プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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「こだま(DRTS)」の定常段階への移行について

平成15年1月15日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 報告事項

 「こだま(DRTS)」の運用に関し、初期段階(*1)の作業を終了し1月10日より定常段階に移行したことにつき報告する。

(*1)ロケット/衛星分離から初期機能確認終了まで(静止化後3ヶ月以内)

2. 運用経過

(1)打上げ、衛星分離

 「こだま」は平成14年9月10日17:20分、H-IIAロケット3号機により成功裏に打上げられ、打上げ約30分後にロケットから分離され所定の静止トランスファ軌道に投入された。

(2)クリティカルフェーズ(*2)の運用

(*2)打上げ4時間前から三軸姿勢確立確認まで
  • 衛星分離後の自動シーケンスにより、太陽電池パドルの展開、太陽捕捉・低速回転モードへの移行が順調に行われた。
  • 3回のアポジエンジン噴射及び1回の20Nスラスタの追加噴射により、衛星を所定のドリフト軌道に投入した。
  • ドリフト軌道において、フィーダリンク用アンテナ及び衛星間通信用アンテナの展開を順調に実施した。
  • その後、三軸姿勢を確立し、ホイールを用いた定常的な姿勢制御モードに移行した(9月15日)。

(3)静止化運用

 9月16日より1Nスラスタによる7回の制御を行い、10月11日に所定の静止位置(東経90.75度)に静止させた。以降、原則として週4回の南北制御、週1回の東西制御を行い、±0.1度の軌道保持運用を行っている。

(4)初期機能確認

 あらかじめ設定したチェックアウト計画及び手順に基づき、9月16日以降1月8日まで、バス系の各 サブシステム及びミッション系(衛星間通信機器)につきチェックアウトを行った。その結果、後述する  不具合はあったものの、基本的に衛星は開発仕様書の要求を満足しており、地上試験結果と有意な差が無く、定常段階の運用に支障が無いことを確認した。

3. 定常段階移行前審査の実施

 初期段階の運用が終了し定常段階へ移行できることを確認するため、1月9日、NASDA内にて標記  審査を実施した。審査は、追跡管制実施責任者(衛星総合システム本部長)を審査委員長とし以下の内容について行った。審査の結果、定常段階への移行が了承された。

  1. 初期段階の衛星の運用結果
  2. 地上システムの運用結果
  3. 衛星の初期機能、性能の評価
  4. 定常段階運用計画
  5. 不具合評価
  6. 定常段階への反映事項
  7. 関連プロジェクトへの反映事項

4. 軌道上不具合について

 打上げから初期段階終了までの全ての期間で、「こだま」には表1の5件の軌道上不具合が発生した。  5件の内3件については処置が完了しており運用への影響はないとの結論を得ている。残る2件に関しては現在も原因究明中であるが、定常段階の運用には支障無いものである。この2件に関しては2月末を目処に継続して原因究明に当たっている。

表1 軌道上不具合サマリ(網掛けは原因究明中のもの)

No不具合事象発生時期運用への影響原因、処置/対策
1 第3アポジエンジン噴射中に 酸化剤が枯渇した。 9/13 無し 原因:燃料側配管内のオリフィスの誤装着。
処置/対策:20Nスラスタの追加噴射によりドリフト軌道投入。「衛星推進系問題対策チーム」を設置して処置に   当たった。背後要因分析を実施し、分析結果に基づき  関係メーカに対し再発防止対策を設定した。
2 南面太陽電池パドルの発生電力が約100W低下した。 9/25 無し 原因:太陽電池の特定の1ストリングとシャント間の回路内の短絡または開放。根本原因の特定には至らず。設計・製造に起因しないごく希な偶発的な故障と推定。
処置/対策:特になし(電力低下分はシステムマージンで吸収)。
3 DCアークジェットクリーニング運用中に10Aスラスタに 異常発生(触媒層温度低下、推力約10分の1)。 10/12 無し 原因:原因究明中(エクスポートライセンス取得、技術支援 同意書の交換及び米国務省の確認等に時間を要し、実質的な作業は年明けから実施)。
処置/対策:当面B系にて運用する。
4 フィーダリンク用アンテナの 日周指向誤差が規格を外れ、ビームの指向方向がずれた。 10/25 無し 原因:アンテナ鏡面及び支持部の熱歪み。詳細原因究明中。
処置/対策:定常姿勢バイアス付加機能を用いて指向誤差を 補正する。
5 相手衛星側の捕捉用に「こだま」が送信するKaバンドフォワードビーコンの偏波切替時に、地上局からのパイロット信号を受信する「こだま」の受信機がロックオフした。(注:相手衛星によって偏波の種類が異なり切替が必要。) 11/12 無し 原因:偏波切替スイッチの機械的振動で、「こだま」のパイロット受信機の位相同期ループのパラメータが変動しロックが外れた。
処置/対策:切替前に同期ループを解除し、切替後にループをロックさせるよう運用文書に反映。

5. 定常段階における運用について

 定常段階の運用では、実証実験運用(本格運用)に移行する前に、「こだま」及び地上システム全系(スペースネットワーク)の準備としての試行実験運用を、更に「みどりII(ADEOS-II)」実機を加えた検証運用としての試行実験運用を行って段階的に運用技術を修得していくこととしている。

(1)スペースネットワーク試行実験運用
軌道上の通信相手衛星との衛星間通信実験に先立ち、地上模擬衛星局(筑波)を用いた基礎的な衛星間通信実験を行う。この実験運用にて、スペースネットワーク運用の自動化に必要な地上装置の調整・検証を実施する(1/10〜2/M)。
(2)ADEOS-II試行実験運用
上記の結果を受け、2/Mから4/Mの予定で、「みどりII」と「こだま」との間で衛星間通信を行い、データ中継に係る基本的な機能・性能を評価する。本作業は「みどりII」のIOCS(軌道間通信系)のチェックアウトを兼ねて実施する。なお現在の予定では、「こだま」を経由した「みどりII」の取得画像の初伝送は3月初旬と見込まれている。
(3)実証実験運用(4/M以降約7年間)
上記試行実験運用にて、衛星間通信に関してスペースネットワーク及び「みどりII」の全てのシステムの準備が整うことになり、以降、実証実験運用として、当面「みどりII」と、またその後打上げられるALOS、「きぼう」等との間で本格的なデータ中継を行う。