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“太陽のオーロラ”が“地球のオーロラ”をつくる

──そもそも、太陽フレアはなぜ起きるのでしょうか?

太陽フレア(提供:SDO/NASA)
太陽フレア(提供:SDO/NASA)

 フレアのメカニズムの詳細はまだ解明されていませんが、太陽の磁場エネルギーが、プラズマのエネルギーに変換されるプロセスであろうとされています。太陽は熱いガス体で、緯度によって自転のスピードが異なります。赤道付近は約27日で1周していますが、極の近くでは1周するのに30日以上もかかるのです。磁力線もプラズマと一緒に動きますから、自転スピードの緯度による違いによって、磁場に歪みが発生します。ストレスが溜まるということです。それがある限界を超えると大爆発を起こすのではないかと考えられています。

 ところで、フレアは太陽のオーロラと言われているんですよ。

──太陽のオーロラ?!

 地球磁気圏の磁場は、太陽風の粒子と磁場によって変形します。これは、日本が1992年に打ち上げた磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」などによって確認されました。その歪んだ尾部磁場に起因するのが「オーロラ」です。これは、歪んだ磁場のエネルギーによって起こるフレアの発生メカニズムと驚くほど似ています。そういう意味で、フレアは太陽のオーロラだと言われるのです。つまり、“太陽のオーロラ”が“地球のオーロラ”をつくるというわけですね。

太陽に異変が起きている?!

──磁場と言えば、2012年に、「ひので」が太陽北極域の磁場の反転を捉えました。磁場の反転は定期的に起こるのですか?

従来の太陽の磁場(上)と2012年5月以降の太陽の磁場(下)(提供:国立天文台/JAXA)
従来の太陽の磁場(上)と2012年5月以降の太陽の磁場(下)(提供:国立天文台/JAXA)

 太陽は、約11年周期で訪れる活動ピークとともに、南北の極磁場が入れ替わります。けれど、その反転は南極と北極で同時に起きないのです。これも、なぜなのか分かっていません。昨年1月、「ひので」は、北極の磁場が、マイナス極からプラス極へ反転するのに向かってゼロ状態になっていることを見つけました。また、南極がプラス極のままほとんど変化していないことも確認しました。その結果、北極と南極がともにプラス極となって、赤道付近にマイナス極ができるような、太陽の磁場が4重極磁場構造になったわけです。人によっては、この状態を「異変」が起きていると言います。

 今年の1月の「ひので」の観測でも、南極の磁場の反転の兆候はまだ見られませんでした。太陽の極磁場の観測は、アメリカのスタンフォード大学などで以前から行なわれていて、磁場が反転すること、またその反転の仕方に両極で違いがあることは分かっていました。でも、今まさに反転しているという瞬間を高精度で捉えたのは、「ひので」が初めてです。

──磁場が4極化すると地球にどのような影響がありますか?

 分かりません。今まさに4極時代になっていますが、地球にどんな影響を及ぼすのでしょう。私たちのグループは、南北それぞれの極での反転に合致して、それぞれの極で活動度がピークに達するということを見つけ、発表しました。もっと複雑なのは、今年は11年周期で言えば太陽の極大期なのに、なぜか元気ではないという不思議な状況が起きています。

──不思議なこととは? 一体、なにが起きているのですか?

 2013年が活動のピークなはずなのに、その活動度を表す黒点の数が前周期のピークに比べて少なく、強い太陽フレアもあまり起きていないのです。強いフレアによって起こる大磁気嵐が、今年はまだ皆無なんです。これまでのピーク時は、17回くらい起きていたのに、今年はゼロだから変でしょう?!

 だけど、2010年に比べたら黒点の数は増えているので、一応、体を成しているわけですが、そのピークの値がいつもの半分ぐらいに落ちているのですね。これは、私が研究を始めてから初めてのことです。しかし、だいだい100年ごとに1回はこのような低活動期があり、それに応じて地球が寒冷化している記録が残っていますので、太陽にしてみれば、当たり前のことが起きているのかもしれません。人間の寿命がそれより短いからあたふたとしているだけで、太陽は今頃「何に驚いてるの?」と笑っているかもしれませんね(笑)。

太陽がある限りオーロラはある

──今年は太陽の活動期だからオーロラの当たり年だと聞いたことがありますが、オーロラの発生頻度は太陽活動と関係していますか?

ブレークアップオーロラ(提供:Nanook Aurora Tours/Yoshifumi Otsuka)
ブレークアップオーロラ(提供:Nanook Aurora Tours/Yoshifumi Otsuka)

 太陽が活発だからオーロラが出るというのは本当です。でも、その種のものは、オーロラ全体の数からすると1〜2割ぐらいです。それ以外の8〜9割は、気まぐれオーロラです。太陽の黒点が多いときに太陽活動が激しくなるわけですが、黒点がまったくなくなったとしても、太陽がある限りオーロラはありますからね。だけど、旅行会社の宣伝の影響で、太陽活動極大期の今年を逃すと、あと11年間はオーロラが見られないと思っている人がたくさんいます。これはよろしくないですね。

──北海道でもオーロラが見られることがあると言いますが、これは太陽の活動と……

 それは、ズバリ関係あります。超巨大なフレアが熱い太陽風を吹き出すと、大磁気嵐を起こし、普段アラスカやシベリアにあるオーロラがカムチャツカ半島くらいまで南下します。すると、オーロラカーテン上部の赤い部分が、北海道から北の地平線近くに見られるということです。

──オーロラの発生予測はできるのですか?

 発生の2時間くらい前ならばだいたい予測できます。地上磁場や衛星のデータを総合的に判断するのですが、衛星データは、NASAのACE(Advanced Composition Explorer)のものです。ACEはオーロラのもとになる太陽風を観測していますが、太陽風が観測点から地球に到達するまでの時間差を使って予測するのです。また、カナダの場合は、魚眼レンズでオーロラを撮る観測点が20ヵ所程ありますので、どのようなオーロラがどの位置まで到達しているかもリアルタイムで分かります。

“分からないこと”が好き

──オーロラを研究したいと思ったきっかけは何ですか?

国際宇宙ステーションから撮影されたオーロラ(提供:NASA)
国際宇宙ステーションから撮影されたオーロラ(提供:NASA)

 私が小学6年生から中学生の頃、1957年〜1958年にかけて国際地球観測年という国際事業がありました。地球の大気や磁場、宇宙空間のようすが世界規模で観測されました。当時は、人類初の人工衛星「スプートニク」の打ち上げや、南極に日本の昭和基地が作られるといったニュースが盛んに報道されました。と言っても、テレビがまだ一般的ではなく、小学生の私は、科学雑誌や新聞、ラジオを通してニュースを知りました。

 そんなとき新聞に、南極観測隊の隊長だった永田武先生の、「オーロラは太陽の活動と関係があるのに、なぜ地球の夜側に出るのか。その答えは世界の誰にも分かっていない。若い人にぜひ解明してほしい」という内容の談話が載っていたんです。それを見て、「はい、僕がやります!」と思ったのが最初のきっかけです。

──先生はどのような幼少時代を過ごされましたか?

 私は北海道出身で、自然を相手にするのが好きな、生意気な子どもでした。自然を見ていると不思議だなあと思うことが次々出てくるんです。例えば、砂浜に座って海を見ていると、風がまったくないのになぜ波があるのだろうと思ったり、山へ登ると、太陽に近くなるのになぜ気温が低くなるのだろうとか。そのような疑問は、できるだけ自分で調べて、自分で考えるようにしていました。そして、その答えをのちに学校で習ったときの「やったー!」という気分が大好きだったんです。でもどちらかと言えば、分かった時よりも、分からないときの方が興奮しましたね。これは研究者になっても同じです。あることが1個分かっても、分からないことが新しく10個ぐらい出てくるという感じで、今でも探究心がエンドレスで湧いてきます。

──分からないことにワクワクするんですか?!

 分かっちゃったら面白くないじゃないですか。だから、実は、オーロラの予測も当たらない方が嬉しいんです。当たらないということは、まだ分かっていない問題があるということですから、それを後輩のために残すことができるわけですよね。だから、現地で観光客相手に予報するようなとき、それが当たらないと心の底でニタッと笑ってます(笑)。

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