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―― ホイヘンス突入機はどのようにタイタン地表に着陸したのですか。

ホイヘンス突入機は、カッシーニ周回機に取り付けられてタイタンまで運ばれました。周回機はホイヘンス突入機を適切な軌道に放出するために自動制御で位置を修正し、突入機を安定させるために回転させながら切り離します。

その後、突入機は、タイタンの大気圏突入と同時に地上に向かって落下し、大気との摩擦によって加熱されます。突入機の前面には熱シールドが取り付けてありますが、姿勢を安定させるために回転し続ける突入機の温度は、降下の途中で数千度に達し、完全にプラズマに覆われてしまいます。この時、電波での交信できなくなるので、最も危険な状態となります。
熱シールドが機能するかどうかは、大気組成を事前にうまく想定できたかにかかっていたのですが、結果的には大変うまくいきました。

降下の途中、突入機の後方にあるカバーが外れ、1つ目のパラシュートが開くと突入機の観測機器が起動します。次に2つ目のパラシュートが開いたあと、熱シールドを分離。突入機は、機体の安定を保つために回転しながらゆっくりと降下し、カッシーニ周回機へのデータ送信がはじまります。
続いて3つ目のパラシュートが開いて、突入機を地表付近まで誘導します。搭載されていた加速度計によると、この降下中の振動は事前のシミュレーションよりはるかに激しかったようです。
そして、地表寸前でパラシュートが切り離され、ホイヘンス突入機はタイタンに着陸しました。

ホイヘンス計画の主な目的はタイタンの大気調査だったので、計画開始当初は、突入機が無事に地表に着陸するかどうかは自信がありませんでし、実際のところ、計画のプラスアルファ程度に考えられていたのです。
ホイヘンス突入機の設計は、大気圏通過の安全を優先させていて、地表に着陸できたとしても数分程度耐えられればいいと思っていました。しかし、それは嬉しい誤算に変わったのです。ホイヘンス突入機は無事地表に着陸し、観測機器は稼働し続け、地表の写真を撮影することもできました。大変な驚きでしたし、新しい世界の発見にリアルタイムで立ち会うことができ、とても感動しました。
私たちが描いていた予想図は、現実よりもずっとシンプルなものでしたが、ミッションが成功したことを考えると、非常に素晴らしい突入機に仕上がっていたのだと思います。
ホイヘンス突入機が撮影した画像によって、これからさまざまな研究が進むことでしょう。
ホイヘンス突入機、切り離し イラスト
ホイヘンス突入機、切り離し
大気圏突入 イラスト
大気圏突入
パラシュート降下 イラスト
パラシュート降下
―― 打ち上げまでに、開発当初の不安は消えたのですか?

一度打ち上げてしまったらどうすることもできませんので、その前に、観測装置がすべて正常に働くかを確かめるため、基本的に同じ機能を備えた小型のホイヘンス突入機を作って実験をしました。
地球とタイタンでは大気構造が違いますが、成層圏用の気球と着陸用の気球で降下させ、本体を展開するという基本的には実際と同様のミッションを実施したのです。さまざまな機器をチェックすることができましたし、突入機を安全に着陸させるのにパラシュートが大変効果的な働きをすることを確認でき、非常に有益な実験だったと思います。着地した突入機に損傷がなかったことから、もしかしたら本物のホイヘンス突入機も大丈夫かもしれないという希望を抱くことができました。
ホイヘンス突入機の熱シールド内部 写真
ホイヘンス突入機の熱シールド内部。大気圏を降下する際に機体から熱シールドを外し、地上に着地する時はこのドーナツのような姿となる。科学装置は、この機体にすべて搭載されている
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