本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
1. 概要
- 報告内容
宇宙開発事業団(NASDA)の国際宇宙ステーション(ISS)搭乗宇宙飛行士の、ロシアでのソユーズ宇宙船に係る訓練参加について報告する。
- ISS搭乗宇宙飛行士の訓練の経緯(下記図1参照)
ISS搭乗宇宙飛行士(3名)は、平成11年に候補者として選抜され、平成13年に基礎訓練注1を終了しISS搭乗宇宙飛行士として認定された。
認定後、これまでISSに関する一般的な運用技術を修得するアドバンスト訓練注2を行うとともに、「きぼう」打上に向けた試験等の技術的な業務を行ってきた。
注1) ISS搭乗宇宙飛行士として必要となる基本的な知識や技能を修得するための訓練。
注2) ISS全体のシステム操作に係る運用訓練であり、搭乗割当前の宇宙飛行士に対する搭乗ミッションによらない共通的な訓練。
図1 ISS搭乗宇宙飛行士の訓練の流れ
2. ソユーズ訓練の位置づけ
- 2006〜2007年に計画されている「きぼう」の船内保管室、船内実験室、船外実験プラットフォーム等の打上、組立、初期運用を成功させるため、総力を挙げてこれに対応できるよう準備を整えているところである。
- このため、現在米国NASAにて活動中の3名のMS(ミッション・スペシャリスト)に加えて、日本を中心に活動しているISS搭乗宇宙飛行士についてもその技量を更に向上させ、上記「きぼう」関連のミッションに確実に対応させる準備を整えることが必要である。
- 現在、国際協定に基づくISS参加機関共通のアドバンスト訓練等を継続して実施しているが、これ以外に、他国の宇宙飛行士が保持しない技量を得るための訓練が必要となる。ISS計画においてソユーズ宇宙船は、ISSへの搭乗員の輸送手段として活用されているとともに、当面唯一の緊急帰還機であることから、ソユーズ宇宙船の運用技能を有していることは、ISS搭乗宇宙飛行士の技量として、高く評価される。
- このため、2005年頃から始まる「きぼう」関連ミッションのインクリメント固有訓練注3等のスケジュールに影響のない現時点において、日本人ISS搭乗宇宙飛行士をソユーズ宇宙船の訓練に参加させることとした。
注3) ISS全体のシステム操作に係る運用訓練であり、搭乗割当された宇宙飛行士に対する搭乗ミッションに関する訓練。(上記図1参照)
3. ソユーズ訓練実施計画
- 目的
日本のISS搭乗機会に確実に対応するため、日本人ISS搭乗宇宙飛行士にソユーズ宇宙船の運航技術者の資格を取得させる。
- 実施期間
(第1回) 平成15年7月7日〜9月26日
(第2回) 平成16年度上期を想定 (第1回の訓練結果を踏まえ今後決定。)
- 実施場所
ロシア航空宇宙庁
ガガーリン宇宙飛行士訓練センター
- 訓練参加者
宇宙開発事業団 宇宙飛行士 古川 聡、星出 彰彦、角野 直子
- 訓練項目
ソユーズ宇宙船運行技術者の資格取得に必要な訓練を表1に示す。なお、資格取得には全体で約6ヶ月の訓練が必要。今回は第1回として約半分の訓練を実施する。
表1.訓練項目(単位は時間)
| 訓練項目 | 全体 | 今回 |
Section 1
(座学) |
ソユーズ システム訓練 |
330 |
262 |
| サバイバル訓練 |
22 |
0 |
Section 2
(実習) |
ソユーズ システム訓練 *1 |
67 |
54 |
| サバイバル訓練 *2 |
76 |
0 |
| Section 3 |
船外活動訓練 *3 |
74 |
0 |
| Section 4 |
医学支援システム |
4 |
0 |
| 体力トレーニング |
110 |
52 |
宇宙飛行に係る特別訓練
(パラボリック飛行を含む) |
14 |
0 |
| その他 |
ロシア語 |
300 |
104 |
| 合計 |
998 |
472 |
*1 実機を模擬した地上設置シミュレータによる操作訓練。
*2 救命器具操作訓練、帰還カプセル脱出後の救命訓練。
*3 ロシア宇宙服着用による、地上及び水中訓練。
参考1 ソユーズ宇宙船概要
ソユーズ宇宙船は、1960年代初めにソビエト連邦が自国の宇宙飛行士を月に運ぶことを目標として開発された。
ソビエト連邦が月プログラムを放棄した後は、宇宙飛行士を宇宙ステーションへ往復させる輸送機として使用されている。
ISS計画では、NASAが開発中の緊急帰還機が運用可能となるまでの間、唯一の緊急帰還機として使用される。
ソユーズ宇宙船は、軌道モジュール、帰還モジュール、機器サービスモジュールの3つのモジュールから構成され、軌道離脱時には帰還モジュールのみが地上へ帰還する。

軌道モジュール

帰還モジュール

機器サービスモジュール
参考2 ソユーズ宇宙船の仕様
ソユーズ宇宙船(TMA)の仕様
| 打上時の重量 |
7.22トン |
| 全長 |
6.98 m |
| 最大直径 |
2.72 m |
| 居住モジュール直径 |
2.2 m |
| 軌道モジュール容積 |
6.5 m3 |
| 帰還モジュール容積 |
4 m3 |
| 太陽電池パドル | 長さ |
10.7 m |
| 面積 |
10 m2 |
| 発電量 |
平均0.6kW(最大1kW) |
| 搭乗人数 |
2〜3人 |
| 搭載可能ペイロード (3名搭乗時)※2 |
100 kg 以下 |
| 回収可能ペイロード |
50 kg 以下 |
| 帰還時荷重力 |
3〜4 G |
| 着陸精度 |
30 km |
| 単独飛行可能期間 |
14日 |
| ISS接続時軌道上寿命 |
200日 |
| 推進剤 | 燃料 |
非対称ジメチルヒドラジン(UDMH) |
| 酸化剤 |
四酸化二窒素(NTO) |
ソユーズ宇宙船(TMA)の仕様
| TMからTMAへの変更点 | TM | TMA |
| クルー身長制限(cm) |
164〜182 |
150〜190 |
| クルー体重制限(kg) |
56〜85 |
50〜95 |
|
着陸終速度
| メインパラシュート使用時 | 通常 |
2.6m/s |
1.4m/s |
| 最大 |
3.6m/s |
2.6m/s |
| 予備パラシュート使用時 | 通常 |
4.3m/s |
2.4m/s |
| 最大 |
6.1m/s |
4.0m/s |
| 使用ロケット |
ソユーズU |
ソユーズFG |
参考3 ソユーズ宇宙船クルーの役割
コマンダ
- 緊急時の決断、飛行計画の実行、システムの状態の維持、自動モードの制御、マニュアルモード時の操作等を行う。
- 中央の座席に座る。
宇宙実験科学者等
- コマンダからの指示を受け、システムのモニタや交信等の作業を支援する。
- コマンダの右側の座席に座る。
- 宇宙旅行者を搭乗させる場合がある。
フライトエンジニア
- 自動モード時の制御、マニュアルモード時の操作等を行う。コマンダーが実施する作業全てを実行できる能力がある。
- コマンダの左側の座席に座る。

(1997年7月基礎訓練時の写真より)