上出洋介(かみでようすけ)
りくべつ宇宙地球科学館館長。名古屋大学名誉教授。理学博士。
北海道大学理学部卒業。東京大学大学院修了。大学院修了後に渡米。アラスカ大学地球物理研究所、コロラド大学環境科学研究所、米国立地球物理データセンター、米国立宇宙環境研究所、米国立大気科学研究所を経て、1992年より名古屋大学太陽地球環境研究所教授。1999年より6年間、同研究所の所長を務める。その後、京都大学生存圏研究所特任教授。2010年にりくべつ宇宙地球科学館館長に就任。オーロラ発生の広範囲にわたる研究や宇宙天気予報の基礎確立が評価され、2003年英国天文学士院プライスメダル、2012年にはアジア・大洋州地球科学会(AOGS)からアックスフォードメダルを授賞など。太陽やオーロラ、磁気嵐に関する著書を多数出版。
私の研究テーマは、一言で、太陽と地球のユニークな関係を解き明かすことです。例えば、自分の頭のサイズが太陽だとすると、地球は何m先にあって、大きさはどれくらいだと思いますか? 答えは、30m先にある直径2mm程度の球が地球です。太陽はそんなに小さい地球のことはまったく気にかけず、太陽風やX線や紫外線などを放出しています。私はその中の太陽風、つまりプラズマ流が、地球の磁場と相互作用して起こす電磁気学的な現象を研究してきました。その現象の1つがオーロラです。でも実は、オーロラはまだ分からないことだらけなんですよ。
太陽と地球磁気圏(提供:上出洋介)
まず簡単にオーロラの発生原理をお話しましょう。オーロラは、太陽が放出している太陽風によってつくられます。太陽からプラズマ粒子(太陽風)が放出され、それが地球の極地の高層大気と衝突して発光します。一種の放電現象なのです。オーロラは、地上から100〜500kmの高さで光っています。プラズマ粒子が大気中の原子や分子と衝突して発光するのがオーロラです。酸素原子とぶつかると白っぽいグリーンや赤色、窒素分子とぶつかると紫や青色になるというように、プラズマ粒子がどの原子や分子と衝突するかで色が変わります。
地球の磁気圏は、地球の夜側にしっぽのように長く伸びていますが、プラズマ粒子は、磁気圏の夜側の中心付近に溜まります。それが、何かしらのきっかけで地球の極域の方に一気に流れ込みます。でも、その詳しい仕組みはまだ分かっていないのです。また、真夜中付近に夜空が突然光が吹き出したかのように明るくなり、激しく動きながら一気に広がっていくオーロラがあります。これをブレークアップ、あるいはオーロラ爆発と呼んでいますが、何をきっかけにそれが起きるのかも未だに分かっていません。
ノルウェーで撮影されたオーロラ(提供:Ole C. Salomonsen)
オーロラの中には電流が流れています。激しいオーロラの場合、全電流が何百万〜何千万アンペア、かかる電圧は数百キロボルトにも達します。私は、地球の磁場のデータから、オーロラのもとになる電場、電流を計算する方法を生み出しました。これにより、地球上での磁場変動データがあれば、今どこに、どれくらいのオーロラが発生しているのかが自動的に分かるようになったのです。
具体的に言いますと、地球上には磁場の標準観測地点が100ヵ所以上もあり、日本にも北海道の女満別、茨城県の柿岡、鹿児島県の鹿屋の3ヵ所にあります。その磁場の観測データを使って、それを起こす電流がどこを流れているのか、その電荷を運ぶ電場がどこから来るのかを求める方法を考え出したのです。これは、地上での磁場変動の分布から、オーロラ電位の世界地図を描くようなものです。10年間以上考え続けてきて、1981年にようやく論文を発表できましたが、すぐに世界中から反応があって評価していただきました。
少し専門的な話になりますが、私は、「電流 = 電気伝導度 × 電場」というオームの法則にのっとって、オーロラのもとになる電場をつかまえようとしました。オームの法則を電位で書くと微分方程式になりますので、これを数値的に解けばよいというのは分かっていましたが、この微分方程式は、100年間も誰も解けないという難解な式でした。
私は、時間があればノートを広げて、なんとか数値的に解けないかと10年ぐらい考え続けましたがダメでした。それで半ば諦めていたときに、ある日、数値的な解き方がパッとひらめいたのです。私はそのアイデアを携えて、アメリカの友人、リッチモンド(A. D. Richmond)博士を訪ね、彼の数学の天才力を借りれば確実にその式を解けるという確信を得ることができました。そして、その翌年に米国立大気科学研究所(NCAR)の大型コンピュータを使って、微分方程式の解を求めることに成功したのです。
アメリカのミズーリ州で見られた低緯度オーロラ(2011年10月24日)(提供:Tobias Billings/NASA)
北海道の陸別で見られたオーロラ(2003年10月30日)(提供:りくべつ宇宙地球科学館)
今回は幸いにも、太陽嵐の吹き出す方向が地球を直撃しない向きだったので大きな被害はありませんでしたが、フレアとともに放出される高エネルギー粒子は、通信や送電網などの地球上のインフラや人工衛星の機器などに大きな被害を与えます。オーロラ電流を通して、停電を起こしたり、人工衛星の軌道を狂わせたりもするのです。
今年は、5月13日から15日にかけて、最高クラスの爆発が4回も連続して起きたので、地球を直撃したら大変なことになると注意報が出ていました。直撃はしなかったものの、強い太陽風の一部が地球の磁気圏に入り、アメリカのコロラド州などでは、赤い低緯度オーロラが発生しました。その時、もし日本が夜で天気が良かったら、北海道でもオーロラを見ることができたはずです。
確実には、2〜3時間くらい前でしょうか。フレアと異なる爆発現象でコロナ質量放出(CME)というものもあります。フレアもCMEも突発的に起きるので、地球に到達する直前でなければ、その効果であるオーロラや磁気嵐の予測ができません。しかし、少しでも被害を減らすため、人工衛星や地上から太陽活動を24時間監視して、宇宙嵐の確率を予測する取り組みが行なわれています。これを宇宙天気予報と言いますが、JAXAの太陽観測衛星「ひので」も予報に貢献している衛星の1つです。