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Q.先生の作品「ロケットガール」は普通の女子高校生が宇宙へ行くお話ですが、先生は高校生が本当に宇宙へ行けると思われますか?若い世代の宇宙教育について、どのような考えをお持ちですか?




ロケットガール
(C)野尻抱介・むっちりむうにい/富士見書房/ハピネット

これまでにも、女の子のヒロインが活躍するという話はいくつかありましたが、女子高校生が宇宙飛行士になるという話はありませんでした。世間では、アポロ時代にできあがった宇宙飛行士観というのがあり、宇宙飛行士は大変秀でた英雄的な人間で、しかも、知性も肉体も最高の選ばれた人であると信じられています。ですから、その辺を歩いているような女子高校生が宇宙飛行士になれるわけがないと周りによく言われました。しかし、自分なりに真剣に検討すると、高校生ぐらいになれば宇宙に行けると確信できたのです。「ロケットガール」の主人公の高校生は、南の島で宇宙飛行士の訓練を集中的に行い、宇宙飛行、そして月面着陸をも実現してしまいます。今の女子高校生でも、雑多な情報から切り離されて、他に遊ぶ場所がないような環境で集中的に訓練をすれば、宇宙船の操作もすぐに覚えてしまうでしょうし、きちんと教え込めば、宇宙船の仕組みも基礎から理解できるはずだと思います。
実際に、ロケットや衛星を女子高校生に作らせるという「ロケットガール養成講座」が秋田大学で行われています。初めは、指導する大学生や先生の言うことをただ聞くだけだった女子高校生が、2ヶ月も経つと顔つきが変わって「自分で考える目」になりました。それまでは、「ここはどうすればいいですか?」と聞いてきたのが、「ここは、こうすればいいですね」というように、自分で提案を出してどんどん作業を進めるようになりました。残念ながら、女子高校生が作った全長2m程のロケットは、打上げに成功したものの衛星分離ができず、満点ではありませんでした。しかし、このプロジェクトに参加した女子高校生が得たものは非常に大きかったと思います。一発勝負の打上げを成功させるという大きなプレッシャーの中で、みんなで試行錯誤をしながらもの作りに取り組むというのは、現実の宇宙開発に非常に近いものであり、このような経験を若い時にすれば、人生にも大きな影響を与えるだろうと思います。実際に、このプロジェトに関わって理工系に進路を決めた学生もいました。このように、若い世代に何か「きっかけ」を与えるということは、宇宙教育では重要なことだと思います。


ロケットの打上げ準備をする、秋田大学ロケットガール養成講座の学生たち
(提供:秋田大学)

私たちが子供の頃はアポロ計画の真っ最中でしたので、世の中全体が宇宙に目を向けている時代でした。しかし今は多様化されていますので、子供たちの興味もさまざまです。熱心に教えても全員がついてくるわけではありません。ごく一部の子供たちが、そこから芽を伸ばしていくのだと思います。ですから、子供たちが宇宙やロケットなどに興味をもったらすぐに、近くのプラネタリウムや科学館にアクセスできるような状況にしておくこと、教え好きな大人に出会えるようにしておくことも必要だと思います。そして、子供同士のクラブ活動などで、もの作りを通して、何かを達成していくような機会が作れればいいと思います。子供たちを元気にさせない要素として「閉塞感」がよく言われますが、そういう意味で宇宙は、閉塞感を打破するための大きな要素ですので、きっと子供たちを元気にしてくれると思います。


Q.先生の作品は科学的根拠に基づいていて、実際にありそうなストーリーで読者を惹き付けます。一般の方の興味を抱かせるために、どのような工夫をされているのでしょうか?


近未来、あるいは現代の宇宙ものを書くにあたっては、自分が作るつもりでとことん調べます。自分が開発の当事者になったつもりで、どこまで実現できるのか。また、いくつか架空のものが入り込むにしても、こういう材料が本当にあれば実現できるというところまで自分が納得した上で書きます。子供の頃から、時計やラジオなどを分解するくせがあるんですが、分解して中の作り方が分かると、自分でも作ってみたくなるんです。望遠鏡やロケットを作ってみたこともありますが、私の中では、作ることと理解することが抱き合わせなんですね。作ることでいろいろなものが理解できるし、本当に理解できたかどうかを確認するためにも作ってみようと思うんです。この性格が自分の作品にもそのまま反映され、何かを作る感覚で書いています。
また、科学的な根拠という点においては、私は現場にいる研究者やエンジニアの方々との交流がありますので、自然と情報が伝わってくることも多いです。もちろん、自分で調べることもしますが、交流の中で得た知識というのが大きいです。
私が科学的なリアリティーにこだわるのは、読者に目くらましするというのではなく、共通語で書きたいからです。科学というのは宇宙共通の言葉なんですよね。物理の法則は宇宙のどこに行っても通じます。地球上のどこでも通じる共通のルールなんです。科学的な方法論や考え方に従って構築したものは、誰が読んでも分かるひとつの普遍性があるということです。そういう普遍性があると、たとえ小説として出されたものであっても、小説の枠を超えて話し合いができます。例えば、「指輪物語」(ロード・オブ・ザ・リング)や「ハリー・ポッター」などのファンタジー小説には、作品ごとに違うルール、世界観があります。作品を読んでいないと、どんな魔法があるかとか理解できないわけです。一方、科学に忠実な方法で書かれたものは、その作品を読んでいなくても、「こういう小説の中にこんなものがあったけど、どう思う?」という話をすると、エンジニアや研究者の方はその本を読んでいなくても、「それはこうだね」というような話ができます。小説の枠を超えて、宇宙開発の現場とやり取りができるということで、私も実際に、研究者やエンジニアの方々と交際してきたわけです。結局のところ、私は、科学的であるというより、普遍性があることにこだわって小説を書いています。


Q.小説を読んで宇宙に興味を持つ子供たちがいます。宇宙の魅力を伝える、広報していくことについてはどう思われますか?


子供たちに宇宙の魅力を知ってもらうことはとても大切なことです。そういう意味でJAXAは広報活動をよくやられていると思います。特にこの10年間(NASDAの時代も含めて)でJAXAのインターネットのサイトはリニューアルして随分よくなりました。しかし、みんながそれを熱中して読んでいるかといったらそうでもないと思うんです。広報というのは、内容が面白ければ自ずと盛り上がっていくものですが、地味な内容を面白くしようとしても限界があります。要するに、受け手がどう関わっていけるかが重要だと思うんです。JAXAの宇宙計画を見た人が、それを絵空事だと思わず、「自分でも何かやれるかな」という期待感をもてるようにしなければならないと思います。そのためにも、宇宙ミッションの本質的なところに関われるような、インタラクティブ(双方向的)な相互作用が必要です。
そういう意味で私が最近興味を持っているのは、大学などで取り組んでいる超小型衛星「キューブサット」や「缶サット」、手作りロケットです。この辺りのプロジェクトですと、場合によっては関係者と連絡をとって見学させてもらったり、直接当事者と話ができたり、時には一緒にもの作りすることもできます。そのように間口が開かれていて、自分も関わっていける、自分で何か動かせるという手応えがあると、受け手としてもがぜん張り合いが出てきます。
JAXAのプロジェクトにも、もっとフレキシビリティがあり、自分も何か関われるかもしれないという可能性があれば、もっと広報も盛り上がるのではないでしょうか。


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