Q.産業界にとって、宇宙開発とはどのようなものでしょうか?
信頼性や性能を追求することによって、技能や技術レベルはどんどん上がりますから、そういう意味で宇宙開発は裾野が広く、大変魅力があります。また、未来志向の仕事に取り組めるということでは、若い人にとっても大変重要で、魅力的だと思います。産業界の物づくりにおいては、単に技術を集めるだけでなく、さまざまな要素をうまく組み合わせて利用していくことが必要です。要素が互いに関連しあってシステムができ、そのシステム全体の設計や効率などを研究するのがシステム工学でありますが、この学問を体系的にも作り上げてきたのがロケットや衛星といった宇宙開発です。日本の産業界にシステムコンセプトを根付かせていった、宇宙開発の役割は非常に大きかったと思います。
Q.現状の予算からコストパフォーマンスを考慮しつつ、日本の競争力をどのように拡大していったらいいと思われますか?
わが国の宇宙産業が国際競争に勝ち抜くためには、ロケットにしても衛星にしても、数を作って信頼性を上げ、コストを安くすることだと思います。具体的には、国の衛星をシリーズ化して、衛星の信頼性を高め、安定的、継続的なデータの提供サービスを行い、利用を拡大すること。また、小型・中型・大型の衛星といったユーザのさまざまなニーズに合ったロケットのラインアップを揃えるといったことが挙げられます。例えば、H-IIAロケットがなぜ海外のマーケットで使用されなかったというと、信頼性が確保されているかの検証がなかったためです。しかし、天候などの不可抗力な理由は別にして、予定時刻通りの打上げに連続して成功し、今ではH-IIAロケットの信頼性も90%を超えました。ロケットが時刻通りに打ち上がるというのは、何万点というロケットや衛星の部品や地上設備など、すべて完璧でなければできません。それくらい難しいことであり、世界に誇れる技術だと思います。日本は、衛星やロケットの技術を確固たるものとし、打上げに関する自在性や自律性を向上させていくことが必要だと思います。さらに、欧州のアリアンロケットなどのように、官民が一体となった宇宙産業の競争力強化、活性化も重要です。
Q.近年、中国やインドなどが宇宙開発に力を入れていますが、日本はアジアの宇宙開発分野でどのようなリーダーシップを発揮したらいいと思われますか?
私は、日本が大いにリーダーシップを取れると思っています。例えば、アジア地域で宇宙利用に関する会議を行って災害監視や減災の話になると、必ず日本の豊富な災害データの話が出ます。残念ながら、日本は世界で最も自然災害が起きている国ですから、あらゆるデータを持っているのです。最近で言えば、地球観測衛星「だいち」が世界の災害把握に貢献しています。将来的には、衛星画像により高度な付加情報を付けて提供できるようになるといいと思います。さらにその国に役立つソフトやシステムまで含めたものを提供できるようになれば、アジアのリーダとしてもっと国際貢献できるでしょう。「こういうふうにデータを使ってください」と供給者側から提案し、もっと積極的にアジアで主導権を取っていくぐらいの強い意識があってもよいと思います。特に、アジア地域においては、共同研究開発や人材交流・育成も重要です。現在、JAXAが中心となって、「センチネル・アジア」という、防災に関するデータをアジア各国で共有するという取り組みを実施していますが、このようなプロジェクトを通じて、日本の技術と経験を活かした国際協力を推進してほしいです。
Q.JAXAでは、宇宙教育センターを設立して、宇宙を題材に使った教育活動にも力を入れています。この活動をどう思われますか?
宇宙教育センターでは、宇宙を素材とした教育プログラムを行ったり、全国の学校や先生といった教育現場への支援も活発に行っていると伺っています。それは大変良いことだと思います。「理科離れ」とよく言われますが、何でもかんでも子供に教えるのではなく、環境を整えることが大切だと思います。環境とは、学びの場を子供たちに与えることで、例えば、野山を走ったり、小川に行かせることによって、生物や植物と慣れ親しむ。そこが理科の原点です。そういう場を与えることができ、そのようなことに興味を持っている人が理科の先生にならないと駄目だと思います。紙の上だけでなく、現場で学ばせるという環境作りがとても大事です。
また、宇宙の題材は、若い人たちが「命の大切さ」、「地球の大切さ」に目を向ける“きっかけ”としても有効的だと思います。地球温暖化の問題にしても、地球のことを大局的に見れるのは、やはり宇宙からの観測です。もちろん、地上からの観測データも必要ですから、宇宙からグローバルに見るものと、ローカルに見るもの全体をシステム的にとらえて、教育に活かしていく必要があると思います。
Q.子供の頃から宇宙にご興味があったのですか?
私が小さい時は、宇宙に行くなんてことは誰も考えていませんでした。ドイツのフォン・ブラウンがV2ロケットでロンドンを攻撃したというニュースはありましたが、それは攻撃であって、宇宙に行くためではありません。宇宙へ飛んで行くというのは、SF作家ジュール・ヴェルヌの話に出てきた、お月さまの目にロケットが当たる程度です。それよりも、私はSF作家の海野十三や山中峯太郎の小説を読んで、アフリカに行って猛獣狩りのプロになりたいと思っていました。私の子供の頃はそういう時代でした。