第1は、日本の宇宙開発の現状・課題の分析です。中でも、経済学・経営学・法学・政策学といった社会科学系の知見を生かした分析を試みている点が、大きな特徴だと自負しています。
「日本全体が右肩上がりの経済成長を終え」、「目指すべき方向性がはっきりしなくなった」といわれて、すでに13年が経ちました。いまや、その影響は大きく宇宙開発にも及んできています。
前者の「経済成長の終焉」は税収の落ち込みを招き、政府の支出に対して国民の厳しい目が注がれる時代となりました。宇宙開発はこれまで、政府資金だけで行われてきたわけですが、これからはその用途を明確に国民に提示する必要がある(アカウンタビリティー)と同時に、政府資金以外の収入の道を探らねばなりません。説明責任に関しては、一層の情報開示と、正確な情報に基づいた適正な評価の必要性を示しており、私たちは、現在のJAXAの情報開示・プロジェクト評価の状況と動向を調査・研究しています。一方、民間資金の導入については、まず手法としてどのようなものがあるか、が問題となります。そのためロケットや人工衛星などの部品を製造する“宇宙機器産業”と、人工衛星などから送られてくる情報を利用してさまざまなサービ スを提供する“宇宙利用産業”について、どのような市場が成立しているのかを調査しています。
そして、(1)JAXAが持つ資産の外部への提供による資金獲得の方法(民営化、スピンオフなど)、(2)JAXAがサービスを提供することによる資金獲得の方法(人工衛星ミッション、国際宇宙ステーションの民間利用など)、(3)JAXA以外の主体が独自に宇宙開発を進める方法(小型人工衛星の製作・打ち上げ・サービス提供、大型人工衛星の情報を利用したサービス提供、宇宙観光旅行など)といった、具体的な方策についても検討をしています。
また、「目指すべき方向性の欠如」も、現在の宇宙開発にとっては深刻な問題となっています。「米国に追いつけ・追い越せ」でやってきた日本の宇宙開発は、独自に人工衛星を製造し、打ち上げる技術を得たという点で、一定レベルの目標は達成したといえるのではないでしょうか。しかし、これから何を目指して宇宙開発を行うのか、何のために宇宙開発を行っていくのか、はいまだ明確に示されているとはいえないと思います。確固たるビジョンの欠如はプロジェクトの乱立を生み、貴重な資金・人材が分散し、結果として確立されたはずの技術のほころびを露呈すると同時、士気の大幅な低下を招いているように思われます。
ビジョンの欠如は、先述したプロジェクトの評価軸がはっきりしないということでもあり、国民にとって宇宙開発が分かりにくくなっている要因の一つでもあります。私たちは日本全体の状況を踏まえて、宇宙開発のビジョンはどうあるべきなのかを検討しています。
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