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準天頂衛星初号機「みちびき」への期待

Q. 衛星測位は、サイエンスから一般の社会生活までさまざまなシーンで活用されています。土井さん個人として衛星測位(GPS)を利用されて助かった、 良かった、これは便利だと思ったことなどはありますか?

準天頂衛星初号機「みちびき」 軌道上イメージ図
準天頂衛星初号機「みちびき」

たくさんあります。今回初めてヨーロッパに住んだのですが、携帯電話のGPS機能のおかげで知らない街でも買い物や名所巡りなど自由にすることができました。他にも、知らない国に出張してたとえ迷っても、GPS機能さえあれば必ずホテルに帰れるという安心感は大きいですね。非常に小さな携帯でGPS機能が使えるということで旅も海外での仕事も非常に楽になりました。
また私は天体観測が趣味なのですが、望遠鏡を使って観測したときに非常に正確な時刻を知ることは重要です。ある天体現象が起きてその写真を撮った時にそれがいつ起きた現象なのかということが重要で、時刻が正確でなければ科学的意義のないものになってしまいますからね。その時刻を知るためにGPSで受信した時刻を使用しています。

Q. GPSを使って便利な中でもぜひ改良してほしいということはありますか?

今は数メートルの誤差がありますので、ぜひセンチメートルの精度の情報が欲しいですね。そうすれば車同士の衝突を避けるシステムや、様々な自動化が進むでしょう。そうすると、交通機関である飛行機や鉄道、船などでより効率的な移動が可能になり、移動にかかるエネルギーの削減につながると思います。近い将来にコンピューターとインターネットの発展のようなインパクトのある新しい産業革命が起こる可能性があります。

Q. 正確な位置情報、時間を使ったアプリケーションで、こんなことができたらいいなぁという物があったらお聞かせください。

ミリメートル精度の衛星測位が実用化されたら、地球上のどこででもメスを使った外科手術をロボットの遠隔操作で行えるようになれるかもしれませんね。そのように考えると様々な可能性がありますね。センチメートルなのか、ミリメートルなのか、どこまで精度が良くなるのか楽しみですね。ミリメートルオーダーの高精度な測位が実現できると今では考えつかないようなことが可能になるかもしれません。

Q. 日本が今度打ち上げる準天頂衛星システムの意義や役割を国際協力、協調などの観点からどのようにお考えでしょうか?

準天頂衛星3機による準天頂衛星システム イメージ図
準天頂衛星3機による準天頂衛星システム イメージ図

日本の準天頂衛星システムはとってもユニークですね。いつも天頂方向に1機は衛星があってビルの谷間でも衛星からの信号を受信ができて、より精度の高い測位ができるという点はすばらしいですし、そのようなユニークなシステムを開発できる日本の技術はすごいですね。準天頂衛星システムを含む他の測位衛星システムは世界中の人が恩恵を受けるシステムですし、特に準天頂衛星システムはアジアの国々の人々が恩恵を受けることができるので、日本だけではなく他のアジアの国々の人々も使えるようなシステムにしてほしいという願いがあります。
私としては山岳地方で非常に有益なシステムになると感じています。たとえば山々に囲まれた村はアジアにも多くありますよね。そのようなところでは雨による災害などの問題もありますし、緊急時の交通の便が悪いですから、そのようなところでこそ衛星測位が使えるようになると生活が向上するだろうという期待があります。今後、世界のアンデスとかヒマラヤなどの山岳地域の人々が準天頂システムを使えるようになるといいですね。

Q. 準天頂衛星打ち上げに向けたメッセージがあれば

ぜひ、打ち上げが成功してほしいと思います。
この新しいシステムの有効性を検証してもらって、早く実用レベルに達してより多くの人に使ってほしいと思います。衛星が上がってそれで終わりではなく、これから様々なインフラを整備しなくてはならないとは思いますが、そちらも是非ともがんばってほしいと思います。

準天頂衛星初号機「みちびき」にかけて

Q. これまでの人生で土井さんを宇宙飛行士、そして国連職員に“みちびいた”ものは何でしょうか?

宇宙への興味、好奇心、憧れが私をここまでみちびいてくれました。
中学生の頃から星や宇宙に興味を持ちはじめ、宇宙の果てがどうなっているのか、宇宙にいったい何があるのかという謎を解き明かしたいという想いが、私を宇宙飛行士にみちびいてくれました。そして宇宙飛行士活動を終えた後でも、人類の宇宙活動に貢献したいという想いと宇宙での体験が今の国連の仕事にみちびいてくれました。

Q. 測位衛星は宇宙空間に浮かぶ灯台にたとえられます。日本人宇宙飛行士の先駆者として多くの後輩をみちびいてこられた土井さんは今後、日本を、そして世界をどのようにみちびきたいとお考えでしょうか?

国連宇宙部の展覧コーナーにはNASAから貸し出された月の石も展示されている(提供:国連宇宙部)
国連宇宙部の展覧コーナーにはNASAから貸し出された月の石も展示されている(提供:国連宇宙部)

今人類が宇宙に進出していく活動の中で何ができるかというと、宇宙に行く努力をすることによって新しい科学技術の創造ができると思います。それをまたフィードバックして、人々の生活の向上や環境問題などの解決につながると思います。
もう一つは、宇宙に行くことによって新しい文化が生まれてくると思います。月や火星に街ができると、そこの重力環境に合わせたスポーツや芸術が生まれ、それがやがて文化となっていくことでしょう。それだけでなく、宇宙に行くためには世界がより深く協力しなければなりませんので、世界の文化の融合がより推し進められるかもしれません。そうすると、今までの地球の文明から新しい科学技術と文化ができて、新しい文明が生まれてそれがやがては宇宙文明と呼ばれるようになるかもしれませんね。今は私たちが日本からヨーロッパに自由に行き来できるようになったように、月や火星にも自由に行き来できる時代が早く来て欲しいと思っています。



関連リンク
  • みちびき特設サイト
  • 「QZ-Vision(キューズィービジョン)」(プロジェクトサイト)
    準天頂衛星初号機「みちびき」は、2010年夏に種子島宇宙センターから打ち上げられ、世界のGNSS衛星たちの仲間入りをします。
    「みちびき」の紹介や、打ち上げ後の飛行状況、データ配信のためのサイトが新しくオープンします。触って遊べる3D「みちびき」や、超精密ペーパークラフト、漫画家の小山宙哉氏をはじめ様々な分野で活躍される方々へのインタビュー「みちびく人々」など、衛星測位をまったく知らない人から、専門家まで楽しんでいただけるサイトです。ぜひお立ち寄りください。
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