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女の子が科学から遠ざからないために

Q. 小中学生の中でも特に女子生徒が科学への関心を失いがちだという傾向について、どうお考えですか?

科学フェスティバル(提供:Sally Ride Science)
科学フェスティバル(提供:Sally Ride Science)
科学フェスティバル(提供:Sally Ride Science)
科学フェスティバル(提供:Sally Ride Science)

実に興味深い現象ですよね。いまだにそういった傾向にあるのは確かです。ただ、時代とともに、少しずつ男女の差がなくなってきたように思います。
社会は人々に対して一定の期待を持っていて、「こうあるべきだ」と誰もがその時代特有の見方をしてしまうところがあります。そういう意味で、これまでアメリカの女子生徒たちが科学に関心を失いがちだったことの大きな要因は、女性が科学の分野に進むことを期待されていなかったことにあると思います。1960年代に大人になっていった少女たちは、小学校では理科が大好きだったかもしれません。しかし、中学校や高校になると、女性が科学者になることは社会から期待されていない、社会が期待していることとは違うんだということに気づいたはずです。周囲を見回してみても、女性科学者はあまり見あたりませんし、女性のエンジニアもほとんどいません。そうなるともう、ほとんど自然に違う分野へと進まざるをえないわけです。こうしたことが、当時の男女差に大きく影響していて、1970年代、80年代に科学の分野に進む若い女性たちが男性に比べてずっと少なかったのは、そういう理由からだと思います。
そして今、男女平等の社会となり、女性がどんな道へ進むにも全く障害がない時代になりました。女性の宇宙飛行士もいますし、女性のロケット科学者や環境工学者もいます。つまり、あらゆる分野で女性が活躍しているのです。しかしそれでも型にはまった古い考え方が根強く残っているのも事実です。古いタイプの教師たちの中には、いまだに科学者と言えばアインシュタインのような人物を思い浮かべ、現役の女性科学者や女性エンジニアがいることすらほとんど知らない人もいるのです。またテレビ番組などでも、科学者やエンジニアと言うと男性をイメージする場合が多いですよね。
そういった文化があるために、いまだに中学生くらいの年齢層では男子よりも女子生徒の科学離れが進んでいるのです。科学の世界をめざす女の子に対し、「女性が科学者になるのはちょっと普通じゃない」というような無言のメッセージを社会や同年齢の男の子たちが与えてしまっているのです。例えば、女の子が「エンジニアになりたい」と言ったら、周りのほかの子供たちから「ちょっとめずらしいな」と思われてしまうでしょう。11〜13歳という年齢層の女の子たちはとても敏感で、そういうことにすぐ気づきます。ですからある分野に進みたくても、「先生に変だと思われないだろうか」「友達から変わり者だと思われるんじゃないか」と感じたらどうなるでしょうか?この年齢層の女の子たちにとって周囲の目はとても重要で、「普通」に見えることがとても大切なことですから、科学から遠ざかっていってしまうのです。 Q. サリーライド・サイエンス社では、特に女の子たちへの科学教育に重点を置いていらっしゃるようですね。具体的にはどのようなことをなさっているのですか? まず、私たちのすべてのプログラムに共通していることは、女の子たちが科学を楽しいと思ったり科学に関心を持ったりすることは、とても普通のことなんだということをはっきり分かるようにしてあげることです。彼女たちのように、科学や工学に魅了されている女の子たちは何千人も、いくらでもいるんだということを教えてあげたいのです。
さらに私たちは、彼女たちが目で見て分かるように、お手本となるような人たちを紹介するようにしています。宇宙飛行士になった女性や、分子生物学や医療、環境科学といったあらゆる分野で活躍する女性たちを、写真や事例を通じてできるだけ多く紹介するのです。そうすれば、昔は自分たちと同じような少女だった人たちが、そのような科学技術関連の職業に就いているんだということを実際に自分で見て知ることができ、いわばそういう職業に「人間味」を感じてもらえます。そしてこれまでのところ、この取り組みはとても良い反響を得ています。私たちは、少女たちの志向に確実に大きな変化を起こしていると思います。

日常生活にあふれる科学を紹介

Q. 教員用の講座に参加した方の反応はいかがですか?

私たちは、教員たちに科学の教え方を伝えるだけでなく、教師たちが考える職業やライフスタイルのイメージを変えることも重要だと考えています。実際にトレーニングに参加した教員たちからの反響は大きく、トレーニングはとても貴重で有意義な体験であり、これまでの自分たちの授業方法や教える技術などを変えてくれたと言ってくれています。教員の中には、授業の進め方だけでなく教室の壁に貼る掲示物さえ変えたという人もいます。そして、職業についての教え方を見直したという教員もいました。教員向けのプログラムは、教員たち自身に大きな変化をもたらしていると思います。

Q. 日本でも、教員たちは子供たちにどうやって科学に興味を持ってもらうか模索しています。どうしたら子供たちに科学に興味を持ってもらえるか、何かアドバイスはありますか?

科学フェスティバル(提供:Sally Ride Science)
科学フェスティバル(提供:Sally Ride Science)

これまでの経験から分かったことは、第一に、科学が子供たちの生活とどのように関わっているかを教える必要があるという事です。子供たちが興味を持っている身近なことと科学を結びつけてあげるのです。子供たちは、科学はなんとなく抽象的なものだと感じてしまいがちです。つまり重要だというのは分かるけれど、子供たち自身や自分たちの日々の暮らしにとってはあまり重大ではないと思ってしまうのです。ですから子供たちが毎日目にするものや、確かに大事だなと納得できるようなものと科学の関係を分からせてあげること、そして子供たちの身のまわりの地域や国にとって大きな意味を持っているということを分からせてあげることがとても大事だと思います。
また先ほど申し上げたように、「科学」を子供たちにとって「人間味」があるものにすることも重要です。つまり子供たちが具体的に分かる人たち、興味を持てる人たち、そして「ああなりたいな」と思えるような人たちなど、そういった実際に活躍する人々を例として紹介してあげることが大切です。そうすれば、子供たちの科学に対する見方は本当に大きく違ってくると思います。

Q. そういう意味で、アメリカ人として初めて宇宙飛行をしたライド博士は、あなたご自身、子供たちにとっていいお手本になると思います。ご自身が宇宙飛行士だったことも、サリーライド・サイエンス社が成功しているひとつの要因だとお感じになりますか?

1983年6月、アメリカ人初の女性宇宙飛行士として、チャレンジャー号に搭乗(提供:NASA)
1983年6月、アメリカ人初の女性宇宙飛行士として、チャレンジャー号に搭乗(提供:NASA)

ええ、おそらくそうでしょう。成功の理由はいくつかありますが、私が宇宙飛行士だったこともそのひとつでしょう。つまり人々が私をすでに知っているということです。しかしそれだけでなく、宇宙飛行士になるくらいですから私には科学の知識があり、それも大きな利点でした。私の大学での専門は物理学でしたし、私は宇宙にとても興味を持っている少女でした。自分の意志で科学の道に進んだおかげで、私のように科学に興味を持つ女の子が実際にはたくさんいるということにも気がつきました。また、私の興味を惹きつけているものは何なのか、私を突き動かしているものは何か、私を魅了しているものは何かということも、自分で見極めることができました。このような私の経験は今の私の活動に役立っていると思います。例えば教員や学生に話をするとき、私は自分の体験や、何が私の関心を惹きつけていたかといったことを話します。先生たちがどんな風に力を貸してくれて、私が科学者への道を進んでいくことができたか、といったことを話すのです。
サリーライド・サイエンス社が成功している理由は、第一に、会社がやろうとしていることを私がよりよく理解しているということです。第二に、私に知名度があることでより多くの人々に信頼していただいていることだと思います。たくさんの方が私の経験談を聞きたいと思ってくれていますし、なぜ私が今このような活動をしているかということに関心を抱いてくれていますので、これはサリーライド・サイエンス社の活動にとても大きな利点だと思います。

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