プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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宇宙用部品技術委員会報告書
―宇宙用部品の再構築に向けて―

平成15年6月18日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 経緯

  1. 平成14年9月7日、宇宙開発委員会において「信頼性向上のための部品プログラムの進め方」について報告し、宇宙開発事業団に部品に関する委員会を設置することとなった。
  2. 平成14年10月10日の第1回宇宙用部品技術委員会(以下「部品委員会」という。)開催以降、計14回の委員会(分科会を含む)を開催した。

2. 部品委員会の任務・構成

  1. 任務
    宇宙機システムの信頼性向上及び自律性の確保に留意した部品プログラム(重要部品の開発・維持方策等)を作成した。
  2. 構成
    • 電子部品分科会及び機構部品・材料分科会の2つの分科会を持つ。
    • 宇宙開発事業団/宇宙科学研究所/航空宇宙技術研究所/民間企業(システム会社・部品会社)/大学から構成される。

3. 報告書の主な内容

3.1 宇宙用部品に関する基本方針

  • 我が国の宇宙用部品については、"自律性の確保"・"信頼性の確保"・"国際貢献及び国際競争力の確保"の3つの視点から重要部品の選定及び研究等を行う。
  • 部品評価能力の向上は、部品の変遷に拘わらず、多種の部品に普遍的・共通的な問題解決をもたらすため、最も重要な課題である。部品評価能力の向上のため、部品評価技術、部品基盤技術及びこれらを支える情報データベースの充実を図る。

3.2 宇宙用重要部品

  1. 選定基準
    • 斬新なシステム設計を実施する上での必須の部品
    • 機器の品質保証をする上で、特に重要な基本技術を構成する部品
    • 国際貢献及び国際競争力を確保していくための部品
  2. 重要部品の選定
     
    重要部品一覧
    区   分部品名備   考
    電子部品能動部品CPU周辺 CPU(マイクロプロセッサ) 第1期(今後3年程度)で開発
    ISSP※1orFPGA※2(FeRAM)FPGA(SRAM※3) 第1期(今後3年程度)で開発
    (比較検討を行い、1種に絞り込む)
    SRAM(メモリ) 第1期(今後3年程度)で開発
    電力用部品等 実装技術 第1期(今後3年程度)で開発
    アナログマルチプレクサ 第1期(今後3年程度)で開発
    トランジスタ電力トランジスタ 第1期(今後3年程度)で開発
    高速フォトカプラ 第1期(今後3年程度)で開発
    DC/DCコンバータ 第1期(今後3年程度)で開発
    受動部品 コンデンサ
    抵抗
    コネクタ
    オシレータ
    機構部品
    ・材料
    衛星コンポーネント ジャイロスコープ
    ホイール
    ロケット/衛星 遮断弁 第1期で開発
    逆止弁
    推薬弁 第1期で20N級を開発
    調圧弁
    圧力センサ
    温度センサ
    ロケット ポンプ軸受
    ポンプ軸封シール
    衛星/宇宙ステーションパドル・アンテナ系 角度検出器 第1期で開発
    これらを組合わせたアクチュエータとしての開発も検討
    減速歯車
    ステップモータ
    軸受
    ロケット/衛星 熱制御材
    塗料
    推薬
    ※1 ISSP  : (Instant Silicon Solution Platform)
    早く、簡単に、しかも低コストで高性能なシステムLSIを実現できるデバイス。
    ※2 FPGA : (Field Programmable Gate Array)
    ユーザが設計した回路をチップ製造後にプログラミングすることが可能なLSIのこと。
    ※3 SRAM : (Static Random Access Memory)
    メモリの一種。蓄積しているデータを保持するための操作(リフレッシュ操作)が必要なく、高速動作が可能である。しかし、回路が複雑となり、集積度を上げにくいという欠点を併せ持つ。
  3. (3) 重要部品の供給方策
    (a) 電子部品の研究開発
    • CPU周辺の能動部品については、システム構築の高度化を図るために必須であり、技術性能を第1優先とした開発を行う。
    • 電力用等の能動部品については、市場競争力の強化を図るための開発を進める。
    • コンデンサ等の受動部品については、品質確認検査、製造ラインの維持などを支援し、安定供給が出来るようにする。
    (b) 機構部品・材料の研究開発
    • 弁等、入手性・自在性等の観点から選定された部品については、デュアルソースの原則・国内製造能力の保有・国産部品の優先使用の処置をとる。
    • アクチュエータ等、海外での販売が期待できる部品については、開発を支援する。
    • 需要が少なく、採算上の課題を抱える熱制御材・塗料については、宇宙用仕様の緩和や製造設備の更新支援を考慮する。

3.3 部品に関する技術の研究

  1. 部品の基盤技術の維持・継承
    摩擦・潤滑等の機構部品・材料に関する基盤技術及び放射線・実装等の電子部品に関する基盤技術の維持・継承については、外部機関との連携が重要であり、これを積極的に図る。
  2. 先端部品(フロンティア部品)の研究
    MEMS※1等、10年後を見据えた先端部品を産学官の連携による開かれた組織で研究する。
  

3.4 部品の円滑な流通方策

 国内市場規模の小さい中で、国産部品の積極的活用を図るため以下の方策を採る。

  1. 重要部品の利用促進策
    部品の品目毎のメーカを交えた開発連絡会の開催・プロジェクトへの部品の優先的使用・アフターケア等のサポート体制の充実を図る。
  2. 認定制度の見直し
    製造ライン毎に認定するQML※2認定制度を積極的に取り込むと共に、各種部品データをベータベース化する部品情報システムの整備を促進する。
  3. 民生用部品の活用
    民生用部品を宇宙用に使いこなすため、地上評価結果の妥当性を確認することを目的とした宇宙実証を継続的・計画的に行う。
※1 MEMS(Micro Electro-mechanical Systems)
マイクロ構造体、マイクロセンサ、マイクロアクチュエータ、マイクロ機械もしくはマイクロシステムに関する技術の総称である。我が国で一般的に用いられている「マイクロマシン技術」とほぼ同様の意味をもち、寸法がマイクロメートルからサブミリメートルのオーダの部品で構成された機械に関する技術を言う。
※2 QML(Qualified Manufacturers List)
部品を製造する工程を認定することにより、その工程で製造される部品を認定する方式で、ライン認定といわれている。部品単体に対する認定よりも効率がよく低コストで高信頼性が得られるため、米国を中心に普及しつつある。

3.5 勧告事項

全般的勧告
勧告1:
部品問題を我が国が宇宙開発を展開する上での根元的なものと位置付け、プロジェクトの枠を越えて体系的に取り組むことが、経済性・開発の効率性の観点からも望ましい方向となる。但し、全体の仕組みに不具合があったときにフィードバックが出来る仕組みを考えるものとする。
勧告2:
"自律性の確保"・"信頼性の確保"・"国際貢献及び国際競争力の確保"の観点から、部品コストと安定供給を考慮し、部品の維持・発展を進めていくものとする。
勧告3:
部品評価能力の充実・向上のため、部品評価技術、部品基盤技術及びこれらを支える情報データベースの充実を図るものとする。
勧告4:
重要部品は、3年程度を目処に見直しを行うと共に、今回提示された重要部品については、今後3-5年間で開発・供給体制の維持をしていくべきである。
この際、技術性能を優先するもの・市場競争力の強化を優先するものに分類し、安定供給が可能なシステム構築を進めるものとする。
勧告5:
開発された重要部品が確実に使用される仕組みを確立すべきである。すなわち、開発連絡会の設置・プロジェクトへの優先的使用・プロジェクト間の横断的調整・アフターケアのサポート体制の充実・国内外を含めた市場の拡大等のシステムを早急に整備するものとする。

さらに上記勧告を支える具体的・技術的勧告は以下の通りである。

勧告6:
機構部品・材料の基盤技術である摩擦・潤滑・締結などの技術及び電子部品の基盤技術である放射線工学・実装工学等は、部品故障の原因究明・品質向上のため推進する必要があり、産学官の外部機関と積極的な連携・強化を図るものとする。
勧告7:
海外部品を調達する上で必要な品質評価を行う技術(非破壊検査技術等)の評価技術の研究・開発を進め、評価データの蓄積をはかるものとする。
勧告8:
10年後を見据えた"世界をリードする将来性のある部品技術"を研究し、"売れる部品"を開発するため、先端的な部品(フロンティア部品)を産学官の連携による時限的な研究プロジェクトチームにより研究・開発するものとする。
勧告9:
民生用部品を宇宙機へ適用するためには、地上での耐宇宙環境性の試験方法、評価方法を確立すると共に、地上評価試験の妥当性を確認する事を目的とした宇宙実証を継続的かつ計画的に行うものとする。
勧告10:
コスト低減・新規部品/製造ラインの採用が容易になるQML認定制度を積極的に取り込むと共に、宇宙用として使用できる品種の拡大を図ることを目的とした、部品登録制度を促進するものとする。

これらの勧告を実現するため、宇宙用部品開発推進センターの人的・資金的充実が望まれる。

宇宙用部品技術委員会 構成員

委員長:
原島 文雄(東京電機大学工学部電気工学科 教授)
委員長代理:
狼 嘉彰(宇宙開発事業団 研究総監)
委員:
大西 一功
(日本大学理工学部電子情報工学科 教授)(電子部品分科会長)
冨田 信之
(武蔵工業大学工学部機械システム工学科 教授) (機構部品・材料分科会長)
中原 綱光
(東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻 教授)
西村 允
(法政大学工学部機械工学科 教授)
山口 真史
(豊田工業大学大学院工学研究科 教授)
中谷 一郎
(宇宙科学研究所宇宙探査工学研究系宇宙自律システム工学部門 教授)
村田 正秋
(前航空宇宙技術研究所 宇宙システム研究センター長) (第3回まで)
前村 孝志
(三菱重工業(株)名古屋航空機製作所 宇宙技術部長)
東野 和幸
(前石川島播磨重工業(株)航空宇宙事業本部宇宙開発事業部   推進システム部長)  (第3回まで)
藁科 彰吾
(石川島播磨重工業(株)宇宙開発事業推進部 部長代理) (第4回から)
蒲地 安則
(三菱電機(株)鎌倉製作所 宇宙総合試験部 次長) (第2回から)
大串 義雄
(NEC東芝スペースシステム(株) 機器開発本部長)
鳥山 潔
(前三菱電機(株)鎌倉製作所 副所長) (新衛星ビジネス(株) 常務取締役)
塩野 登
(RCJ 技術部長)
後藤 順一
(NECエレクトロンデバイス(株)第1開発事業本部 シニアネットワーク技術プロフェショナル)
高田 知二
(東芝セミコンダクタ社 カスタムLSI事業部 担当部長)
栗原 正英
((社)日本プリント回路工業会 事業部長)
藤原 暉雄
((株)アイ・エイチ・アイ・エアロスペース 社長スタッフ)
松永 茂樹
(日本精工(株)スペーシア事業チーム 部長)
佐藤 亮一
(宇部興産(株)機能性材料ディビジョン事業開発部 部長)
千田 泰弘
((株)KJSネット 常務取締役)
稲田 伊彦
(宇宙開発事業団 企画部長)
藤田 敏彦
(前宇宙開発事業団 安全・信頼性管理部長)(第3回まで)
黒崎 忠明
(宇宙開発事業団 安全・信頼性管理部長) (第4回から)
小沢 秀司
(宇宙開発事業団 宇宙環境利用システム本部 副本部長)
渡辺 篤太郎
(宇宙開発事業団 宇宙輸送システム本部 副本部長)
片木 嗣彦
(宇宙開発事業団 衛星総合システム本部 副本部長)
谷岡 憲隆
(前宇宙開発事業団 参事)(第3回まで)

宇宙用部品技術委員会の開催経緯

1. 第1回 (平成14年10月10日)
  1. (1) NASDA部品検討チームの報告
  2. (2) 今後の審議の進め方
  3. (3) その他
2. 第2回 (平成14年11月28日)
  1. (1) 今後の宇宙活動を展開するための基盤技術と技術戦略
  2. (2) システムメーカの課題・意見
  3. (3) その他
3. 第3回 (平成15年3月17日)
  1. (1) 電子部品及び機構部品・材料分科会活動状況
  2. (2) 欧米における部品関連の活動状況報告
  3. (3) 本委員会報告書の骨子
  4. (4) その他
4. 第4回 (平成15年5月21日)
  1. (1) 電子部品及び機構部品・材料分科会報告
  2. (2) 本委員会報告書(案)
  3. (3) その他
電子部品分科会開催経緯
第1回 平成14年10月16日
第2回 平成14年12月6日
第3回 平成15年1月31日
第4回 平成15年2月24日
第5回 平成15年4月18日
機構部品・材料分科会開催経緯
第1回 平成14年11月7日
第2回 平成14年12月12日
第3回 平成15年2月3日
第4回 平成15年3月10日
第5回 平成15年4月23日



正式版: