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「はやぶさ」の演技を見てほしい

「はやぶさ」のカプセルが着陸したオーストラリアのウーメラ砂漠でも撮影が行われた。
「はやぶさ」のカプセルが着陸したオーストラリアのウーメラ砂漠でも撮影が行われた。

山根:野口さんはオーストラリアのウーメラ砂漠にも行ったんですか?

野口:いいえ。私は行っていませんが、下見に行った監督たちから、ウーメラ砂漠で見上げた夜空は満天の星だったと聞きました。とにかく星の数がすごかったと聞いて、私も行ってみたいと思いました。

山根:監督には「絶対にあの星空を見てください」と話したんです。私は「はやぶさ」の帰還を迎えるためにウーメラに行きましたが、3日前からずっと、これまで見たことがないほどすごい星空でした。あそこは地球上で最も星が美しいと言われているほどですからね。映画の試写を見て、本物の空よりも星の数がちょっと足りないと思ってしまったくらいです。

野口:やはりそうですか。実際のウーメラでの撮影時は天気に恵まれず曇り空だったので、CGで星を描いているのですが、実は、監督からは「星が足りない。実際はもっと星が見えるんだ」と何度も言われました。でも、あまり星の数を増やしすぎるとウソっぽい絵になってしまうので、そうならないように星の数を抑えました。そういう意味では、「はやぶさ」の大気圏再突入のシーンの光も、結構抑えています。

山根:そうだったのかぁ。私は「はやぶさ」の大気圏再突入をいわば真下で見ていたわけですが、空でバーンと大爆発が起きたように感じました。45秒間の露光で撮った写真には、クルマの影も写っていました。空が明るくなって本当にすごい光景だった。でも、実際に肉眼で見ていたシーンは、私の心の中で誇張された映像だったのかもしれません。おっしゃる通り、星の数が多く明るすぎたり、大気圏再突入の爆発が大きかったら、映画を見る方はかえってウソっぽいと受けとめたかもしれませんね。

野口:長い間宇宙を旅してきたことを象徴するような、映画の中の汚れた「はやぶさ」はどう思われましたか? 汚れた状態は誰も分からないので、相当議論をしたんです。

山根:宇宙は真空なので、「はやぶさ」は汚れないのでは?

野口:黒くはならないでしょう。ただ、運用中は太陽光が当たっているので、経年劣化と言うか、色あせと言うんですかね。それはあるんじゃないかと思ったんです。また、イオンエンジンのスラスターの部分も燃えているんじゃないかと思いましたが、そのあたりのことをJAXAに取材をしても「そんなに燃えるのかなあ」と言われてしまいました。誰も見たことがないから分からないんです。それから、外部の熱から守るために探査機を包んでいる金色のサーマルブランケットがありますよね。お菓子の袋を持って飛行機に乗ると、気圧の変化で袋がパンパンに膨らむように、実際にはサーマルブランケットが宇宙で膨らんで、探査機の外観は丸くなっているかもしれないと言われました。でもそうすると、こっけいな絵になってしまうので、膨らませないでシワシワのままにしようとか。みんな、いろいろなことを言うんですよ。

山根:サーマルブランケットが膨らんだら「はやぶさ」は肥満体になっちゃう(笑)。でもね、いま野口さんがおっしゃったことは、JAXAにとっては大きな問題ではないのでは。搭載した機械が壊れないことが何よりも大事ですから。もちろん、打ち上げる前には、衛星や探査機を巨大な真空装置の中に入れ、太陽光と同じ強烈な光を当てる試験もしていますがね。JAXAのエンジニアたちは、自分たちがこれまで考えもしなかったことを野口さんに聞かれて驚いたかもしれません。映画で宇宙を再現するのに、そこまで考えるのかって。

野口:だから、汚れのところは私たちの想像で作っていますが、どんなふうにするかという落としどころを決めるまでに、みんなでだいぶ議論しました。こういう部分も、私たちにとっては新たな取り組みだったと思います。

山根:みなさんがそこまで議論をし、努力されたとはびっくりです。この映画の出来にご自身で点数をつけるとしたら何点ですか?

野口:90点くらいですかね。

山根:野口さん、「100点です!」って言わなきゃだめですよ(笑)。

野口:やりきった感はありますが、もう少し時間が欲しかったというのがありますので・・・。でもそれが次の作品に結びつくんです。

山根:『はやぶさ 遥かなる帰還』は、次の宇宙映画へのワンステップなんだ。

野口:「はやぶさ2」があれば。

山根:そうだ。「はやぶさ2」がある! 次もぜひ映画にしてください。

野口:その前にまずは、『はやぶさ 遥かなる帰還』でお見せする「はやぶさ」の演技を、ぜひみなさんにご覧いただきたいと思います。

関連リンク: 映画『はやぶさ 遥かなる帰還』公式サイト
特別対談 日本よ、自信を取り戻し新しいことをやろう 川口 淳一郎 × 渡辺 謙

(写真提供:2012『はやぶさ 遥かなる帰還』製作委員会)

山根一眞(やまねかずま)
ノンフィクション作家、獨協大学経済学部特任教授

獨協大学外国語学部ドイツ語学科卒業。JAXA嘱託、福井県文化顧問、生物多様性戦略検討会委員(農林水産省)、日本生態系協会理事、NPO子ども・宇宙・未来の会「KU-MA」理事、2005年の愛知万博では愛知県総合プロデューサーを、また月探査に関する懇談会委員(内閣府)など多くの宇宙関連の政府委員も務めてきた。著書は、20冊を超える「メタルカラーの時代」シリーズ(小学館)、「環業革命」(講談社)、「賢者のデジタル」「小惑星探査機 はやぶさの大冒険」、「ビジュアル版 はやぶさの大冒険(最新刊)」(マガジンハウス)、「日本のもと・技術」(講談社)など多数。


野口光一(のぐちこういち)
東映アニメーション株式会社 VFXスーパーバイザー

1989年、リンクス(現イマジカ)に入社。1995年に渡米。ボス・フィルム・スタジオで、特撮監督として世界的に有名なリチャード・エドランドに師事し、「スピーシーズ」「ウォーターワールド」「エアフォース・ワン」のVFX制作を担当。現在、東映アニメーションのVFXスーパーバイザーとして、「男たちの大和/YAMATO」「俺は、君のためにこそ死にいく」「ハッピーフライト」「怪談レストラン」などに参加。

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