Q.衛星の主な特徴を教えてください。
WINDSの大きな特徴は、「高速性」と「広域性」です。従来のものよりも小さいアンテナで、非常に速いスピードの通信が可能になります。家庭での使用を想定した直径45cmのアンテナによる受信で155Mbps(メガビーピーエス)の通信速度を実現します。155Mbpsとは、一般用の光ファイバーをしのぐ速さです。また、企業向けを想定した直径5m級のアンテナを使うことにより、その約十倍の1.2Gbps(ギガビーピーエス)という超高速のデータ通信を行うことができます。WINDSは日本の上空、高度約3万6000kmの軌道に打ち上げられる静止衛星なので、日本を中心にして地球のほぼ3分の1という広大な範囲を一度にカバーすることができます。
さらに、衛星に交換機を搭載していることも特徴的です。NICTによって開発された機器で、地上から上がってきた信号を、衛星の中で宛先ごとに分類し必要なビームから配信します。これまでの衛星では、地上の交換機に下ろしてから宛先を振り分け、再び衛星を介して配信されていましたから、その分の時間が短縮されることになり、また必要な衛星のリソースを有効に使用することができます。これまで衛星に交換機を搭載した例はありますが、これほど高速に機能するものはWINDSが初めてです。
また、衛星の強みは地上の災害による被害を受けないという「耐災害性」です。WINDSは、災害によってネットワークが分断されたような事態でも、例え電気が止まった場合でも発電機があれば、直径45cmのアンテナと信号処理器で、どこでも容易に回線の設定ができます。つまり宇宙にある通信衛星は災害に強く、地上のシステムと補完し合って、災害情報を迅速に伝えることができるのです。
これらの特徴を活かし、世界水準の高度情報通信ネットワーク社会を形成するための技術開発・実証実験を行うことがWINDSの目的です。打上げ後は、皆さんに衛星を使っていただき、「利用」という観点からの実証を進めていく予定です。WINDSは、安心して利用できる高度インターネット通信を確立し、本当の意味での「いつでも、どこでも、誰でも」というユビキタス社会の実現を目指しています。
Q.どのような通信機器が搭載されるのでしょうか?
WINDSは、Ka帯と呼ばれる周波数を使っています。Ka帯は約20GHz(ギガヘルツ)から30GHzの高い周波数の電波で、大容量の通信に向いていますが、雨による減衰が大きく、雨天時はうまく通信ができないという問題がありました。その場合は、電波を強くすればよいのですが、人工衛星の電力は太陽電池パドルによって作られ、その量は限られていますから、強力な電波を送り続けて電力を使いきるわけにはいきません。いかに効率よく、必要な場所に必要な電力を投入するかが大きな技術課題でした。そこで、WINDSは送信ビームの出力を自在に分配できるマルチポートアンプを搭載しています。雨の降っている地域には強い電波を送信し、晴れている地域には弱い電波を送って消費電力を抑えるよう、人工衛星が電力の割り振りを行います。WINDSでは、このマルチポートアンプと組み合わせて使う電波の方向が固定されたマルチビームアンテナ(MBA)が2台あり、日本国内を9つのビームで分割して覆い、またマニラ、バンコク、シンガポールなどアジアの10都市をカバーしています。
さらにWINDSは、幅広い地域で超高速通信を実現するために、アクティブ・フェーズドアレイ・アンテナ(APAA)を搭載しています。このアンテナは電波の送受信する放射方向を自在に、かつ高速に変化させることができます。電波の方向を制御することによって、マルチビームアンテナがカバーしていない地域でも通信を可能にします。ビームがある瞬間にハワイ、そして次の瞬間にはオセアニアというように放射の方向を変え、WINDSの静止軌道から見える、地球の約3分の1の範囲における通信を自由自在に行います。
Ka帯の高い周波数を使い、自在な高速通信の環境を作るWINDSの通信機器は、世界最先端の技術です。