プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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MDS-1「つばさ」の状況と今後について

平成15年8月27日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 報告事項

 MDS-1「つばさ」の軌道上運用の状況と今後の運用について報告する。

2. MDS-1の概要

(1) 経緯

  • MDS-1は平成14年2月4日にH-IIAロケット試験機2号機で打ち上げられた。
  • 静止衛星軌道約10年分に相当する厳しい放射線環境に耐え、衛星システム機器は故障なくミッション期間(1年間)を達成し、平成15年2月26日に定常段階を終了した。その後、同年2月27日より後期利用段階へ移行した。

(2) ミッションの目的

 民生部品の軌道上における機能確認、コンポーネント等の小型化技術確認及び放射線等の宇宙環境の計測を行うことを目的とする。

3. 現在までに得られた成果

 ミッション期間を越え、当初予定していた民生部品の軌道上データおよび宇宙環境計測のデータ等所要のデータを計画通り取得し、多くの成果を得た。以下に主要な成果について示す。(詳細は別添資料参照)

  1. 評価した民生部品技術について、地上評価試験及び軌道上データを比較検証することにより、地上評価試験技術を確立できる目途が得られた。また、この中で宇宙用太陽電池について世界のトップレベルを狙える知見が得られた。
  2. コンポーネント実証についても、今後の衛星開発に向け非常に有益な実証データが得られた。(ALOS、ETS−VIII、JEM等)
  3. 宇宙放射線環境の計測においては、従来設計に使用しているNASAモデルに比べ、穏やかな放射線環境であるデータが得られ、今後の放射線対策最適設計へ反映できる。
  4. 「つばさ」で採用した短期間、低開発コストを目指した新たな衛星開発手法の有効性について確認でき、今後の衛星開発へ適用が期待できる。(簡素化設計、1段階衛星開発等)

4. 現状

  1. 平成15年7月30日(水)電源系の1系統に異常が発生した。
  2. 異常はバッテリ#1系統の充放電回路またはバッテリ1の可能性が高い(含む周辺回路)。
  3. 現在、食時間は約90分程度であり、正常なバッテリ2からの電力供給で対応可能であるが、8月末からの100分以上の食対応は困難な状況にある。
  4. MDS-1は既に予想以上の成果が得られ、後期利用段階にあることから、今回の電源系異常状況を踏まえ、早期に大気圏再突入措置(近地点高度低下措置)および電波発信停止準備を行う必要がある。
  5. 近地点高度低下措置はその措置が効果的に行える8月末に実施することが望ましい。

5. 今後の進め方

  1. スペースデブリ発生防止標準(STD-18A)に従い8月末までに近地点高度を下げることとする。なお、この近地点高度低下は25年以内にMDS-1が大気に再突入する約200km程度とする。
  2. 衛星状態を監視しつつ、異常原因究明作業をできる限り実施した後、所要の時期までに停波作業を完了する。



図.1「つばさ」軌道上概念図

「つばさ」軌道上概念図

表.1「つばさ」システム主要諸元

本体寸法 1.2m×1.2m×1.5m
質 量 約480kg
発生電力 約900W(EOL)
姿勢制御 太陽指向スピン安定(5rpm)
ミッション期間 1年間

図.2 MDS-1バッテリ充放電回路外略図

MDS-1バッテリ充放電回路外略図

図.3 デブリ対策の為の軌道制御(近地点高度低下)

デブリ対策の為の軌道制御(近地点高度低下)




別添 「つばさ」MDS-1 ミッション成果概要

MDS-1に搭載されている6種類の実験機器




つばさ(MDS-1)の実験概要

搭載実験機器主な実験内容主な成果成果の活用例
  • 民生半導体部品 実験装置
  • 地上用太陽電池 実験装置
  • 民生部品の宇宙環境に於ける劣化データの取得及び地上データとの比較評価
  • 劣化や誤動作とその時の放射線環境との相関
  • 民生部品の宇宙適用のための評価手法
  • 太陽活動と部品劣化との対応モデル
  • SEE(注)発生分布図のデータ提供
  • 半導体レコーダ実験装置

  • 並列計算機システム実験装置

  • CPV型バッテリー実験装置
  • 軌道上の放射線や無重量環境下におけるコンポーネントの基本動作の確認
  • 機器の動作状況とその時の放射線環境との相関
  • 誤動作を補う機能の有効性確認
  • 寿命データの取得
  • 次世代の衛星に先進コンポーネント技術採用の道を開く (Flight proven)
  • 宇宙環境計測装置
  • 宇宙放射線
  • ・電子   ・陽子
    ・α粒子  ・重粒子
    ・放射線総被曝量

     等のデータを取得
  • 宇宙放射線に係るデータベースの高度化
  • 実験用民生部品、実験用コンポーネントの校正データ提供

  • 高精度放射線モデル

  • 宇宙機器の放射線耐性設計基準の見直し
  • (注)SEE: Single Event Effectの略

    成果の活用(次世代衛星への反映)

    • 民生半導体部品の地上評価技術のブラッシュ・アップ
       >民生部品採用のガイドラインの作成
    • 新たな宇宙放射線データ取得、モデルの更新
       >「耐放射線設計基準」の更新
       >宇宙機環境設計基準(ISO)へ反映
       >バンアレン帯のダイナミクスの解明