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アリアン5とH-IIAの協力

Q.アリアンスペース社は、2003年にアメリカのボーイング社、日本の三菱重工業と商業衛星の打上げバックアップの協定を締結されましたが、どのような理由からですか?また、本来ならば競合相手である会社となぜ協力するのでしょうか?


打上げ事業は大変難しい事業です。技術上の問題がないように努力を尽くしていますが、どうしても、たまにはロケット打上げスケジュール全体に遅れが出るような問題が生じます。一方、顧客もビジネスとしてやっていますから、衛星を予定通り打ち上げてもらえないとビジネスのベースが成り立ちません。
私たちはこの問題を考えて、アリアンの打上げスケジュールに遅れが出た時に、打上げを待てない衛星を、アリアンの代わりに他のロケットで打ち上げられるような協定を結びました。3社協定で相互補完するのは、私たちの「アリアン5」、三菱重工業の「H-IIA」、ボーイングの「シーローンチ」です。3社のうち1社と契約した顧客が、残りの2社のロケットをバックアップ機として選べる協定です。他のロケットを代わりに使う場合、衛星をロケットに取り付ける方法や飛行環境などの互換性が必要になってきますが、私たちは1990年代から三菱重工業と互換性についての検討を続けてきました。ご存知の通り、JAXAのH-IIAロケットの製造は三菱重工業が行っており、2007年度からは打上げも三菱重工業に移管されることになっています。
お互いに競争相手ではありますが、私たちは、競争相手だから得をさせたくないとは考えていません。競争相手というよりは、協力相手にしたいと思っています。「アリアン」にもH-IIAにも、お客さんが安心して集まってくれればいいと思っています。




アメリカの「シーローンチ」
(提供:Sea Launch Company, LLC)



ヨーロッパの「アリアン5」
(提供:アリアンスペース)


日本の H-IIA


Q.バックアップ協定では技術面の協力も行っているのでしょうか?


3社間のバックアップ協定は、あくまでも、ロケットを「使う」協定です。ロケットを作る協定ではありません。現在、アリアンロケットの部品はヨーロッパの会社がほとんど作っています。H-IIAロケットの場合は、ロケットの製造も打上げも同じ会社が行っていますが、アリアンスペース社自体はロケットを製造していません。アリアンスペース社は、プライムコントラクター(元請企業)であるアストリアム(Astrium)という会社にロケットを注文して購入し、その一方で、衛星通信業者などの顧客と契約をしてロケットを打ち上げるというビジネスをしています。



Q.アリアンスペース社はロシアとの協力も重視しているようですが、それはなぜですか?



ロシアの「ソユーズ」
(提供:アリアンスペース)

アリアンスペース社は、ロシアのロケット「ソユーズ」の商業打上げのために、1996年にロシアとの合弁企業、スターセム(Starsem)を設立しました。「アリアン5」は大型ロケットですが、ソユーズは中型ロケットです。ソユーズは1957年に世界初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げて以来、現在も活躍している歴史の長いロケットです。衛星の中には、ロケットに1機しか搭載できないうえ、重量も比較的軽いものがありますが、それを大型の「アリアン5」で打ち上げるとコストの採算がとれません。そのため、中型衛星をソユーズで打ち上げることを目的としています。2000年にはカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から、欧州宇宙機関の科学衛星「クラスター2」の打上げに成功しました。アリアンロケットの打上げは、フランス領のギアナにある、フランス国立宇宙センターのロケット発射場(ギアナ宇宙センター)で行っていますが、そちらにソユーズの打上げ施設を建設中です。経済性の効率化をめざして、これからもロシアとの協力体制を築いていきたいと思っています。


Q.コスト削減と更なる信頼性の向上を目指して、H-IIAロケットの打上げ業務が、2007年度から三菱重工業へ移管されますが、そのことについてどう思われますか?


三菱重工業が作ってきたH-IIAロケットは、素晴らしいロケットだと思います。かつて打上げが失敗したことはありましたが、最近は6機連続して打上げにも成功し、信頼度が上がってきています。ただし、ここで考えなければならないことは、民間に移管するという意味は何なのかということです。ロケットなどの宇宙開発には費用も時間もかかりますから、一企業ではできません。民間でロケットを作って利益を得ることはできると思いますが、万が一失敗をしたら、そこで開発が終わってしまう可能性があります。ヨーロッパでもアメリカでもロシアでも、そして日本でも、政府が国策として宇宙開発を打ち出さなければ成り立たないと思います。ヨーロッパの場合も、欧州宇宙機関とフランス国立宇宙センター(CNES)が中心となって、アリアンロケットの技術的な取りまとめをしています。私たちはアリアンロケットの使用権を持っているだけです。ですから、民間企業に移管するのは、あくまでも仕事の一部です。今後もこれまで通り、JAXAがプロジェクトのまとめ役として、ロケットの信頼性の向上に努めてくれるだろうと期待をしています。


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