「だいち」が撮影した東京都心部
日本の産業界との連携については、大きく2つの柱があります。1つ目は、JAXAは、宇宙開発によって多くの技術特許を持っています。これは、みなさんの税金によって生まれた国有資産とも言えるものです。この特許を日本企業のみなさんに積極的に活用していただきたいと思っています。例えば、浄水装置や全方位監視カメラ、家の外壁に使う断熱塗料、ダイオキシンを削減する焼却炉など私たちの身近なモノへ応用できる特許をたくさん持っています。宇宙に直接関係ない企業の方に是非、JAXAの所有する特許を見ていただき、新製品開発に役立てていただきたいと思います。特許以外にもJAXAでは、膨大な衛星画像を所有しており、地図や観光ガイドだけでなく、資源探査や農業、森林の分析、地域開発など、民間レベルで数多く使われています。
もう1つは、JAXAと共に培ってきた、世界トップレベルの宇宙技術、宇宙産業を海外へ売り込みたいということです。日本は、世界でも5本の指に入る宇宙技術を持っています。日本国内の経済状況を考えると、今後、日本企業はもっと積極的に海外へアプローチする必要があると思います。近年、原子力発電所や新幹線など、日本の優秀なインフラ技術を海外に売り込もうという動きがあります。宇宙産業も日本国内だけが相手では売り込み先に限りがありますので、新興国や発展途上国の衛星を日本企業が製造したり、「はやぶさ」で開発されたイオンエンジンなどを宇宙先進国へ売り込むなど、海外への市場の拡大が必要だと思います。
「はやぶさ」の地球帰還後には宇宙関連メーカーの貢献が大きく報じられていました。しかし現状は日本だけでは宇宙ビジネスの市場が小さいため、日本の開発製造メーカーが次々に撤退しており、将来、技術者が減り日本の開発技術が途絶えることを懸念しています。今後はヨーロッパなどの国外に市場を開拓することも考えられますが、日本の宇宙関連メーカーの技術や意欲を高い水準で維持するためにも、計画的、継続的に日本の宇宙開発を行う必要があると思います。
2008年には宇宙基本法が成立し宇宙庁の発足の可能性も取り沙汰されましたが、残念ながら具体的な動きはこれからだと思います。日本の宇宙への取り組みの地固めを、国民の皆さんの同意を得ながら熱い思いで進めていただきたいと願っています。JAXAもかつてないほど燃えていますので。