本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。
1. 報告事項
MDS-1「つばさ」の軌道上運用の状況と停波運用について報告する。
2. MDS-1の概要
(1)経緯
- MDS―1は平成14年2月4日にH-IIAロケット試験機2号機で打ち上げられた。
- 静止衛星軌道約10年分に相当する厳しい放射線環境に耐え、衛星システム機器は故障なくミッション期間(1年間)を達成し、平成15年2月26日に定常段階を終了した。その後、同年2月27日より後期利用段階へ移行した。
(2) ミッションの目的
民生部品の軌道上における機能確認、コンポーネント等の小型化技術確認及び放射線等の宇宙環境の計測を行うことを目的とする。
3. 現在までに得られた成果
ミッション期間を越え、当初予定していた民生部品の軌道上データおよび宇宙環境計測のデータ等所要のデータを計画通り取得し、多くの成果を得た。以下に主要な成果について示す。(詳細は別添資料参照)
- 評価した民生部品技術について、地上評価試験及び軌道上データを比較検証することにより、地上評価試験技術を確立できる目途が得られた。また、この中で宇宙用太陽電池について世界のトップレベルを狙える知見が得られた。
- コンポーネント実証についても、今後の衛星開発に向け非常に有益な実証データが得られた。(ALOS、ETS-VIII、JEM等)
- 宇宙放射線環境の計測においては、従来設計に使用しているNASAモデルに比べ、穏やかな放射線環境であるデータが得られ、今後の放射線対策最適設計へ反映できる。
- 「つばさ」で採用した短期間、低開発コストを目指した新たな衛星開発手法の有効性について確認でき、今後の衛星開発へ適用が期待できる。(簡素化設計、1段階衛星開発等)
4. 現状
- 平成15年7月30日(水)電源系の1系統に異常が発生した。
- 異常はバッテリ#1系統の充放電回路またはバッテリ1の可能性が高い(含む周辺回路)。
- 現在、食時間は約120分程度であり、食中は可能な限りの負荷を軽減した運用を行っている。
- MDS-1は既に予想以上の成果が得られ、後期利用段階にあることから、今回の電源系異常状況を踏まえ、早期に大気圏再突入措置(近地点高度低下措置)および電波発信停止準備を行う必要があり、近地点高度低下措置はその措置が効果的に行える8月末に実施した。
- 電源系の異常に加え、食中の太陽電池パドル温度の低下(-170℃以下)や近地点高度低下による原子状酸素の衛星搭載機器への損傷が懸念されるなど衛星状態がさらなる異常に見舞われ制御不能に陥る可能性が高い状態にあると判断され、衛星運用継続が難しい状況に来ている。
5. 今後の進め方
現状を踏まえ、衛星状態を監視しつつ、電源系異常原因究明作業として残っているリスクの高い作業を出来る限り実施した後、電波発信停止作業を9月24日から開始し9月26日頃までに完了することとしたい。
なお、現在までに蓄積してきた実験データについては、新宇宙環境モデル、及び民生部品等の先端部品の宇宙適用を可能とする地上試験基準、耐放射線保護方策について本年12月を目途にワークショップを開催し、具体的な提案を行う予定である。また、民生部品の宇宙適用については、来年6月を目途に「民生部品宇宙適用ガイドライン(仮称)」を作成し、民生部品業界の宇宙分野への参入促進を目指すこととしたい。

図.1「つばさ」軌道上概念図
表.1「つばさ」システム主要諸元
| 本体寸法 |
1.2m×1.2m×1.5m |
| 質 量 |
約480kg |
| 発生電力 |
約900W(EOL) |
| 姿勢制御 |
太陽指向スピン安定(5rpm) |
| ミッション期間 |
1年間 |