プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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WMO衛星問題ハイレベル協議会の結果について

平成15年2月26日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

目 的

世界気象機関(WMO)の全球観測システム(GOS)に宇宙機関の研究開発(R&D)衛星を含めることについて、WMOと世界の宇宙機関が協議を行った結果について報告する。

世界気象機関(WMO)

185のメンバー国から構成される国連の専門機関。1950年に設立。気象と水及び気候に関する情報の作成と交換に関する参加国の活動、研究、専門家の訓練等の調整を行っている。


1. WMO衛星問題ハイレベル協議会の概要

  • 目 的
    --気象業務へのR&D衛星の利用の促進のために、気象ユーザの代表であるWMOと宇宙機関の間で協議を行う
  • 経 緯
    --第1回会合(平成13年2月、ボストン)目的及び宇宙機関計画の報告
    --第2回会合(平成14年2月、ジュネーブ)WMO業務における衛星の役割についての報告
  • 第3回会合の概要
    --平成15年2月3〜4日、WMO本部(ジュネーブ)WMO全球観測システム(GOS)への宇宙機関のR&D衛星の参加
    --出席:
     オバシWMO事務局長、ジルマンWMO理事長(議長)、ムーアEUMETSAT理事長、ウイッティNOAA局長、アシャシェESA地球観測局長、マジャーCNES地球観測次長、ケルカー・インド気象庁長官、ファン中国気象庁次長、ライリエン中国宇宙庁次長、ディデュチェンコ露水文環境庁次長、日本から小澤気象庁気象衛星室長、古濱宇宙開発事業団理事ほか約40名

2. WMO宇宙計画の拡大について

  • 2002年2月、第2回ハイレベル協議会において、WMOの要請に応えて宇宙機関がR&D衛星の観測データを気象業務へ利用させることを表明
  • 2002年6月、第54回WMO理事会議は、WMOの全球観測システム(GOS)の宇宙部分に、宇宙機関のR&D衛星を含めることを了承
  • 2003年1月、気象衛星調整会議(CGMS)は、宇宙機関(NASDA、NASA、ESA、ロシア宇宙庁)に対して、CGMS正式メンバー参加を招請
  • 2003年2月、第3回ハイレベル協議会において、NASA、ESA、ロシア宇宙庁は、参加招請の受諾を回答、さらに中国宇宙局、CNESも参加を表明.

気象衛星調整会議

(CGMS: Coordination Group for Meteorological Satellites)
 気象衛星に関する情報交換と技術調整を目的として、衛星運用機関により1972年に設立された国際調整委員会。気象庁、NOAA、中国気象局、インド気象局、ロシア水文気象局、EUMETSAT、WMO、IOCがメンバー。現在の気象衛星の調整を行っている。

WMO全球観測システム(GOS)宇宙部分の拡大について

 GOSは、WMOが参加国の協力により構築を進めている地上観測網と衛星による全球観測システム。宇宙部分については従来、静止及び極軌道の実用気象衛星で構成されているが、これに宇宙機関の研究開発(R&D)衛星を参加させることがWMO理事会議で合意された。

静止気象衛星(6機)

  • 可視赤外撮像計
  • 赤外サウンダー

極軌道衛星(4機)

  • 多チャンネル撮像計
  • サウンダー
  • GPS掩蔽法
  • 高度計(2機)
  • マイクロ放射計または散乱計(2機)

WMOに協力するR&D衛星(複数)

  • 小型衛星群によるGPS掩蔽法
  • 風ライダ
  • 降雨レーダ及びマイクロ波放射計
  • 高度ハイパースペクトラル放射計(LEO及びGEO)
  • 雷(GEO)
  • マイクロ波(GEO)

3.R&D衛星のGOSへの参加について

  • WMOにとってのメリット
    --最新観測技術による新たなデータ及びサービスの提供
    --宇宙機関によるR&D衛星データ利用の教育・訓練の提供
  • 宇宙機関にとってのメリット
    --R&D衛星の利用の促進
    --気象利用者からのフィードバック
    --R&Dミッションから実用ミッションへの移行促進

4. WMOの宇宙計画(2004〜2007年)

 WMOの次期宇宙計画は、WMO宇宙計画への宇宙機関とそれらのR&D衛星の参加を促進することを目標としている

  • 2004〜2007年の主な目標
    --環境観測衛星(R&D衛星)のGOSへの参加促進
    --低分解能画像サービスのデジタル化
    --最新技術に関する教育・訓練.
  • プロジェクト内容
    --基幹システム調整会合(2回)
    --衛星利用シンポジューム(6回)
    --衛星気象学トレーニング(1回)
    --R&D衛星災害防止シンポジューム(2〜4回)
    --R&D衛星災害防止セミナー(2回)

5. NASDAの今後の取り組み

  • 気象衛星調整会議(CGMS)への参加
  • TRMM、ADEOS-II等観測データの気象業務への利用促進
    --気象庁等への準リアルタイムデータの提供
    --EUMETSAT等からの要求への対応
  • R&D衛星データ利用に関わる教育・訓練の実施
    --アジア太平洋パイロットプロジェクト等の実施



補 足

世界の気象機関によるR&D衛星の利用(各国レポートより)

機関名 衛星名 形態 利用目的
豪州気象機関 ERS-1, ERS-2 現業 海上風の数値予報入力
  QuickSCAT 現業 同上
  DMSP SSM/I 現業 降水量推定
  TRMM 現業・R&D 降水量推定とサイクロン予報
  Topex/Poseidon R&D・現業 海面高度の海洋データ同化
  Aqua/AIRS R&D・現業 サウンディングデータの数値予報入力
  Terra/MODIS R&D・現業 SST, 雲識別、火山灰
  Jason R&D 海洋データ同化
  ADEOS-II R&D・現業 海上風、マイクロ波放射計データ
  ENVISAT R&D 海上風、SST
  GCOM R&D 気候研究
  GIFT R&D 将来の数値予報
中国気象局 EOS/MODIS R&D 雪氷観測、山火事面積推定
  FY-1A, FY-1B 現業 植生、洪水、雪氷、SSTの観測
キューバ水文気象庁 TRMM 計画中 PR、TMIデータ
デンマーク気象研究所 ERS-1, ERS-2 現業 海氷監視
  QuickSCAT 現業 同上
  ADEOS-II R&D 同上(SeaWINDS及びAMSRデータ)
  Aqua/MODIS R&D 同上
欧州中期気象予報センター TRMM 現業 数値予報(TMI)
  QuickSCAT 現業 数値予報
  ADEOS-II 現業 数値予報(SeaWINDS)
フランス気象庁 POLDER R&D 放射収支データセット作成
ドイツ気象庁 ERS-2 現業 オゾン予報
ドイツ海洋水文機関 ERS R&D 海氷監視
ドイツ水文研究所 ERS R&D 土壌水分
印度気象局 DMSP SSM/I 現業 数値予報
  ERS-2 R&D 数値予報
  TRMM R&D 数値予報
  QuickSCAT R&D 数値予報
気象庁(日本) TRMM 現業 台風解析、数値予報、降水監視
  SSM/I 現業 数値予報、海氷監視
  QuickSCAT 現業 台風解析、数値予報
  ADEOS-II 現業 SST、海氷監視
  Topex/Poseidon 現業 海洋解析
  SAGE-II 現業 オゾン監視
オランダ気象庁 ERS 現業 数値予報
  QuickSCAT 現業 数値予報
  ADEOS-II 現業 数値予報
ニュージーランド QuickSCAT 現業 嵐の位置、前線の検出
  ADEOS-II 現業 同上
ロシア水文環境監視庁 Okean 現業 気象及び海洋監視
  Resurs 現業 気象及び環境監視
  SPOT-4 R&D 土地利用
  SAGE-III R&D 放射収支データセット作成
  ScaRab R&D 同上
  ERS R&D SARデータ利用
  MODIS R&D 植生、海洋監視
  AQUA R&D 同上
  CriS R&D サウンディングデータ
  GIFTS R&D 同上
  IASI R&D 放射収支データセット作成
  TRMM-CERES R&D 放射収支データセット作成
  DMSP SSM/I 現業 数値予報
  QuickSCAT 計画中 数値予報
NASDA関連ミッション


気象業務におけるR&D衛星の利用例の報告

WMO技術資料「WMO業務における衛星の役割」より

TRMMの降雨レーダ観測データから得られた2年間の月別降水分布(NASDA)
降雨レーダによって海上の降水分布を世界で初めて明らかにした。月別降水分布は気候値(気象の統計データ)の作成に使われる。



左上、左下: TRMMで得られたエル・ニーニョ期間(1998年1月)中とラ・ニーニャ期間(1999年1月)中の降水量
右上、右下: 気候モデルから予想された同期間の降水量 (英国気象庁)
TRMMの観測データは、モデルの検証に使われる。



ADEOS/TOMSによって1996年10月15日に観測されたオゾン全量分布(GSFC作成)。
DEOS海上風観測装置による1997年エル・ニーニョ時の、海面水温と海上風速 (JPL作成)。



R&D衛星による気象観測のブレークスルー

(世界気候研究計画(WCRP)のデータ要求から)

  • 過去10年間に約30のR&D衛星が打ち上げられた。R&D衛星によって以下の気象観測のブレークスルーが実現された。
    --海洋
     ・海面高度(Topex/Poseidon、Jason-1)
     ・全天候海面水温(TRMM、AMSR-E)
     ・全球海上風(ERS、ADEOS、QuickSCAT)
     ・海色観測(ADEOS、Envisat、Terra、Aqua)
    --大気
     ・3次元降雨分布(TRMM)
     ・雲パラメータ(ADEOS、Envisat、Terra、Aqua)
     ・大気化学成分(ADEOS、Terra、ERS-2)
    --陸域
     ・地殻変動の検出(ERS、JERS-1、Radarsat-1、Envisat)
  • 今後さらに精度が改善されることが期待されるR&D衛星
    --ADEOS-II、ICEsat(NASA)、Cryosat(ESA)、ALOS、Radarsat-2
  • 現在検討中の将来計画の中で優先度の高い計画
    --全球降水観測計画GPM(NASDA/NASA/ESA)
    --土壌水分・海洋塩分濃度観測衛星SMOS(ESA/CNES)