Q. ノーベル物理学賞を受賞されて、今の心境はいかがでしょうか?
大変名誉なことですが、プレッシャーもあり、責任を感じています。本当に自分が受賞してもよいのかなという気がしています。
Q. 先生が研究なさっている「素粒子物理学」は、一般の方に分かりやすく説明すると、どんな学問、どんな研究といえますか?
素粒子というのは、物質をつくる一番基本的な要素です。素粒子物理学とは、何がいちばん基本的な構成要素かを追求する学問です。同時にそれは、自然界で、一番基本的なところは何なのかを研究する学問でもあります。
Q. 素粒子物理学の魅力は何でしょうか?
素粒子物理は、自然科学の中の1つの分野です。ですから実験で自然を相手にして、自然がどうなっているかを調べることに基づいています。しかし素粒子の研究というのは、実験結果だけでなく、多少、研究者の思考が含まれる面があります。思想というと言い過ぎかもしれませんが、ある種の勝手な空想を自然と付き合わせて、それがどこまで正しいかを現実に試しながら進んでいきます。その空想と現実のやりとりは大変魅力的でおもしろいです。
Q. 素粒子物理学と宇宙の関係はどのようなものでしょうか?
宇宙の始まりはビッグバンと呼ばれる大爆発であり、ビッグバンによる大きなエネルギーが物質をつくる粒子を生み出したと考えられています。ビッグバン直後は超高温・高密度の状態で、飛び交う粒子のエネルギーは非常に高く、初期の宇宙で起きている現象はまさに素粒子の反応です。そこを支配しているのはまさに素粒子の物理法則ですから、誕生して間もない宇宙のようすを知りたいと思うと、素粒子の知識が必要になってきます。素粒子物理学は、宇宙の起源を明らかにする宇宙物理学との結びつきがとても強いと思います。
Q. なぜ素粒子を研究しようと思われたのですか?
子供の時から、原理的なものになんとなく興味があったというのが背景にあると思いますが、素粒子に興味があったというわけでなく、高校時代もテニス部に所属して毎日運動ばかりしていました。数学や物理は、ほかの科目に比べれば多少は好きという程度でした。私は名古屋で育ち、地元の名古屋大学に進学して坂田昌一教授の研究室に入ったことで、素粒子の世界が現実的なものになっていきました。当時、坂田教授は素粒子研究で大きな功績をあげていたので、教授の研究室は学生にも人気がありました。坂田研究室での実験や議論はとても面白く、それらを見聞きするうちに、素粒子の世界への漠然とした憧れから、素粒子をもっと研究したいと思うようになりました。
Q. 益川敏英教授といっしょに研究を始められたきっかけはどのようなことですか?
大学院に入ってすぐに坂田研究室で益川さんと出会いました。益川さんは私よりも学年が5つ上ですでに助手をしていて、彼のグループに私が参加したのがきっかけでした。名古屋大学大学院を出たあとに私は京都大学に移り、すでに京都大学の研究室にいた益川さんと再会し、またいっしょに仕事をしようという話になりました。研究室で毎日益川さんと議論をし、今思い出すとなかなか楽しい日々でしたね。

ノーベル物理学賞受賞の小林教授と益川教授(資料提供:KEK)

京都大学理学部時代に撮影された写真。後列左端が小林教授、前列左が益川教授(資料提供:KEK)