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世界に誇れるチーム

私は、M-Vロケットのチームに誇りをもっています。製造メーカーの方々と私たちJAXAの研究者、技術者が一体となった素晴らしいチームだと思います。みんなが、チームの一人一人のことや、ロケットのことをよく理解していて、ロケットの開発ということに対して自分がどう貢献すればよいのかを分かっています。チームスポーツに似ているかもしれません。どうしたら自分たちが開発や運用などロケット全体に力を発揮できるかを知っている、いわゆるプロフェッショナルなのです。
ロケットの部品も、ある特定の専属の方がいて、まるで一品生産の芸術作品を作っているかのように丁寧に作っていきます。そこには工場の製造ラインというイメージはありません。何か機械の不具合が起きた時も、その部品の担当者がすぐさま駆けつけます。どういう人がその部品を作っているのかが、本当に見えてくるんです。
ロケットを作るのには長い行程があります。例えば、制御系の開発ひとつをとっても、まず製造メーカーが部品を作り、それができたら宇宙科学研究本部で何度も試験をします。しかし、設計どおりに出来ていたはずのものが試験をするとちゃんと動かないなど、開発初期はなかなかうまくいきません。まだ1号機の勇姿を見る前、毎日終電間際まで作業していたことを今でも思い出します。そうやって苦労を共にしてきたからこそ、メーカやJAXAの枠を超え、全員が一体となった素晴らしいチームに成長できたのだと思います。
ロケットの開発は人と人とのつながりで成り立っています。これは私の大学院時代の恩師が教えてくれたことです。秋葉鐐二郎先生といって、旧宇宙科学研究所の所長もなさった方で、現在は北海道で新しいロケットの開発をされています。私が博士論文を書いている時に、先生が「工学は人間関係だからな」と言われましたが、正直なところ、当時はまだその実感があまりありませんでした。しかし、今こうしてプロジェクトマネージャーという立場で一人一人の仕事に対する関わりをみていて、やっとその意味を理解することができたという思いです。今は、みんなの力が結束してこそはじめてロケットの開発や打ち上げは成り立っている、ということがよく分かっています。ですから、何かをやってもらうのに単に指示をするという態度では駄目ですね。その人が本当にロケットのことが大好きで、ロケットのためにやっているんだという気持ちを大切にしたいです。チームの仲間から、「僕はM-Vに命をかけてるんだよ」なんて言われると、うれしくて夜も眠れなくなってしまいます。口には出さずともみな心の中でそう思っていて、打ち上げの成功というただひとつの目標に向かって、心をひとつにして力を合わせ「全力でやる」という皆の気持ちが伝わってきます。
世界に誇れるM-Vロケットを開発してきたこのチームこそが誇りです。私はこの偉大なチームを今後もぜひ活かしたいと思っています。


これからの固体ロケット
現在JAXAの中で、次期固体ロケットの方向性について検討をしていますが、全段固体のロケットは今後も継続し、性能はなるべく下げずにコストを下げようという方向で進もうとしています。コストには、ロケットの製造だけでなく、試験や打ち上げに関わる人件費などもすべて含まれます。
固体燃料のM-V ロケットと液体燃料のH-IIAロケットは、燃料の違いはありますが、推進系や搭載の通信系など共通の部分もたくさんありますから、今後はお互いに技術提供していければと思います。例えば、H-IIAにはSRB-Aという固体ロケットブースタがついていて、これは基本的にM-Vロケットと理屈として近いわけですから、固体モータ分野での共同作業は数多くあると思います。

私は子供の頃にロケットやロボットに憧れ、やがては科学者になろうという夢を実現することができました。奇しくも私が旧宇宙科学研究所の助手に着任したまさにその年にM-Vロケットの開発が本格的に始まりました。それから、約16年間、私の研究生活は常にM-Vロケットと共にあったと言えます。笑われるかもしれませんが、M-Vロケットの部品1つ1つに愛着があり、M-Vロケットを見て「かわいいなあ」とすら思ってしまいます。
今後は、今まで培ってきた技術を継続・発展させ、木星探査などより遠くを探査するミッションを実現したいと思います。その一方では、まるで飛行機や自動車のように、人が安心して乗れるロケットを作りたいという夢をもっています。夢の実現に向けて、これからも探究心をもって研究開発を進めていきたいと思います。


森田泰弘(もりた やすひろ)
宇宙輸送工学研究系教授。専門分野はロケットの姿勢制御、柔軟宇宙構造物の制御など。
東京生まれ。東京大学工学部航空学科卒業。同大学院工学系研究科博士課程(航空学専攻)修了。工学博士。カナダ・ブリテッシュ・コロンビア大学機械工学科客員研究員を経て、1990年にシステム研究系助手として旧宇宙科学研究所に着任。同年、M-Vロケットの開発が始まる。
M-Vロケットのシステム解析や姿勢制御系の研究開発をするほか、火星探査機などの展開構造物のダイナミックスの解析や、月探査機の姿勢制御の解析をするなど幅広く活躍。
2003年、M-Vロケットのプロジェクトマネージャーに任命され、現在に至る。




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