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自分たちのロケットで未来を切り開く

Q. 新しいロケットを開発する醍醐味は何でしょうか?

最後のM–Vロケット打ち上げ(2006年9月23日)
最後のM–Vロケット打ち上げ(2006年9月23日)

「未来を自分たちで切り開いているんだ」という高いモチベーションを持てるところだと思います。イプシロンロケットで、簡単に打ち上げられるロケットのシステムを開発すれば、その技術はきっとH–IIAロケットでも使われるようになるだろうし、世界のロケットも手本にするはずです。ロケットの知能化というような、信じられないような世界を現実のものにするのが私たちの仕事であり、その仕事に私は誇りを持っています。また、誰もやったことがないことを実現し、世界一の技術を確立する、という大きなチャンスを得られるのも開発の魅力です。
イプシロンロケットは、2006年にM–Vロケットの開発が中止になったことで、固体燃料ロケットを一度卒業したところからスタートしています。当時は、「固体燃料ロケットでやるべきことは全部終わったんだから、もう開発する必要はない」というような言い方もされました。しかし、一旦、ゼロベースに立ち返って、固体燃料ロケットの意義を問い直したときに、まだその可能性がたくさんあることに気づきました。それから周囲への説得を始め、プロジェクトとして立ち上がってきたのです。
イプシロンロケットは、一度、原点に戻ってから出発したという意味では、諸先輩方が作ってくれたことを単に引き継ぐだけでなく、自分たちでそのステージを作り上げてきたという感じがします。ですから、「自分たちのロケット」という意識がとても強いですね。先輩たちの努力の集大成を活用しながら、自分たちのロケットを作ることができるなんて、これほど幸せなことはありません。

Q. 森田先生はM–Vロケットのプロジェクトマネージャもされていました。固体燃料ロケットの開発に携わるきっかけは何でしたか?また、幼い頃から宇宙やロケットに興味がありましたか?

M–3SIIロケット
M–3SIIロケット

固体燃料ロケットというよりも、日本が世界に誇れるロケットに興味がありました。私がロケット開発の仕事につくようになったのは、M–Vロケットの前身の固体燃料ロケット、M–3SII型ロケットに憧れを持っていたからです。このロケットは、1985年に日本で最初の惑星探査機、ハレー彗星探査機「さきがけ」と「すいせい」を打ち上げましたが、それを大学院生の学生のときに見たのです。それまでは、軌道制御が難しい固体燃料ロケットで惑星探査機を打ち上げた前例はありませんでしたので、その世界一の技術に強い憧れを持ちました。
また、私が幼少の頃はSFの全盛期で、「鉄腕アトム」のような知能を持ったロボットや、「サンダーバード」のようなボタン1つで簡単に飛んでいくようなロケットをテレビでよく見ていました。1週間で打ち上げられるロケットや、ロケットを知能化させることに全く違和感がなく、それが普通だと思えるのは、おそらく幼少の頃に見たSFが影響しているのだと思います。簡単に打ち上げるロケットは、SFの世界では当たり前のことでしたから、それがたぶんイプシロンロケットの原型になっているのかもしれません。

ロケットの世界に革命を起こしたい

Q. イプシロンロケットの先にあるものは何だと思われますか?

飛行中のイプシロンロケット(イメージ)
飛行中のイプシロンロケット(イメージ)

イプシロンロケットでは、大きなロケットの管制室をパソコン1台にすることを目指していますが、これは、ロケット打ち上げの仕組みを簡単にするという取り組みの第一歩です。開発の第一段階でそれを実現し、第二段階では、ロケット自身に「飛行安全」を判断させて、ロケットを追尾したり、ロケットに命令を送るためのレーダやアンテナをなくすことを考えています。地上にあるトラッキングレーダやアンテナは、ロケットが飛んでいく軌道を追尾し、万が一、ロケットに異常が見つかった場合、地上にいる人たちに危害が及ばないよう、自爆の信号をロケットに送るという役目があります。第三者が損害を被らないように安全にロケットを飛ばすということで、これを「飛行安全」と呼んでいます。そのための追尾アンテナは直径10mほどもあり、非常に高性能かつ高価で、維持管理にもお金がかかるのです。
そこで、ロケットの知能をさらに向上させて、飛行安全もロケットに任せようと考えています。ロケット自身が自らの軌道や状態を判断しながら飛び、異常だと思ったら自爆するというシステムです。そうすれば、高価な追尾レーダやアンテナは不要になり、地上設備もさらに簡易なものにできます。モバイル管制だけでなく、モバイルロケット追跡管制の実現も目指します。
そしてその先には、極端に言えば、毎週ロケットを打ち上げられるような仕組みを作りたいと思います。今週は火星探査機、来週は宇宙望遠鏡の打ち上げといった世界です。このように打ち上げの機会が多くなると、10年に1度しか打ち上げのチャンスが巡ってこない現在の状況から大きく変わります。打ち上げの費用を下げて、頻度を上げることで、新しいことに挑戦しやすい環境ができるのです。
また、民生部品をロケットに取り入れることも必要だと思います。ロケットの技術というのは、信頼性を高めるために、欠点が出尽くしたような枯れたシステムを使っています。例えば、昔のブラウン管テレビを構成していたような、信頼性の高い、旧式の部品の寄せ集めで作っているのです。軽くて安くて性能が良いというような民生技術があれば、これを積極的に使っていくことが、価格を下げることに結びつきます。ロケットの知能化を実現するだけでなく、このような面でも、ロケットの世界に革命を起こしたいと思います。

Q. 森田先生の目標および将来の夢は何でしょうか?

近い将来の目標は、ロケットの打ち上げを簡単にするというイプシロンロケットの壮大なビジョンです。数年前にはできるはずがないと思われていたことが、ようやく現実のものになりつつあります。これをしっかり実現させて、2013年度のイプシロンロケット初号機の打ち上げを成功させたいと思います。
遠い将来の目標は、先ほどお話したような、ロケットの打ち上げ頻度を多くするシステムを作ることです。例えば30年前の飛行機を考えたときに、これほど頻繁に飛ぶようになるとは誰も考えていなかったと思うんです。飛行機のように簡単に飛んでいけるロケットを作りたいというのが、私の夢です。

森田泰弘(もりた やすひろ)
JAXA宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 教授。工学博士
東京大学工学部航空学科卒業。同大学院工学系研究科博士課程(航空学専攻)修了。カナダ・ブリテッシュ・コロンビア大学機械工学科客員研究員を経て、1990年にシステム研究系助手として旧文部省宇宙科学研究所(現JAXA)に着任。同年、M–Vロケットの開発が始まる。M–Vロケットのシステム解析や姿勢制御系の研究開発をするほか、火星探査機などの展開構造物や、小型月探査モジュールの姿勢制御の解析にも携わる。2003年、M–Vロケットのプロジェクトマネージャ。2007年、固体ロケット研究チームリーダ、2010年にイプシロンロケットのプロジェクトマネージャに任命され、現在に至る。専門分野はロケットの姿勢制御、柔軟宇宙構造物の制御など。

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