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火星での有人活動も視野に入れて
Q. 宇宙医学生物学研究室では今後どのような取り組みを行う予定でしょうか?

宇宙医学生物学研究室のロゴマーク

宇宙医学生物学研究室のロゴマーク

宇宙医学生物学研究室のコンセプトは、研究室のロゴマークに表されています。ロゴマークには、地球から、国際宇宙ステーション、月、火星にのびる「矢じり」の絵と、宇宙医学生物学研究室(Japan Space Biomedical Research Office)の頭文字「J-SBRO」が描かれています。国際宇宙ステーションを研究の足場としつつ、月や火星を視野に入れて、研究員が矢じりの先端となって、宇宙というフロンティアを突き進みたいという思いが込められています。このコンセプトの元に、研究員がフロンティアをどんどん開拓していってくれればと思います。
宇宙医学は究極の予防医学であり、私たちは飛行士のためだけに研究しているわけではありません。宇宙飛行士も地球上の人であり、仕事場を宇宙としています。地球上のみんなが私たちの研究結果を享受できるような学問に、宇宙医学を発展させていきたいと思います。
また、なぜ火星での医学も考えるかといいますと、月と環境が違う火星を研究することによって、別の視点で学べるからです。月は地球と近いため、何かあっても最悪は地球に戻ってくればよいし、物資や食料も地球から輸送することができます。しかし、火星の場合は、遠隔医療も自立型を考えなければなりません。地球から遠いため、診断も治療も自力で行うしかないのです。また、閉鎖空間におけるリサイクルシステムをきちんと作る必要もあります。この火星のリサイクルは、地球のリサイクルやエコにもつながります。火星の医学を研究すれば、地上の生活にも役立つと思うからこそ、私は火星をやるべきだと思っています。


若い世代が面白いと思える研究を
Q. 向井宇宙飛行士のこれからの目標は何でしょうか?

1998年にスペースシャトルに搭乗。宇宙にて実験中(提供:NASA/JAXA)

1998年にスペースシャトルに搭乗。宇宙にて実験中(提供:NASA/JAXA)

私は室長という役割で、研究員が開拓する畑作りを一生懸命行っています。私は宇宙飛行士として宇宙へ飛行したり、これまでNASAでの実験にも多く参加してたくさんの研究室を知っています。その利点を使って、私でなければできない新たな畑の開拓を行っています。そして、畑に何を植えるかが重要ですから、種作りも行ってきました。畑に蒔いたその種がだんだん育ってきていますので、ものによっては来年には花が咲いて、実をつけるかもしれません。その実の部分が結果になります。
私は、研究室で行っている研究が成長してきたら、なるべく早く若い世代に引き継いでいきたいと思っています。若い人たちが目を輝かせて、面白いと思ってくれるような研究分野は、若手のやる気をどんどん出してくれるはずです。宇宙医学生物学研究室のみんなが、「この研究室に来てよかった」と思ってくれるような研究室にしていきたいと思います。


仕事場は宇宙
Q. いずれまた一般の方たちの医療現場に携わりたいというお気持ちはありますか?


年を重ねてきたおかげで、若いころにはわからなかった人の悲しみやいろいろなことが幾分か分かるようになってきたと思います。健康の相談役としては若いころよりか良い医者になっているかもしれません。これまでいろいろなことを経験し、人の苦労などが分かるからこそ治せる病気もありますからね。若いころは技術があっても、本当の意味で、患者さんの痛みや辛さがまだ分かっていなかったところがあったと反省することがずいぶんあるんです。ただ、私が専門としていた心臓外科はチームを組んで行う分野ですから、今後、この分野で臨床医に戻るということはないと思います。医療と医学というのは少し違っていて、まずは、教育分野と研究分野からなる医学があります。そして、それを患者さんに役立たせる臨床の分野が医療です。私は今、臨床は行っていませんが、教育と研究には従事していますので、医学の現場にはいます。その現場に「仕事場を宇宙」として積み重ねてきた経験をどんどん活かしていきたいと思います。

向井千秋(むかいちあき)
JAXA宇宙飛行士 有人宇宙技術部 宇宙医学生物学研究室長 医学博士

1977年、慶應義塾大学医学部卒業。同年、医師免許所得。1988年、同大学博士号取得。同大学医学部外科学教室医局員として病院での診療に従事。1985年、NASDA(現JAXA)より搭乗科学技術者として宇宙飛行士に選定される。1994年、98年と2度の宇宙飛行を行い、微小重力下でのライフサイエンスおよび宇宙医学の分野の実験を実施。2004年より2007年9月まで、国際宇宙大学の客員教授として、国際宇宙ステーションでの宇宙医学研究ならびに健康管理への貢献を目指した教育を行う。2007年10月より現職。


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