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「ロケットに求められるのは高い信頼性」ジャンルイ・クロードン アリアンスペース社 東京事務所代表
アリアンスペース社は、欧州各国の企業が出資して1980年に設立されました。アリアンロケットによって、これまで250機近い衛星の打上げに成功し、世界の商業衛星の打上げ市場において約半分のシェアを持っています。打上げビジネスの競合が激しくなる近年の状況下で、大型ロケット「アリアン5」の開発に成功し、確実な打上げ実績を積んでいます。また、衛星を打ち上げる顧客からのニーズに応えるために、アメリカや日本の企業と、商業衛星打上げに関する相互バックアップ協定を締結するなどの取り組みを行っています。東京事務所は1986年に設立され、その当時から事務所代表を務めるクロードン氏にお話をうかがいました。

ジャンルイ・クロードン
アリアンスペース社 東京事務所代表
1972年にフランス国立アール・ゼ・メティエ工科大学(ENSAM)を卒業。1974年に米国ブラウン大学大学院工学修士課程修了。フランス大手自動車メーカー、オートモビル・プジョーに入社した後、1978年に東京大学大学院博士課程に入学。1981年に東京大学宇宙航空研究所(現JAXA宇宙科学研究本部)にて工学博士号取得。在日フランス大使館経済商務部商務アタシェ(輸送機器・航空宇宙担当)を経て、1986年にアリアンスペース社東京事務所代表となり、現在に至る。2001年にフランス国立ポンゼショセ大学国際経営大学院MBA学位取得。

打上げ事業を専門に


ヨーロッパのロケット「アリアン5」
(提供:アリアンスペース)

Q.商業衛星ではどのような分野の衛星の需要が高いですか?


商業衛星は通信放送衛星が9割くらいで、主な顧客は衛星通信業者です。国の宇宙機関による打上げとしては、地球観測衛星が一番多いです。この状況は10年程前からあまり変わっていません。


Q.商業衛星の打上げに関して、どのようなロケットが求められているのでしょうか?


これは商業衛星に限りませんが、ロケットには高い信頼性が求められています。打上げを成功させることによって、お客様からの信頼度も高まります。これが一番求められることです。その次は、スケジュールと値段です。予定通り打上げることと、費用を安く抑えるということです。


Q.アリアンスペース社が、商業衛星打上げのシェアNo.1ですが、その理由は何だと思われますか?


それは、アリアンスペース社が打上げ事業を専門とする企業だからです。それが一番大きいと思います。


Q.アリアンロケットは、最初から商業衛星の打上げを目的としてきたのでしょうか?



1979年12月24日に行われた「アリアン1」の初めての打ち上げ
(提供:CNES/ESA)

アリアンロケットはもともと国のロケットで、国の衛星だけを打ち上げていました。ここで簡単にヨーロッパのロケット開発についてご説明しましょう。アメリカがアポロ計画を進めていた1960年代、ヨーロッパも、フランス、ドイツ、イギリスの3ヶ国の共同でロケットを開発していましたが、うまくいきませんでした。そこで、衛星の打上げは他国のロケットに依存することになったのですが、いざアメリカで打ち上げてもらうとなると、その衛星を商業目的では使ってはいけないというような制約がつけられてしまいました。これでは国際的な立場が弱くなってしまうということで、1973年に、自国のロケットを開発することを決定しました。最初のロケット「アリアン1」の打上げに成功したのは1979年でした。そして、1980年に欧州12ヶ国の53社が出資してアリアンスペース社が設立され、開発が終わった「アリアン1」の使用権がアリアンスペース社に移管されました。
初めて商業ビジネスとして打上げに成功したのは1984年ですが、その当時は衛星の商業利用については全く予測ができず、年間に1機ないし3機の衛星を打ち上げるだけでした。しかし、1988年以降くらいから商業衛星がだんだん本格化してきて、1990年代には、年間で10機前後打ち上げるようになり、常に全世界の商業衛星の打上げの50%〜60%のシェアを持っています。顧客の半分以上はヨーロッパ以外の国の方です。


Q.近年は、中国やインドも商業衛星の打上げビジネスに進出しようとしていますが、今後も商業衛星打上げのニーズが高まると思いますか?


今後はあまり期待できないと思っています。全世界で打ち上げられる商業衛星の数は、現在、年間で20〜25機程度です。これから10年以上先を見てもそれ以上は期待できないと思います。十分な需要がないので、新しい企業が進出しても大変だろうと思います。お客様は、信頼性と実績を重要視しますから、なかなか新しいロケットを選んでくれません。なぜ需要が少ないかと言いますと、今の商業衛星の主な目的が通信と放送だからです。最近は、通信と放送は衛星だけでなく、ケーブルも使われています。ですから、通信の性能が向上し、需要が増えたとしても、衛星を使った通信だけですと、あまり成長できないと思います。ただし、今後、通信と放送以外の衛星の新しい応用方法が出てきたら、また違った市場が生まれるかもしれません。


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