完成した「きぼう」日本実験棟(提供:NASA)
国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟の完成が第一に挙げられると思います。ISSは20年以上も前にスタートした計画で、昨年ようやく日本の有人宇宙施設「きぼう」が完成しました。その完成時に活躍したのが若田光一宇宙飛行士です。若田宇宙飛行士は3月から7月までの約4ヵ月半、宇宙に長期滞在し、ISSの建設のみならず、様々な宇宙実験を行い、さらに自らの身体を使った医学実験にも参加しました。宇宙長期滞在は日本人にとって初めてでしたので、若田宇宙飛行士の健康管理など地上スタッフにとっても貴重な経験になりました。若田宇宙飛行士が元気に地球に戻ってきて本当によかったと思っています。また、9月にはISSに物資を補給する宇宙ステーション補給機(HTV)技術実証機がH-IIBロケット試験機によって打ち上げられ、こちらも無事にISSにドッキングして任務を果たしました。
ほかに評価が高かったのは、1月に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」です。「いぶき」は、地球温暖化の要因となる二酸化炭素やメタンガスを地球規模で観測します。昨年の10月からはデータの提供も始まりました。このような人工衛星は現在のところ世界に1機しかないため、温暖化対策に貢献できるのではと国内外からの期待が集まっています。また、月周回衛星「かぐや」のミッションは昨年6月に終わりましたが、その観測データの公開を昨年11月から行っています。「かぐや」は14の観測機器を搭載し、様々な科学観測データを集めました。このデータを世界に公開することで研究が進み、月への理解がさらに深まるのではないかと期待しています。
これらの成果によって、日本の宇宙開発は世界各国から大変な評価を受けており、国内でも宇宙への関心が高まってきたと思います。
野口宇宙飛行士(左)と山崎宇宙飛行士(右)
今年はISSが完成することにより、「きぼう」日本実験棟の運用が本格化します。日本の有人宇宙活動として特に大きいのは、野口聡一宇宙飛行士による宇宙長期滞在です。野口宇宙飛行士は、日本人として2人目の宇宙長期滞在を行うため、昨年の12月にロシアのソユーズ宇宙船で飛び立ち、今年の5月までISSに滞在する予定で、様々な宇宙実験を行うとともに、ISSの維持にも努めます。「きぼう」を利用した、船内および船外での宇宙実験が本格的にスタートしますので、そういう意味でも彼の活躍を大いに期待しています。また、今年の3月には、山崎直子宇宙飛行士がスペースシャトルで宇宙へ行き、ISSへの物資の補給やロボットアーム操作などの作業を行う予定です。ミッション中には野口宇宙飛行士も軌道上にいますので、初めて日本人2人が宇宙に滞在することになります。
このようにISSの利用が本格化してくると、「きぼう」をいかにうまく運用していくかが重要になります。実験の計画立案や実施など、「きぼう」の運用を行っているのは筑波宇宙センターにある「きぼう」運用管制室です。約60名のスタッフが24時間365日体制で業務を行っています。彼らの支えがあってこそ宇宙飛行士も活動できるのです。ISSの運用は日本の運用管制室だけでなく、アメリカやロシア、ヨーロッパなど各国と連携して行っていますが、そのような国際協力の経験を蓄積できる点でも、「きぼう」運用管制チームの役割は非常に重要だと思います。
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国際宇宙ステーション(提供:NASA)
ISSに参加しているアメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダ、日本の5つの宇宙機関の機関長が集まって、ほぼ年1回の頻度でHOA(Heads of Agency)会議と呼ばれる会合を行っています。これまではISSが建設中でしたので、主にその建設スケジュールの調整を行ってきました。今年ISSが完成しますので、これからはISSの運用についての議論が中心になると思います。現在の計画では2015年までISSの運用計画が決まっていますが、2016年以降どうするかをそろそろ決めなければなりません。それについては昨年から議論されており、まずは運用を継続することになった場合にISSの設備や補給品などに問題がないかを調査しており、問題ない見通しを得ています。
また昨年、アメリカではオバマ大統領の指示により、外部有識者が集まってアメリカの有人宇宙飛行計画の見直しを行う「オーガスティン委員会」が設置されました。委員会は検討した結果として、ISSを十分活用するために、運用を少なくても2020年まで継続することも大統領に提案しています。次回の宇宙機関長会議は3月に東京で行われる予定ですが、ISSの運用継続についても大きな話題になると思います。
金星探査機「あかつき」(左)と小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」
今年は金星探査機「あかつき」と準天頂衛星初号機の打ち上げを予定しています。「あかつき」は金星の大気や風など、主に気象を調べます。また、「あかつき」と一緒に、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」(イカロス)を打ち上げます。「イカロス」は薄膜のセイル(帆)に太陽光の力を受けて進む、宇宙ヨットです。ソーラーセイルが実証されれば世界初なので、成果が期待されています。そのほかにも、大学が製作する4つの小型副衛星が相乗りで打ち上げられます。相乗り衛星は、大学や研究機関等に打ち上げ機会を与えることを目的に、ロケットの打ち上げ能力に余裕があるときに公募します。今回は、昨年の「いぶき」に続いて2回目の募集でしたが、このような取り組みが民間の衛星製作の刺激になればいいと思います。
準天頂衛星
準天頂衛星は、アメリカの全地球測位システム(GPS)を補完補強して、測位精度をさらに向上させるための実証衛星です。準天頂衛星は日本のほぼ真上を通りますので、高層ビルの影や山間部などにいても、障害物に影響されずに衛星の電波を受信することができます。そのため、準天頂衛星と複数のGPS衛星を組み合わせることで、特に日本国内の正確な位置情報を得られます。GPSの補強・補完が期待通りできれば、わが国でも本格的な測位衛星の実用化が検討されることになると思います。
また、2003年に打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ」が、今年の6月に地球に帰還する予定です。「はやぶさ」のカプセルはオーストラリアの砂漠に着地する予定ですが、地球−月圏外に出て行って、天体に着陸し、戻ってきたものを回収するのは世界で初めてです。カプセルが着実に地球に戻り、カプセルに小惑星「イトカワ」のサンプルが入っていることを大いに期待しています。
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