ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。


―― カッシーニ・ホイヘンス計画は、ESA、ASI、NASAによる国際共同プロジェクトですが、それゆえの問題点と利点をお聞かせください。

ホイヘンス・カッシーニ計画は、大規模な国際コラボレーションの賜物です。時が経つといいことばかりが思い出されるものですが、今回の結果にたどり着くまでには、相当の努力と労力が必要でした。
NASAやASIとの軋轢はありませんでした。現場は常に友好的で、素晴らしい協力体制のもとで業務を進めることができ、科学的観点や計画としてだけでなく、世界の主要宇宙開発組織の国際協力としても成功することができました。
しかしながら、この国際協力はたやすいものではなく、計画手続き、予算のサイクル、承認手続きなどの違いが常に悩みの種となりました。しかも、カッシーニ・ホイヘンス計画が科学者からNASAとESAに提案された時、この2つの宇宙開発組織の関係は、その前の共同プロジェクトである太陽極域軌道探査機「ユリシーズ」の成功の影響に苦しめられていました。NASAは約束していた資金を準備できず、ヨーロッパ各国は、NASAには信用が置けないという印象を持ってしまいました。
私は、同僚やESA顧問組織に、NASAとの協力は可能であるばかりでなく、必要なのだということを納得させるために長い時間を費やさなくてはならなかったのです。私たちは、大西洋の両岸で一心不乱に準備を進め、記録的な速さで覚書(MOU)を承認することができました。
ですが、問題が発生しました。アメリカ議会が、当時のNASA長官の同意のもと、カッシーニの計画中止を議論したのです。ESAの加盟各国は、アメリカとヨーロッパの間に深刻な亀裂をもたらそうとしているホワイトハウスに対して、必死の外交努力を続けました。そして、それは見事に実を結んだのです。
皆さん、今回のミッションの成果を見てください。もし計画が中止されていたら、私たちのみならず、科学全体の甚大な損失となっていたでしょう。
さまざまな努力を経て、アメリカの予算は確保され、計画は順調に進み、私たちはこの偉大な成功を味わうことができたのです。

―― イタリア宇宙機関(ASI)が参加することになった経緯をお聞かせください。

カッシーニ・ホイヘンス計画は、今回の成功までに20年もの月日が費やされています。ミッションがあまりにも長期にわたったため、NASAとESAの能力、資金力、技術では、手に負えない部分が出てきたのです。
そこで、通信装置としてだけでなくレーダーとしても使用可能な、優れたアンテナシステムを作れる組織・団体を探しました。それがイタリアにあったのです。この分野に非常に長けたアレニア・スパツィオという企業で、現在も極超短波分野でトップ技術を誇っています。
これが引き金となり、イタリア宇宙機関(ASI)を通してイタリアという国と、イタリアの企業が参加することとなりました。

―― 今後はどのようなミッションやプロジェクトに関わっていきたいとお考えですか?

ESAは、日本との協力が重要だと考えています。NASAやアメリカ政府との歴史的共同ミッションを経た私たちは、数年前、優れた技術・人材を有し、ヨーロッパとの共同作業に大変興味を示していたアジアの国に目を向けてみることにしたのです。将来の共同ミッションを実現させるために、科学分野を中心に、研究者の交流、データの共有、地上施設の共同利用などが徐々に行われています。
最終的に目指す大規模なミッションは、地球型惑星のひとつである水星に、ESAとJAXAそれぞれが開発した探査機を計2機送るという、2012年に打ち上げが予定されているベピ・コロンボ計画です。
JAXAは技術の面でもパートナーとしても素晴らしく、私たちは日本との協力関係に大変満足しています。今後も多くのプロジェクトを通して、より良い関係が築き上げられることを願っています。

水星表面探査機(MPO) イラスト
水星表面探査機(MPO)。ESAによる3軸制御方式の探査機
水星磁気圏探査機(MMO) イラスト
水星磁気圏探査機(MMO)。JAXAが提供するスピン衛星で、水星の磁気圏とプラズマ圏の調査、太陽系の中で最も表面温度の高い惑星である水星と太陽風の関係を研究することが目的
―― 今年の夏、日本の小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワに到着する予定です。日本にアドバイスや期待することはありますか。

小惑星探査機「はやぶさ」 イラスト
JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」は、今年の夏に小惑星Itokawa(イトカワ)に到着し、サンプルを収集する予定になっている
小惑星探査機「はやぶさ」の計画に携わる日本政府やJAXA関係者の皆さんに、もはや私たちがアドバイスする必要はないと思います。非常に高度な専門知識や技術をお持ちですし、すでにとても重要で難しいミッションを実現されています。ミッションの成功を心からお祈りするばかりです。
太陽系の小天体に関するデータ収集には、大変期待していますし、ESAもその重要性を高く評価しています。
ESAの彗星探査ミッション「ロゼッタ」のデータが得られた暁には、日本とヨーロッパの研究者がそれぞれの情報をやり取りしながら、お互いの関係がますます深くなっていくことと確信しています。


戻る 1  2  3