAは、太陽掩蔽法を用いて、地上モニタリングデータを組み合わせ、解析モデルにより亜大陸単位のネット吸収排出量の推定誤差を大幅に改善し得ると考え開発研究要望を提案した。
- 第8回計画・評価部会(平成14年10月28日)での審議を経て、第41回宇宙開発委員会(平成14年10月30日)の「温室効果ガス観測技術衛星プロジェクトの評価結果」(委41-2)において、GOSATプロジェクトは「開発研究」段階に進むことが妥当であるとの事前評価結果が報告された。また、その際、『計測システムについては「研究」・「開発研究」段階の間に、科学者・利用者等からなる研究推進のための委員会において、計測法オプションや数値目標についての十分な検討・精査を行うこと』という指摘があった。
- 他方、アメリカにおいても、2007年頃の打上げを目標にした二酸化炭素観測を行うOCO(Orbiting Carbon Observatory)実験ミッションのフェーズA研究着手が認められた。また、地球観測衛星委員会(CEOS)では、議長機関であるNOAA(米国大気海洋庁)からも国際協力による二酸化炭素観測の実現が提案されている。
- このような流れと宇宙開発委員会における指摘を踏まえ、環境省/NASDAは、温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)プロジェクト研究推進委員会を設置し、検討を行ってきた。
3. GOSATプロジェクト研究推進委員会の検討結果
- GOSATプロジェクトが、地球温暖化監視プログラムの第一期ミッションと位置付けられ、そのミッションには最終的に温室効果ガスの国別単位の排出量・吸収量を推定するという目標を設定したことを考慮しつつ、温室効果ガス・オゾン観測センサに関する計測法オプションや数値目標についての検討を行った。 まず、高度5 km以上の二酸化炭素濃度分布を3ヶ月平均相対精度1%で計測しても、これは大気の循環により攪拌された結果であり、地表の二酸化炭素収支に関する情報が大幅に失われている状況であることから判断して、地表のネット吸収排出量の推定に寄与することは現実的には非常に困難であると考えられる。また、完全な輸送モデルが存在すれば推定に寄与できるという議論もありうるが、今後数年間の間に輸送モデルが進歩するとしても、それに依存して、地表のネット吸収排出量の推定に関する成果を上げることができると考えるのはリスクが大き過ぎるであろう。
したがって、上記の考察や、人工衛星データを天気予報システムに応用した際の経験、さらに、第6回国際二酸化炭素学会(2001年、仙台)でのDenningたちの報告などの最新の科学的知見を踏まえると、温室効果ガス・オゾン観測センサとして太陽掩蔽法による観測では、観測頻度が直下視観測方式(下方視観測方式)に比べ少なく、観測高度が5 km以上に限られるという点からGOSATプロジェクトの意義・目標としては最も優先されるべきであろう温室効果ガスのネット吸収排出量の同定の精緻化の実現の達成は困難であると考える。
- そのため、地表から高度3 km以下に感度をもつ直下視観測方式(下方視観測方式)の実現可能性の検討を行うための技術検討会を研究推進委員会の下に設置した。技術検討会では、5ヶ月間に9回の会議を開催し、高度3 km以下に感度をもつ下方視観測方式として、
- 1) 短波長赤外散乱光観測方式
- 2) サングリント偏光観測方式
- 3) 熱赤外放射観測方式
の3種類について、感度解析/誤差解析の検討、センサハードウェアの実現性の検討および海外の動向調査を実施し、次のとおり提言をまとめた。
- 本ミッションの最終的な目標として掲げられている国別の吸収排出量の推定には、二酸化炭素濃度変動の最も大きい陸域の地表付近を把握し、かつ数層にわたる高度分布も含めた高精度な観測により、その移送・変動を捉えることが必要である。この最終目標に向け、現段階においては、地表付近を含めた二酸化炭素カラム量を観測することを目指すのが適切である。2007年度打上げというタイムスケジュールの中で、現在要求されている精度を達成し、次世代センサへの継続的な開発を担保しつつ、上記の目的に対応するためには、方式1)、方式3)の両方を組み合わせたセンサを搭載することを提言する。方式1)は、地表から対流圏全域にわたってほぼ一定の感度を持つのに対し、方式3)は対流圏中・上層の観測に適している。また、方式1)は、エアロゾルの影響が強いのに対し、方式3)はそれほど影響されず、方式3)が気温・水蒸気の影響を強く受けるのに対し、方式1)はあまり影響されない等、両者は多くの点で相補的である。さらに、両者とも誤差要因となっている巻雲に関しても、両者のデータを統合して解析することにより、解析精度の向上が見込まれる。
- GOSAT研究推進委員会は、技術ワーキンググループからの提言を妥当であると判断し、京都議定書第1約束期間に、二酸化炭素のグローバルな分布を測定し(目標:3ヶ月平均、相対精度1%(4 ppmv))、地上モニタリングデータなどと組み合わせフォワードモデル・インバースモデルにより、二酸化炭素の排出・吸収量の亜大陸単位(約7000 km四方)での同定誤差を半減することを目指すと同時に、高い空間分解能での炭素収支分布推定を必要とする第2約束期間につながる観測センサ方式として、次のとおり提言する。
- 観測方式としては、地表付近を含めたカラム全量の測定が可能な直下視方式を採用する。センサとしては以下を提言する。
- センサ方式
FTS(マイケルソン干渉計を用いた分光計)方式による下方視観測
- 波長帯
科学的な立場からは、多波長域(短波長赤外+熱赤外)の観測を提言する。これにより、以下のような大きな利点が期待できる。
(ア) |
CO2測定精度が向上する |
(イ) |
両者を同時に観測する計画は他に無く、世界をリードできる。 |
(ウ) |
カラム量を測定する短波長赤外のデータから上層を測定する熱赤外のデータを引くことにより接地境界層を含めたプロファイルが測定できる。 |
(エ) |
熱赤外放射により、夜間観測も可能である。 |
(オ) |
オゾン(O3)、メタン(CH4)、一酸化炭素(CO)も観測できる。 |
(カ) |
水蒸気・温度など天気予報に有用な物理量も測定できる。 |
ただし、予算並びに開発期間の制約を考慮すると、二酸化炭素などの温室効果ガスのネット吸収排出量が所期の精度で推定できないというリスクは大きくなるが、狭波長域(短波長赤外)での観測もやむをえない。
- 軌道
データの解析・利用の面からは太陽同期軌道が望ましい。なお、有効利用可能なデータは減るが、太陽非同期軌道でもミッションは果たせる。
- 今後の課題
技術検討会において、フォワードモデルにより誤差解析を行い、所期の目標を達成できる見通しがほぼ得られたが、今回明らかになった誤差要因の低減に向けて、データ解析の精度向上(散乱要因の推定、地表放射率の推定、吸収線の吸収係数の精密決定、リトリーバル手法の高度化等)やセンサの詳細仕様の決定に取り組んでいく必要がある。
また、科学者・利用者等からなるGOSAT研究推進委員会による活動をさらに充実して実施する必要がある。
なお、ESA提供予定の成層圏風プロファイル観測装置(SWIFT)は、広域大気汚染・オゾン観測紫外分光計(OPUS)と同時に搭載し、組み合わせて観測するのが最も効率的である。二酸化炭素の観測に重点を置いたGOSATに、SWIFTのみを搭載することは効果が少ないと考えられる。特に、日本国内にSWIFTデータの責任あるユーザとりまとめ機関がない状況下では、GOSATへの搭載とデータ利用について再検討が必要と考える。