プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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STS-107「チャレンジ!スペースシャトルで宇宙実験」
最終レポート審査結果について

平成15年5月14日

宇宙開発事業団

 宇宙開発事業団(NASDA)では、青少年の方々に宇宙開発や自然科学に対する関心を深めてもらうことを目的に、STS-107タンパク質結晶成長実験「チャレンジ!スペースシャトルで宇宙実験」を実施しました。
 各参加チームがおこなったタンパク質と結晶に関する実験・研究について最終審査を5月8日実施し、実験内容と方法の独創性、論理性、レポートのまとめ方などの観点から、参加全149件から最優秀賞1件、優秀賞1件、準優秀賞2件、努力賞8件を選定しましたのでお知らせします。
 なお、6月15日(日)にNASDA東京事務所にて表彰式、8月上旬に成果報告会を行った後、最優秀賞受賞の1件につきましては、8月下旬、NASDA特別レポーターとして米国航空宇宙局(NASA)に派遣する予定です。



各賞審査結果と審査講評

最優秀賞

埼玉県立浦和第一女子高等学校(埼玉県)
(指導教諭:岩田 久道)
 独自の実験条件としてのエタノール添加によるタンパク質結晶の形の違いを定量的に検討し追究した点が高く評価できる。スペースシャトルでの飛行時間と実験条件に合わせて行うという実験計画も非常に優れている。また、実験に斬新なアイデアと工夫が取り入れられ、自由研究を含む各実験が有機的に関連しており、幅広い考察も極めて定量的に理路整然と行われていた点は大変すばらしい。さらに、外部研究組織とコンタクトを取り、情報収集や実験に出向くなど、積極的な取組みと探究心は注目に値する。

優秀賞

山口県立厚狭高等学校(山口県)
(指導教諭:児玉 伊智郎、高山 敏雄、元永 洋子)
 良好な結晶を得るための最適条件を極めて緻密に広範囲に探索しており、実験計画も系統的に整理されている点が高く評価できる。再現性の考察を忘れず、指定されて使用しているものに対しても、なぜそれが使われるのかを追究する姿勢は大変すばらしい。結晶成長を経時的に丁寧に追い、リゾチームの精製にも取り組んだ。考察が論理的に整然となされ、冒頭にまとめられた研究概要や写真配置などの構成も良く、読みやすく非常に優れたレポートとなっている。

準優秀賞(順不同)

土浦日本大学高等学校(茨城県)
(指導教諭:野本 正代)
 結晶化条件の探索を精力的に広範囲に行い、結晶成長の経時変化を丁寧に測定し、宇宙用実験器具での最適実験条件を見いだしている点が評価できる。地上実験と宇宙実験との関連について理論的に考察し、タンパク構造と構造解析などについても良く調べている。光学分割に関する自由研究など複数の実験を試みており、研究の着眼点がすばらしい。レポートの作成にもう一工夫ほしかった。
茗溪学園高等学校(茨城県)
(指導教諭:大竹 隆夫、鈴木 朋子)
 実験のための予備調査を十分に行い、それを実験計画や実験条件の設定に利用し、丹念に実験を行っている点が評価できる。結晶の傷の程度など品質に関わる性質も数値化して検討している。複数の自由研究が行われ、実験の流れに関するフローチャートと結果のグラフ表示をうまく使い、わかりやすく結果がまとめられている点は評価されるが、その考察がやや不十分だった。

努力賞(順不同)

宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校(宮崎県)
(指導教諭:児玉 康裕)
 結晶化の最適条件と等電点に関連がないかという発想から仮説を立て、これを実証しようとする態度と意欲が評価できる。丁寧に実験を行い、予備実験を基に発展させた実験として良い着眼点である。美しい結晶写真も得られている。
北海道立札幌啓成高等学校(北海道)
(指導教諭:庄野 和義)
 予備実験結果をもとに、スペースシャトルに持ち込む実験の条件設定が丁寧になされている。宇宙実験条件を設定した経緯が説明されており、宇宙実験で得られる結果についても、ある程度の予想が考察されている。
北海道立札幌南高等学校(北海道)
(指導教諭:中野 秀範)
 実験が失敗してもそれを綿密に考察し、改善点をもって再実験に取り組み、結晶化に成功している。また、沈殿剤として各種無機塩を使い、複数のパラメーターに関して最適条件が調べられている。
慶應義塾湘南藤沢高等部(神奈川県)
(指導教諭:平松 茂樹)
 仮説を立て、身近なたくさんの物質についてアミラーゼ活性を調べ、仮説を検証しようとしている。独創的で良く考えられた実験計画であり、酵素についての調査も十分で、レポートは読みやすく工夫されている。
日本女子大学附属高等学校(神奈川県)
(指導教諭:青木 ゆりか、大塚 泰弘)
 種々の果実に含まれるプロテアーゼの活性測定実験を広範囲に行うという大変おもしろい発想の実験である。実験への態度も良く意欲的に研究を展開している。文献引用も正しく行われている。
旭川工業高等専門学校(北海道)
(指導教諭:杉本 敬祐、古崎 陸)
 実験準備のための調査を十分に行って理解した上で、非常に綿密に計画を練り、ゲルを用いた結晶成長実験に意欲的に取り組んでいる。分析手段や、結果の考察、文献調査・引用も適切である。
桐朋女子高等学校(東京都)
(指導教諭:粕谷 喜久子)
 酵素研究の基本をおさえ、アルコール発酵に関する実験パラメーターを広く検討し、様々な条件下で実験を定量的に行っている。レポートでは、結果の表示や考察も適切になされている。
江戸川学園取手中・高等学校(茨城県)
(指導教諭:大村 千博)
 研究テーマ探しに積極的に取り組み、ナイロン合成を行ってヒントを探り、大豆タンパク質の凝固の最適条件を得る実験とタンパク質の繊維化実験を意欲的に行っている。着眼が良く、考察も適切になされている。

〜総評〜

 これほど多くの高校生が、しかも全国的に実験に参加してタンパク質結晶を作る努力を真剣にしてくれたことは、感激であり非常にうれしかった。度重なる打ち上げの延期とコロンビア号の不幸な事故にもめげず、最後まで頑張ってくれたことに関係者一同感謝をしている。"宇宙実験"という魅力、"スペースシャトルで実験ができる"という点が高校生の興味をひきつけたのであろう。その高校生の熱気が周囲の人達の宇宙への関心を高める方向に広がって行ったこともよくわかり、心強く感じた。

 宇宙実験チームと地上実験チームとの間に、1次審査後の自由研究に取り組む意欲に若干の差が出てしまった感があるのは否めない。しかし、地上実験チームのレポートの中にも優れたものが多かったことは特筆すべきことである。近隣の大学等の研究施設を訪れ情報収集や協力依頼するなど、積極的に研究を進めたチームもあって驚かされた。なお、1次審査時に宇宙実験チームに選ばれなかったけれども評価の高かったチームの中で、次の自由研究のステップに進まなかったチームがあったことは、期待されていただけに非常に残念なことである。

 審査においては、レポートの書き方の良し悪しが評価結果を左右する場合があった。レポート作成にあたっては、定量的な観察・考察、論理的な記述が要求されることはもちろんであるが、それらを簡潔にわかりやすく図表化してまとめることに留意して欲しい。ページ数が多ければ良いというものでもない。また、ワープロの変換ミスか注意不足のせいか、誤字が散見されたレポートが多かった。指導教員には、今後は実験レポートの作成法についてもきめ細かな指導をしていただくことを希望したい。

 我々も、より多くの高校生が飛びつくような宇宙実験に関連した面白いテーマを探して、魅力的な教育実験の機会が今後とも更に提供されることを望んでいる。

審査員一同
平成15年5月8日

<審査委員>

委員長 : 細矢 治夫 (ほそや はるお) [ お茶の水女子大学 名誉教授 ]
委員 : 八木 達彦 (やぎ たつひこ) [ 静岡大学 名誉教授 ]
委員 : 安岡 則武 (やすおか のりたけ) [ 姫路工業大学 名誉教授 ]
委員 : 岩崎 不二子 (いわさき ふじこ) [ 電気通信大学 名誉教授 ]
委員 : 平山 大 (ひらやま たい) [ 東京都立忠生高等学校 教諭 ]

STS-107宇宙実験教育プログラムの経緯と今後のスケジュール

平成14年2月20日募集開始
平成14年3月22日募集締め切り 
89校149件(約700名)の応募があった。
平成14年3月27日(水)実験説明会の開催(東京/日本科学未来館)
平成14年4月 予備実験の実施
応募全チームに、NASDAからタンパク質結晶成長実験キットを配布し、それを用いて良質なタンパク質結晶を作る実験条件を探しだしてもらった。
平成14年4月30日(火)1次レポートの提出締め切り
予備実験の結果を1次レポートとして提出。
平成14年5月16日(木)1次審査
予備実験結果と実験過程が優秀だった6件が宇宙実験チームとして選抜され、宇宙実験の機会が与えられた。
平成14年5月〜9月 自由実験・研究の実施
宇宙実験チーム並びに選抜にもれたチーム(地上実験チームと呼ぶ)は、タンパク質または結晶に関する自由な実験・研究を実施した。
平成14年6月以降 スケジュールの見直し
シャトル打上げ延期により、本プログラムのスケジュールを随時見直した。
平成14年9月26日(木)最終レポートの提出締め切り
自由研究結果を最終レポートとして提出。
平成14年12月25日 宇宙実験グループの宇宙実験サンプル提出
宇宙実験チーム(6件)からのスペースシャトルに搭載するためのサンプル溶液が筑波宇宙センターに届けられた。
平成15年1月17日(金)スペースシャトル打ち上げと宇宙実験実施
タンパク質結晶成長実験装置(CMPCG)を利用した宇宙実験を約16日間にわたって実施したが、「コロンビア号」の事故により宇宙実験チームの実験試料は残念ながら失われる結果となった。
平成15年3月24日(月) 宇宙実験グループの最終レポート締め切り
宇宙実験条件検討をまとめた最終レポートが提出された。



平成15年6月15日(日) 表彰式(予定)
NASDA東京事務所にて実施予定。
平成15年7月〜8月 成果報告会(予定)
受賞者によるプレゼンテーションを予定。