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ブルース・マレー 写真 火星探査研究最前線から――火星に生物はいたのか
			カリフォルニア工科大学名誉教授
			ブルース・マレー
ブルース・マレー 写真 過去に多くのサイエンスフィクションが作られていることからもわかるように、人類は火星の生命に対して非常に興味を抱いてきました。生命の存在が確実となったわけではありませんが、見つかる可能性が最も高い場所であることは確かです。
火星の生命探査
NASAの火星探査機「スピリット」と「オポチュニティ」は、地質学者と同様の調査機能を備えている私たちが発見したいのは、生命体ではなく、古代に存在したであろう微生物にとって必要だった水の証拠です。火星の地表面に水が存在したのではないか、地球と同じような液体の水があったのではないか。だとすると、そうした環境に、過去において生物が存在していた可能性があるのではないかという、生物学的というよりも地質学的なテーマなのです。現在、スピリットとオポチュニティという2台の火星探査機(マーズ・エクスプロレーション・ローバー:MER)がその証拠を探すために探査活動を行っています。
この探査機は、岩石を削ったり掘ったりと、地質学者がするほとんどのことができるように設計・開発されており、試料を集めて、その中に含まれている鉱物まで分析することもできます。これは従来になかった、非常に重要な機能です。
スピリットの成果
グセフ・クレータースピリットは、赤道に近いグセフ・クレーターへの着陸に成功しました。グセフ・クレーターは非常に大きく、端から端まで200km近くもあり、40億年前にできたであろうといわれています。
衛星の画像では、谷がクレーターにつながっていて、ちょうど水が流れて込んでいるように見えるので、堆積物があるかもしれないと期待されていました。しかし、堆積物ではなく、比較的変成の少ない玄武岩が発見されました。
その後、より古く、変成の進んだ岩盤が多く露出しているコロンビア・ヒルズに到達することができました。その地点でさらに調査を行うことで、火星の表面の歴史におけるより古い、水に結びつく証拠を見つける可能性もあります。
オポチュニティの成果
子午線の湾(サイナス・メリディアニ)。サイナス平原はこの一部。色はヘマタイトの存在を示している。赤やオレンジ色は高い含有率を表すもうひとつのローバー、オポチュニティは赤道付近のメリディアニ平原に到着しました。ちょうどスピリットが降りた場所の反対側にあたります。
メリディアニ平原のイーグル・クレーターにあった露出した岩盤を調査したところ、層状になっており、その付近に水との相互作用によって作られることが多いヘマタイトが発見されました。火星の土壌に散在していた多量のヘマタイトが、堆積層から風化してきたことがわかったのです。
岩石の露頭のくぼみで発見した小球体。ブルーベリーと名づけられた。ヘマタイトが含まれているオポチュニティによるさまざまな発見と科学分析チームの調査分析の結果、メリディアニ平原の過去の環境は、以下のようだったと推測されます。

・ 硫黄と鉄分に富んだ含水鉱物が水中で沈積した。水の蒸発があった可能性がある。
・ 地表に水があり、流れていて、おそらくその深さは浅かった。
・ この古代のメリディアニ平原の環境は広範囲に及んでいたものと思われるが、それは、いくつもの水の流れによって形成されたものである。
・ この岩石は非常に古く、おそらく地球の始生代にあたるものである。

リオティント(スペイン)。鉄分と硫黄を豊富に含んだ酸性の赤い水に多くの特殊な微生物が存在するつまり、はるか昔、鉄や硫黄を多く含む水の作用で沈積した地層をさらに流体が通過した結果、ヘマタイトを含む堆積層が形成され、時間をかけてその地点に露出した岩盤が形成されていったと考えられます。
ただし、ここにあった水は酸性度が驚くほど異常に高くpH2くらいだったと推測されます。生命にとって非常に厳しい環境ですが、スペインのリオティントはメリディアニ平原と同様の酸性度にもかかわらず、微生物が存在しています。
火星の生命の可能性
おそらく火星には統合された水系環境があったのではないでしょうか。少なくとも35億年前のメリディアニ平原付近には存在し、その水は、鉄分、硫黄に富んだ酸性水だったと考えられます。

地球からの調査と火星の地上探査にもかかわらず、火星の表面に石灰岩は見つかっていません。それは、火星の最初の環境が、非常に酸性度の高いものだったからではないかと考えられます。つまり、この浅い水の環境というのは、生命誕生の頃の地球環境とは化学的にまったく違ったということです。
このような環境下で、火星の生命体は生き延びることができたのでしょうか? リオティントの生命ような、地球に存在する証拠がその可能性を示唆しています。

リオティントにいるのは、進化形の生命体です。しかしながら、これらの生命が地球上でどのように進化したのか、そして、火星でも同様のことが起きたかどうかはわかりません。私たちは、複雑な化学物質から自己複製する有機物への第一歩が、地球上でどのように起こったのかという問いに対する適当な答えを持ち合わせてはいないのです。とは言うものの、一部には生命はどこか別の場所で誕生して、約40億年前に起こったとされるジャイアントインパクトの隕石の破片によって運ばれたと言う人たちもいます。

オポチュニティは、かつて火星に水が存在し、微生物が住める環境があった可能性を示す確かな証拠を今回初めて発見しました。天体生物学、あるいは火星における生命ということについて非常に大きな一歩を進めることができたのです。もちろん有機物が入った化石が見つかったわけではなく、実際に生物がいたかどうかはまだわかっていませんが、今後につながる非常に素晴らしい探査だったと思います。

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