国際宇宙会議(IAC)宇宙機関セッションでの立川理事長の講演
日本の宇宙開発の成果をできるだけ世界に拡げたいという考えのもと、特にアジア各国との国際協力を推進しています。宇宙先進国として、もっとアジアの方々の役に立ちたいと思っています。そこで、日本が主体となってアジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)を行ってきましたが、その活動をより具体化するために、「センチネル・アジア」という災害監視体制を4年前につくりました。「センチネル・アジア」とは、「アジアの監視人」という意味です。アジアは自然災害の多い地域ですから、災害が起きたときに人工衛星で状況を把握し、速やかに対応できるようにするのが目的です。最初は日本の陸域観測技術衛星「だいち」のみが参加しましたが、今では、インドやタイ、韓国の地球観測衛星も連携しています。災害監視の衛星が増えれば、すぐに観測して、迅速にデータを提供することができます。衛星からのデータはインターネットで公開し、被災された国の方が比較的容易に情報を得られるようにしています。
また、宇宙開発に携わる人材の育成を目的とした、STAR(Satellite Technology for the Asia-Pacific Region)計画を昨年から実施しています。インドネシア、タイ、ベトナム、インド、韓国など、アジア各国の技術者が、JAXAの相模原キャンパスを拠点として、小型衛星の開発を行っています。将来、アジア各国が独自に人工衛星を作ることができるようになれば、災害監視などの地球観測衛星として大いに活用できると期待してます。
さらに、地球環境問題への対応を、アジア各国で協力して行おうという、SAFEプロジェクトもスタートしました。SAFEとは、Satellite Application for Environment(環境のための衛星利用)の略で、各国の環境問題に対応できるよう、衛星システムを活用するのが目的です。昨年、ベトナムの人工衛星のデータを利用して、森林資源管理システムを試験的につくりましたが、今後はさらに衛星の利用を拡大していきたいと思います。衛星を打ち上げるだけでなく、打ち上げた後の衛星をうまく活用することで、アジア全体としての環境対策を考えていくことが重要です。
これらは、アジア地域における国際協力の例ですが、ほかの国でも自然災害は起きてしまいますので、衛星利用の必要性は世界的に高まっています。JAXAは昨年、ドイツ、イタリアとも人工衛星の利用に関する連携協力協定を結びましたので、今年はさらに国際協力が進んでいくと思います。このように、宇宙は、国際協調の最先端をいく分野だと思いますので、今後も積極的に行っていきます。
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情報センターJAXA i
2009年10月に開催された「第40回JAXAタウンミーティング」 in 大分
JAXAの宇宙航空開発は、国民の理解があってこそ成り立つものですから、みなさんに私たちの活動を知っていただく機会をつくることが重要です。そのための取り組みをいくつか紹介しましょう。
1つ目は、日本各地で行う「JAXAタウンミーティング」です。一般の方にお集まりいただいて、私たちの活動内容を聞いていただくと同時に、みなさんからのご意見も伺います。昨年はタウンミーティングを全国で11回行いました。このほかにも、私たちの情報を提供する場として「JAXAシンポジウム」を開催するほか、宇宙飛行士が地球に帰還すると、ミッションの報告会を兼ねて、宇宙での活動状況を発表する場を設けています。またJAXA職員による、一般の方々を対象にした講演会も行っています。
2つ目は、ホームページを活用した情報発信です。昨年は毎月概ね800万以上というアクセス数(ページビュー)になりましたので、ホームページを利用した情報提供はとても有効的だと思います。特に、ロケットの打ち上げ時にはみなさんの関心が高まりますので、打ち上げを生中継でご覧いただくようにしています。
3つ目は、展示施設の公開です。東京には「情報センターJAXA i」という展示スペースがありますが、同じようにJAXAの活動を紹介する展示施設を、筑波宇宙センターや種子島宇宙センターなどそれぞれの拠点に設けています。また、私たちの活動状況を理解していただくために、特別な施設公開日を決めて、ご家族で一緒に見学いただけるような機会もつくっています。昨年は、展示施設への来場者数が年間で約53万人にもなりました。
これらの広報活動とは別に、子供向けの教育に宇宙開発を取り上げていただくために、宇宙教育センターを中心とした全国規模の活動を行っています。例えば、実際の教育現場に立つ先生方への支援をしながら、宇宙をテーマにした授業を行える環境づくりを共同で行っています。さらに、より多くの皆さんに宇宙の話題に触れてもらえるように、「宇宙の学校」や「コズミックカレッジ」を開催して、子供たちに宇宙のことを教えています。また、こういった場で子供たちのリーダーとなれる指導者の育成にも取り組んでおり、宇宙教育センターでは、毎年、約1500人の先生やボランティア指導者に教育支援をしています。
皆さんの声は、施設公開日や講演会などで行うアンケートを通じて伺っています。大部分は前向きなご意見で、「日本もよくここまできた」と喜んでくださっています。ロケットの打ち上げ能力を見ても、世界の5大宇宙国としての力が十分にあると思うので、これからもそれを維持し、発展させてもらいたいという意見が多数でした。昨年は、「かぐや」や「HTV」の成功について大変お褒めの言葉をいただき、私たちの励みになりました。国民の皆様からの声はホームページでも集めています。みなさんからの貴重なご意見に応えられるよう今後も成果を上げていきます。
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日本の宇宙航空分野のさらなる発展をめざし、その成果をできるだけ目に見えるような形にしていきたいと思います。特に有人宇宙活動については、ISSの「きぼう」日本実験棟が完成しましたので、その成果を続々と出さなければならないと思っています。JAXAの様々なプロジェクトを計画的に実行し、いい成果を出して、随時迅速に公開していきたいと思います。
また、確実に業務を実行するだけでなく、研究開発機関として、将来性のある新しい技術に着目する必要があります。これは、次の世代のためにもとても重要なことです。将来必要とされる技術はいろいろありますが、例えば輸送システムでは、宇宙での実験サンプルなどを地球に持ち帰る回収船を早く作りたいと思います。将来の宇宙輸送に有益な宇宙往還機についても検討を始めたいと思っています。また人工衛星については、利用を拡大すれば、それによって成果が多方面に行き渡ります。利用拡大のためには様々な情報を提供しなければなりませんが、そのためにもいろいろなセンサーが必要です。多様なセンサーをつくることによって、さらに用途も増えると思いますので、ぜひ新しいセンサーの開発を促進したいと思います。このようにJAXAでは、将来、私たちの生活にも役立つような、新しい研究の芽を育てていきたいと思います。