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未知なる星を目指したホイヘンス、32億kmの旅。
マルチェロ・コラディーニ
			欧州宇宙機関
			科学部門責任者 太陽系ミッション・コーディネーター
プロフィール
						Marcello Coradini
						惑星探査黄金期の1970年代にイタリアで研究活動を開始し、イタリアのみならずヨーロッパにおける惑星探査分野の確立に寄与してきた。1987年、欧州宇宙機関(ESA)に入り、太陽系探査計画に着手する。現在は、コーディネーターとして、ESA太陽系ミッションの計画および監督に携わる。惑星科学や宇宙システム工学を指導する傍ら、宇宙科学を一般に啓蒙する活動にも積極的に取り組んでいる。
						Royal Astronomical SocietyおよびEuropean Geophysical Unionの特別会員で、その惑星分野の創設者の1人でもある。Planetary and Space Scienceの元論説員で、多数の科学論文や本を執筆している。
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タイタンIV 写真 土星を目指したカッシーニ・ホイヘンス計画は、かつてない巨額の費用が投じられた欧米共同の土星探査プロジェクトです。地球を離れて7年半、プロジェクトが始動してから20年が経った2005年1月、カッシーニ周回機から切り離されたホイヘンス突入機は、土星の衛星タイタンへの突入と、その大気および地表の観測という大きな成果を挙げました。
															欧州宇宙機関(ESA)で太陽系探査プロジェクトを立ち上げ、長年第一線で活躍されているマルチェロ・コラディーニ博士に、この壮大なイベントについて語っていただきました。
															(JAXAウェブサイト編集部)

―― カッシーニ・ホイヘンス計画とは、どのような計画なのですか。
タイタン 写真
土星の衛星タイタンは、太陽系の衛星の中で唯一厚い大気に覆われ、山吹色に見える。大気は主に窒素やメタンから成り、酸素は存在せず水素が優勢。大量の汚染物質が放出されている今日の地球の大気は、酸化性から還元性の大気へと変化している。還元性の大気は、原始大気特有の状態である

カッシーニ・ホイヘンス計画は、かつてない非常に重要なミッションです。アメリカ航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)、イタリア宇宙事業団(ASI)による大規模プロジェクトで、太陽系のミニチュアを思わせる“土星系”の探査を目的としています。
ここで重要なのがホイヘンス突入機の任務です。土星の衛星タイタンの大気圏に突入し、大気の化学的、物理的特性を調べ、地表の調査を行います。タイタンは、地球の20〜30億年前に似た姿をしているため、その解明は、太古の地球を理解することにもつながります。


―― ホイヘンス突入機は、タイタンに着陸してからも機能を維持し、素晴らしいデータを取得することができましたね。

ホイヘンス突入機の目的はタイタン大気の測定だったので、大気圏通過中に観測機器が動作することに主眼を置いていました。ホイヘンス突入機が打ち上げられた当時、タイタンの地表は液体メタンの海や湖のようなもので覆われていると考えられていたので、着陸機能があっても沈んでしまい使いものにならないだろうと思われていたのですが、念のため、地表で数秒あるいは数分でも耐えられた場合の備えもしておきました。液体でもなく、しかも硬すぎない場所に突入機が着陸したのは、予想外の非常に嬉しい驚きでした。
最初のデータを受信中、ミッション担当の科学者が、「タイタンの表面は、クレームブリュレのように非常に薄く硬い表面で覆われていて、突入機はそれを突き破って内側のやわらかい部分に着地した」と表現していました。
そのおかげで突入機は沈むことなく、未踏の天体の貴重な科学データを2時間以上も送信し続けることができたのです。まさに感極まる思いでした。

カッシーニ周回機に取り付けられたホイヘンス突入機
															(イメージ図) 熱シールドに覆われたホイヘンス突入機(右)。
															奥にあるのはカッシーニ周回機
タイタン地表のカラー画像。オレンジ色の大気の影響を受け、かすんでいる。地表は、予想されていたよりも暗く、水、メタン、その他の炭化水素からなる氷が存在することが示唆されている。また、侵食されたような跡も見える 河川を思わせるタイタンの地形。この浸食作用は液体のメタンの流れによるもので、地球上の水による浸食作用とよく似ていると考えられる
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