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地球をもっと知るために
Q.「ベピコロンボ」の開発はどこまで進んでいますか?どのような予定で水星へ到着するのでしょうか?

ESAのロケット発射場から打ち上げられるソユーズロケット(想像図)(提供:ESA)
ESAのロケット発射場から打ち上げられるソユーズロケット(想像図)(提供:ESA)
JAXAが運用を担当するMMO探査機に関しては、全体の基本設計審査が終わったところで、これからエンジニアリングモデルや熱構造モデルを作って、その結果を基にフライトモデルの詳細設計に入り、製作、試験へと続きます。衛星の設計が決まり、いよいよ本格的な物作りが始まるといった段階まできました。ヨーロッパのチームとは、年に数回、直接顔をあわせ、お互いの開発の進捗状況や問題点などの情報を交換しています。
その一方で、観測に関する科学会議も年に数回行っています。各々の探査機の観測計画を立てる責任は、それぞれ日本とヨーロッパにありますが、MPO探査機が観測をしているときに、MMP探査機もそれに合った観測をしようと、両探査機の観測計画を総合的に考えています。日本とヨーロッパで2機の探査機を水星に同時に持っていき、1+1=2にするのではなく、1+1を5にも10にもしたいという気持ちです。また、1機だけで観測できないこともありますので、2機の観測計画をどう調整していくかがとても重要です。その調整チームを「SWT (Science Working Team)」と呼ばれるベピコロンボに関わる科学者の全体会議で議論をします。今年の9月には5回目のSWTが日本の仙台で開かれます。最近は通信の技術が発達しましたので、ビデオ会議や電話会議も行いますが、チームの人たちと直接顔を合わせて話すことがとても重要です。やはり、フェイス・トゥ・フェイス(face to face)にはかなわないと思っています。このようにして、チームの信頼関係を深め、プロジェクトの成功を目指してみんなが一丸となって進んでいます。
「ベピコロンボ」の打ち上げは、2013年を目標にしています。探査機の打ち上げから惑星間空間の巡航、水星周回軌道への投入、探査機の分離までは、欧州宇宙機関(ESA)の責任で行われます。MPO探査機とMMO探査機は一体化されて、ソユーズ−フレガート2Bロケットで、フランス領ギアナにあるESAのロケット発射場から打ち上げられます。そして、惑星間空間を飛翔し、月や金星、水星のスウィングバイを経て、2019年に水星に到着する予定です。到着すると、2つの探査機は切り離され、それぞれの運用が始まります。両探査機の観測は地球の1年間を予定しています。

Q.「ベピコロンボ」による観測で最も期待していることは何でしょうか?

早川 基

プラズマ物理において、水星と地球の共通している点、特異な点を調べて、水星の磁気圏では何が起きているのかを理解したいと思います。私はもともと、地球周辺の磁気圏の研究を行っていました。磁気圏を研究している人にとって、水星と木星はとても興味のある惑星です。その1つである水星に行けることになって、非常にわくわくしています。太陽系のいくつかの惑星には固有の磁場があります。地球の磁場はしっかりしていますので、プラズマが磁場に押さえられて形が決まってしまうことが多いですが、木星は巨大な磁気圏で、プラズマが支配しています。そのため、プラズマの動きで磁場が引っ張られることもあり、磁場が非常に変形しやすいです。それに比べ、水星はとても小さい磁気圏です。プラズマはあるようですが、なぜそこにプラズマがあるのか、どうやってプラズマを維持しているのか、地球と同じような現象が起きているのか、まったく異なっているのかは分かりません。ですから、それを「ベピコロンボ」によってぜひ解明したいと思います。また、惑星にある磁場がどういう過程でできたのかが分かると、惑星がどのように形成され、進化してきたかが見えてくると期待しています。
プラズマの粒子加速に関しては、水星の磁気圏というだけでなく、天体物理にもつながるような発見があるかもしれません。天文観測は、ターゲットまでの距離が遠すぎて直接観測することができないため、間接観測による理論で推定しています。しかし、太陽系の惑星は探査機を送って、直接探査ができます。ですから、ある意味、水星などの惑星は非常に大きな実験室であるとも言えます。水星のプラズマを調べることによって、プラズマ物理の進歩にもつなげたいと思います。

Q.惑星探査の魅力は何だと思われますか?

水星(提供:NASA)
水星(提供:NASA)
私にとって惑星探査は、自分たちのいる地球との環境の違いを知ることであり、それによって地球を知ることにもつながるというのが、一番興味のあるところです。水星にしても、地球と無関係ではないと思うんです。惑星に行っていろいろ調べることで、地球について分かることがたくさんあると思います。地球を知る上で、他の惑星を見ていくことが役に立ちますし、地球では見られないことが惑星で見られますので、非常に面白いと思います。自分が行ったことのない未知の世界へ行ってみたい、という好奇心も、惑星探査をする大きな要素ではあると思います。

早川 基(はやかわ はじめ)
JAXA宇宙科学研究本部 固体惑星科学研究系 教授。理学博士。
1981年、東京大学大学院理学系研究科地球物理学専攻修士課程修了。1991年、東京大学大学院理学系研究科より博士(理学)の学位を取得。旧文部省宇宙科学研究所(現JAXA宇宙科学研究本部)助手、助教授を経て2005年より同研究所教授。磁気圏観測衛星の「あけぼの」衛星、GEOTAIL衛星、火星探査機「のぞみ」の開発に参加。2006年、水星探査計画「ベピコロンボ」のプロジェクトマネージャに任命され、現在に至る。専門は惑星磁気圏物理学。
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