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「宇宙活動は世界を活性化する」  
SF作家
野尻抱介
普通の女子高校生が宇宙飛行士になり、月面着陸までも成功させてしまうという、これまでにないストーリーで話題となった「ロケットガール」。作者の野尻抱介氏は、科学的な根拠に基づいた作品で、これまでにも多くの読者を魅了してきました。宇宙活動が世界をどう変えるのか?など興味深いお話をうかがいました。ジュール・ベルヌの「月世界旅行」やアーサー・C・クラークの「2001年宇宙の旅」など、これまでもSF作家に刺激されて宇宙開発の新しいアイデアが誕生し、また新しい技術開発にインスピレーションを得て、新たなSF小説が誕生してきました。野尻氏のインスピレーションが宇宙開発の技術者、研究者たちに新たな刺激を与えることでしょう。
野尻抱介(のじりほうすけ)
SF作家
1961年、三重県生まれ。計測制御・CADプログラマー、ゲームデザイナーを経て、1992年にゲーム「クレギオン」の設定をもとにした「ヴェイスの盲点」で作家デビュー。2002年に発表された「太陽の簒奪者」は、短編版に続いて第34回星雲賞日本長編部門を受賞、「ベストSF2002」国内編第1位を獲得。その他の作品は「ふわふわの泉」(第33回星雲賞受賞)、「ピニェルの振り子」など多数。高校生が宇宙へ行くというストーリーで話題を呼んだ「ロケットガール」は、2007年にアニメ化され人気を博す。

Q.宇宙科学の魅力は何だと思われますか?


私は子供の頃から宇宙科学に興味を持ち続けていますが、その魅力はやはり、知らないことへの神秘のベールをはいでいくことです。テクノロジーを集大成した新しい観測技術で、これまで見られなかったものが初めて目の前に広がるという、面白さや興奮が最大の魅力だと思います。


Q.宇宙活動が世界をどのように変えていくと思われますか?


基本的に、世界はその外に出ないと真の姿を見ることができないものです。地球にいる人は、地球上にいたままでは地球の本当の姿は分かりません。「地球は青かった」と史上初の宇宙飛行をしたガガーリンが言ったように、一旦外へ出て初めて、いろいろと俯瞰(ふかん)することができるわけです。ですから、世界の外へ出ることが、その世界を知る一番重要なステップだと思います。そういう意味では、宇宙活動が世界を変えるというより、宇宙活動により私たちの世界観が変わるのだと思います。
発電衛星や軌道エレベーター、月や火星、ほかの星への移住など、大規模な宇宙開拓をすればそのつど世界観は変わります。現実に起きているのは、地球観を変えることです。宇宙活動によって地球のありのままの姿を客観的に見られるようになって、地球の文化全体の質が変わり、より本質をとらえるようになりました。そして、それによって世界が長期的には良い方向に向かっていくと思います。


Q.これまでの宇宙活動によって得られた世界観はどういうものだと思われますか?また、宇宙活動が世界を救うと思われますか?


これまでの宇宙活動によって得られた世界観というのは、地球の居住圏の狭さと薄さとでも言うのでしょうか。人間は、地球のごく表面の、二次元の平面上にしか住めていませんし、その中でも、極めて限られた場所にしか住んでいません。大気圏も非常に薄いものです。例えば他の惑星を見ても、金星はかなり地球に近い条件にあるにもかかわらず、まるっきり地球とは違いますし、火星も人間が裸で生活できるような環境ではありません。そういう意味で、地球の環境の危うさ、デリケートさが非常によく分かったと思います。
宇宙活動が世界を救うか?という質問の答えは難しいですね。何が世界を救うかというのは、誰にも分からないと思うんです。例えば、科学は世界を救うか?というのと似たような話になりますが、結局、世界を救うか救わないかは、人間のモラルと知識にかかっていると思います。ですから、それをいい方向に使えば世界を救うことになりますし、悪い方向に使えば悪くもなるでしょう。宇宙活動が世界を救うかどうかは、私たち人間にかかっていると思います。


Q.日本にとっての宇宙活動はどうあるべきだと思われますか?


日本の宇宙活動にはいくつかの柱があり、そのうちの1つであるロケットや実用衛星などはこれまで通り維持していってほしいと思います。しかし、その一方で、国民を魅了するような新しいことをやってほしいという気持ちがあります。最近話題になったプロジェクトに小惑星探査機「はやぶさ」がありますが、「はやぶさ」のように誰もがやったことがないことに挑戦をして新天地を切り開いていくことで、みんなを熱中させてほしいと思います。
また、独自の有人宇宙飛行をしてほしいです。ほかの国の乗り物に乗せてもらうのではなく、自国で開発した宇宙船およびロケットに乗って宇宙活動ができるようになってほしいと思います。ロシアのように、主に人間だけが乗るカプセル式の小型宇宙船を、比較的小型のロケットで打ち上げる方法をとれば、そんなに費用もかかりませんから、あとは勇気さえあればできると思うんです。結局、人間は人間にしか興味がないもので、人が宇宙へ行くとなると注目度が違います。また、人を運ぶということで、エンジニアの方々も気合いが変わってくると思います。1つの命を宇宙へ運び、連れ戻すということで、ものすごく盛り上がるプロジェクトだと思いますので、ぜひ実現してほしいです。それによって、何がどう盛り上がってほしいかというと、子供たちを魅了してほしいですね。その子供たちが理工系に進んで、未来の宇宙を担うような人材に育ってほしいという強い思いがあります。
また、ある程度教育が進んでいろいろな情報が自由に入手できるようになってくると、一定の割合で、宇宙に関する仕事をしたいと言う人が必ず出てきます。宇宙に関する仕事をしたいと思う人がどれだけいるかは、宇宙活動を進めていくうえで非常に重要なことだと思います。宇宙を志す人たちの願いを叶えてあげられる環境づくりも必要だと思います。

   
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