土井さんが搭乗したスペースシャトル「エンデバー号」(STS-123ミッション)の帰還 (提供:NASA)
2年前にスペースシャトルで「きぼう」の最初のモジュールである船内保管室を国際宇宙ステーション(ISS)に設置するミッションを終えて地球に帰ってきた後、今後も宇宙飛行士を続けるか、日本に戻り開発の仕事をするか、それとも新しい可能性を探すか、など考えていた時期がありました。そんな時たまたま、国連の宇宙部の宇宙応用課長の募集を知りました。国連も世界を相手にしている機関で、かつ宇宙も相手にしているというところが新しく魅力的だと感じて応募しました。宇宙飛行士の経験のなかで、宇宙から見ると地球全体が一つに思えたということがありました。しかし実際地上にはいろいろな国があって、いろいろな文化があって、いろいろな人々の生活がありますよね。ただ、宇宙から見ているだけでは地球上で何が起きているかはわからない。地球に帰ってきてから世界の人々がどのように生活しているのか、世界で宇宙開発がどのように進められているのかということに興味を持ちました。宇宙開発をいろいろな人のために進めることができたらおもしろいな、と思ったことがこの国連での仕事に魅かれた理由の一つです。もう一つはISSに行った経験からですが、世界の15カ国が参加しているISSは人類全体の資産になるべきだと感じまして、その利用を国連でぜひやってみたいと思いました。宇宙から地球を見た経験・体験が今の国連での仕事を選ばせたと言えるでしょうか。
STS-87ミッションでスパルタン衛星放出の様子を写真に収めている土井さん(提供:NASA・JAXA)
一番変わったことは視野が世界規模に広がったことです。もう一つは自分のための仕事から世界のための仕事になったことです。宇宙飛行士時代は宇宙飛行士としての能力を高める訓練や技術業務をすることが主な仕事だったので、どちらかというと自分やJAXAのために仕事をしていたところがありました。しかし国連では、仕事が世界規模なので視野が100倍にも1000倍にも急激に広がりました。それも自分のためではなく世界のための仕事をしているという実感があります。面白いと思えるのは、国連のカフェテリアです。そこには世界の様々な国の人々が集って来ます。全く理解できない様々な言葉でコミュニケーションが交わされていますので、その中で昼食を摂っていると世界の多様性の中にさらされていると実感します。
国連ウイーン本部の中庭。国連加盟国192カ国の国旗が並ぶ(提供:国連宇宙部)
日本にいた時は日本人同士ということで理解し合えるところがありました。また、NASAでのミッションの時は数カ国が集まってミッションのためのチームを作りましたが、目的がはっきりしていたのでチームワークができやすい環境でしたね。そもそも、チームワークができ上がらないとミッションが成り立たないですから。しかし、国連ではいろいろな国々の人が集まって仕事をしているので、様々な文化、経験、言葉、アプローチの方法の違いがあるので、ある意味チームワークができにくい環境だと思います。また世界の国々の要望がそれぞれ異なるので、はっきりとゴールを決めることが難しい。どちらかというと議論しながら一緒にゴールを作っていく感じです。多種多様な人々と仕事をするということは、自分の主張より他の人たちの主張を優先し、NASAにいた時よりもむしろ強い協調性が必要だと感じています。