ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。



空想が現実になるとき
Q. 先生は、3つのクォークしか分かっていない時に、「6つのクォークがある」と予言しましたが、実証できると思われましたか?1995年に6番目のクォーク「トップ」が見つかったときは、どんなお気持ちでしたか?

クォークは3世代6種類ある クォークは3世代6種類ある

確かに、論文を発表した1973年当時は、「アップ」「ダウン」「ストレンジ」という3種類のクォークしか見つかっていませんでしたが、1971年に名古屋大学の丹生潔教授らの宇宙線の実験グループが、実験中に新しい粒子を見つけました。それは、今でいう4番目の「チャーム」粒子を含んでいたであろうと考えられ、その実験をめぐって議論されていました。そういう意味では、4番目のクォークについてはある程度の予測はできましたが、5番目、6番目については、論文を書いた時点では全くの仮説で、「こういう可能性があるよ」と言っただけで、周りの反応も「こういう議論もあるの?」という感じでした。自分たちの論文が世界の標準モデルになるということも、当時は全く想像していませんでした。しかし、論文を発表した翌年の1974年に、4番目の「チャーム」、1977年に5番目の「ボトム」が発見されました。この頃から素粒子の数が増えていくことが全くの想像ではなく、現実的になってきたため、私たちの論文に対する評価が変わってきたと思います。5番目の「ボトム」が見つかったら、そのパートナーである6番目がきっとあるだろうという考えが有力になり、実際に6番目の「トップ」が確認されたときは、誰もが「やっと確認できたか」と当たり前のように感じました。ですから、6番目が見つかった1995年には特別な感慨はなく、むしろ、5番目が見つかった1977年の方が、クォークの数の上では重要な年だったと思います。それまでは、クォークは形式的なもので実在の粒子ではないという考えもありましたが、4番目が見つかったことで、クォークがある種の実在だと認められるようになり、5番目の発見で確定的になりました。そういう意味で、1970年代は、世界的にも素粒子物理が大きく発展した時期でした。


Q. 2001年には、KEKの加速器を使って、ようやく「対称性の破れ」の理論を実証されました。その時のお気持ちはいかがでしたか?

Belle測定器(資料提供:KEK)
Belle測定器(資料提供:KEK)

クォークの数は6番目まで分かりましたが、「対称性の破れ」の現象が、本当に私たちが提案したようなメカニズムで起きているかどうかを検証しなければなりません。理論を明らかにするためには、実験が必要です。KEKでは、1周が3km、直径が1kmもある円形の大型加速器、KEKB加速器(電子陽電子衝突型加速器)を建設し、B中間子という粒子とその反粒子を大量に作り、それらが衝突して崩壊していくようすを数多く観測しました。加速器とは、電子など電荷を帯びた粒子を光の速度近くまで加速して、高いエネルギーの状態にする装置です。KEKB加速器はB中間子を作るので、「Bファクトリー」とも呼ばれています。そして2001年に、KEKB加速器とBelle測定器によって、B中間子と反B中間子にわずかな違いがあることを発見し、「対称性の破れ」が起きることを確認しました。Belle測定器では、Bファクトリーで作られた年間1億個ものB中間子を収集し、その崩壊を精密に観測します。私は、Bファクトリーの建設が始める前から KEKにいて、ずっと一緒にやってきましたので、最初に結果が出たときにはやはり感慨深いものがありました。私は理論屋ですから、自分で加速器を使って実験をするわけではありませんが、実験屋さんたちと一緒にプランを立て、彼らが何年も苦労しているのを側で見ていましたので、報告を聞いた時には「本当によかった」と思いました。日本の加速器技術は世界的にもトップレベルで、その高い技術力によって検証に成功したのだと思います。また同じ時期に、アメリカのスタンフォード大学でも同じような加速器を使った実験が行われ、私たちの理論が正しいことが証明されています。

宇宙の起源を知るための基礎
Q. 先生の「対称性の破れ」を裏付ける理論によって、宇宙の起源がどう解明されたのでしょうか?

Bファクトリーのような実験施設で見られる素粒子レベルの「対称性の破れ」は、私たちの標準モデルでほぼ完全に説明できます。そして、「対称性の破れ」によって、宇宙の物質(粒子)・反物質(反粒子)の非対称性をつくり出すことができるという、原理的なメカニズムは分かっています。しかし、標準モデルだけでは宇宙の起源を説明しきれません。宇宙が誕生した時には、粒子と同じだけあった反物質は今ではほとんど見られず、物質優位になっていますが、この現象を引き出すには標準モデルだけでは足りません。このことは、私たちの素粒子の知識がまだ不完全であることを意味します。まだ発見されていない別の素粒子が存在し、そこでの相互作用によって、別の対称性の破れが起きたことを示唆しているのです。そのための具体的な反応は何かとか、具体的にかかわる粒子が何かはまだ分かっておらず、これからの課題になっています。そういう意味で、宇宙の起源の問題についてはまだ未解決ですが、「対称性の破れ」を裏付ける理論によって、宇宙の起源を解明するための基礎ができたと言えるでしょう。


KEKB加速器(資料提供:KEK)
KEKB加速器(資料提供:KEK)

Q. 先生にとって宇宙の魅力は何ですか?

いわゆる天文少年ではありませんでしたが、大学卒業後の1970年頃に、素粒子からアプローチしていく宇宙物理学の考えが出はじめたときには大変驚きました。物質の根源を探る素粒子物理学の理論で、宇宙の起源の謎にせまるというのはとても魅力的で、宇宙論からニュートリノの性質を調べるという論文を書いたこともあります。素粒子物理から見た宇宙論には興味があり、今でも注目しています。

Back
1   2   3
Next