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地球を一番愛するスポーツへ

Q. 岡田さんは日本サッカー協会の環境問題担当理事に就任されたと伺っています。日本サッカー協会では環境問題についてどのような活動をされているのでしょうか?なぜ日本サッカー協会は環境問題を重視しているのでしょうか?

日本サッカー協会では環境プロジェクトを立ち上げ、「地球で一番愛されているスポーツから、地球を一番愛するスポーツへ」をスローガンに活動や情報発信をしています。サッカーをやること自体が、スポーツを通して「生きる力」を身につける、変化に適応するという意味での環境活動です。それに加え幅広いネットワークを活かした啓蒙活動を行い、環境負荷を減らすために貢献したいと思います。
サッカー協会は日本だけでなく世界にあります。国際サッカー連盟(FIFA)の加盟国は国連よりも多く、情報を発したら末端にまで届く組織なのです。ですから、日本発の環境活動がFIFAに伝わると、それが全世界に行き渡る可能性があります。啓蒙活動のツールとしても、サッカーはとても有効的だと思います。
具体的には「クリーンサポーター活動」といって、試合終了後にサポーターの皆さんにゴミの回収や分別に参加していただいたり、車ではなく公共交通機関を使ってスタジアムに来場していたくよう呼びかけています。そのほかにも、サッカーの指導者養成コースの中に環境の講座を入れたり、多岐に渡るエコマッチを開催することが考えられ、サッカーが環境問題に貢献できることは沢山あると思います。
皆、「なぜサッカー協会が環境活動をするの?」と聞きますが、私はもう「なぜ?」と言う時代ではないと思います。今はCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)ではなく、SR(Social Responsibility:社会的責任)の時代だと言われています。企業でなくても、誰もが社会貢献しなければならないということです。いくら会社が成功しても地球が壊れたら終わりですから、誰もが環境活動を行うのが当たり前、という社会になっていかなければならないと思います。サッカー協会の立場としては「なぜ?」と聞かれたら、先ほど申し上げたように、環境活動を広めるためにサッカーほど強力なツールはないと言います。しかし私の本心は、「なぜ?」と言うこと自体が間違っていて、地球市民の一員として当然のことだと思っています。 Q. 日々の生活に精一杯で、環境問題を後回しにしてしまう人も多いと思いますが、岡田さんが活動を続ける上で心がけていることはありますか? 大切なのは、無理をしないことです。特に、何かを我慢するという活動は歴史上続いたことがないんですよ。例えば私が車に乗っていると、「環境を大切にと言っておいて、車で移動しているのか?」と言われることがあります。しかし、私が電車で移動をすると、人に声をかけられることが多く、ほかの乗客の方に迷惑をかけてしまいます。ですから、車で移動することが多いです。それを批判されても「しょうがないんだ」と全然平気で言いますよ。そのようなことを言い出したら、人間がいなくなるのが環境に一番いいというような本末転倒な話になりますから、自分でできることをやっていくというスタンスでいます。家でも「電気のつけっぱなしは止めよう」と言って、気がついたら私がどんどん消していきます。できること、気づいたことを、無理せず続けることが大切だと思います。

プレッシャーは自分を育てる

Q. 宇宙ミッションを成功させるためには、プロジェクトのマネジメント能力が問われます。岡田さんは監督という立場でチームをまとめ、選手にいい仕事をさせるという点で、どのようなことにポイントを置いていましたか?

チームの皆は誰もがいい仕事をしたい、勝ちたいと思っています。ところが、周囲がああでもない、こうでもないといろいろ言うと、「チームのことより、とにかく自分のことを守ろう」という気持ちになってしまうんですね。皆の「勝ちたい」という気持ちをいかに出させてやるかが一番大事だと思いますが、バラバラに出させるのではなく、1つの方向に束ねて出させてやる必要があり、これがマネジメントだと思います。
また、適度な緊張感も、チームをまとめるうえで必要だと思います。私は選手を怒鳴ったり、マスコミの前で選手を批判するということは一切しません。逆に、選手を褒めます。ただし、「このおっさん、いざとなったら何をするか分からんぞ」「このおっさん、腹をくくっているな」ということを選手に感じさせるよう心がけていました。
例えば選手が何か意見をしてきたとき、もちろん聞きますし正しいと思ったら受け入れます。しかし、それが自分の考えと違うと思ったら、自分は監督として全責任を持って考えたうえでこうやっていると説明し、もしそれに従えないのなら、残念だけどチームから出て行ってくれと言います。怒りも何もしないけど、どうするか自分で決めろと選手に言うんです。その時に、選手の肩を抱いて「頼むからやってくれ」と私が言ったら、緊張感がなくなってしまうと思うんですね。
選手の、良くしたいという気持ちをいかに出させてやるかが、指導者としての役目ですが、自由にさせるのではなく、暴走しないように緊張感で引っ張ることが大切です。これは結構難しいことですが、ある意味で選手とは一線を引いて、緊張感を保つよう心がけていました。

Q. 監督には相当プレッシャーがかかると思いますが、プレッシャーに勝つために何かしていらっしゃいましたか?

プレッシャーは自分を大きくしてくれるものだと思っていますので、特に何もしていません。重力がないと筋肉も骨も駄目になりますが、プレッシャーは重力と同じようなものです。しかし、そう思えるようになるまでには時間がかかりましたね。
1998年のワールドカップ・フランス大会で初めて日本代表の監督を務めたときは、日本のサッカーの将来が自分の肩にかかっているというプレッシャーを感じ、もし試合に負けたら、日本に住めないかもしれないと家族に話したこともあります。しかし、ある時、自分が死ぬ気で頑張って全力を尽くしても駄目だったら、それは自分を監督に選んだ側に責任があるのではないかと思ったんです。力が足りない私を選んだ方が悪いと、完全に開き直ってしまったんですね。それからは恐いものがだいぶなくなりました。
周囲にいろいろ言われて苦しい思いをしたことはありますが、自分はそのお陰で鍛えられ、強くしてもらったと思います。今は、プレッシャーが来ても「自分を上に1つ上げるためのことかな」くらいに思っています。

選手の本能を動かす

Q. チームをまとめる上で、ご自分の意見や考えをきちんと皆に示していらっしゃったんですか?

自分の考えをはっきり示していました。監督がきちんとビジョンを示さないと、チームができないですからね。ただし、私のビジョンどおりにやっていれば良いというわけではないんです。たとえあるポジションにいるよう言われていたとしても、相手の選手の動きを見て状況判断をして動いていかないと、試合には勝てません。選手が自分の責任でリスクを背負って判断していけるようなチームを作るのが大切です。一般的に日本人は自己判断が苦手だと言われていますが、やれば出来ます。今回のワールドカップの日本代表チームにおいてはそれが出来ましたからね。 Q. 選手に考えさせると言っても、試合はものすごいスピードで展開していきますので、本能で動かすようにするのでしょうか? その通りです。私は選手に、頭で考えてやってはいけないと言います。本能で感覚的に動かなければならないのです。脳というのは新皮質と旧皮質があって、新皮質は論理的に物事を考えたり、計算をするところで、旧皮質は本能的なところです。例えばキャッチボールをするときに「ボールが来た」「肘を伸ばして指を開いて」「ボールがグローブに入ったら閉じて」というように考えながら出来ないですよね。また、サッカーでボールを持った瞬間に、「えっと、ドリブルとパスどっちかな」と考えてしまうと、それだけでプレーが止まってしまい試合の流れがスムーズにいかなくなってしまいます。新皮質で考えて動くのではなく、旧皮質で感覚的に動けるようにならないと駄目なんです。いかに、選手を本能で動かすかが、私にとっての大きな「鍵」でしたね。
その方法はワールドカップの最終予選のころから見えてきましたが、選手に細かく動きを指示するのは駄目です。例えば、私は試合の中盤で「シンプルにパスをしろ」と言います。でもドリブルをしてはいけないとは言いません。試合後に選手たちと見るビデオに、ある選手のいいドリブルのシーンを入れておいて、それを見たときに「お、これはいいドリブルだな」と一言だけ言うんです。すると、選手はイメージで入っていけるわけで、「こういう場合は、パスではなくドリブルでもいいのかな」と気づくんですね。これは一例ですが、選手を旧皮質で動かし、肌感覚で分からせることに重点を置きました。

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