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宇宙飛行は想像以上に素晴らしい

Q. 打ち上げの時や初めて「宇宙」を感じた時の気持ちをお聞かせください。

リチャード・ギャリオットが搭乗したソユーズロケットの打ち上げ(提供:NASA/Bill Ingalls)
リチャード・ギャリオットが搭乗したソユーズロケットの打ち上げ(提供:NASA/Bill Ingalls)
リチャード・ギャリオットが搭乗したソユーズ宇宙船(提供:NASA)
リチャード・ギャリオットが搭乗したソユーズ宇宙船(提供:NASA)

まず打ち上げについてですが、ロシアのソユーズ宇宙船に関して最も興味深いことの1つは、カウントダウンがないことです。アメリカでは、10、9、8、7、6、5とカウントダウンしますよね。それがロシアではカウントダウン無しで、代わりにチェックリストを確認していくだけなのです。バルブがきちんと開いているか、又は閉まっているか、ボタンはオンになっているか。そしてチェック項目の最後が「スタート」です。その「スタート」を確認する正にその瞬間にロケットが発射します。このように、カウントダウンの秒読みがない打ち上げは面白かったですね。
ロケットが発射台から離れる時は轟音や強い振動を伴うことはなく、船内はほぼ完璧と言っていいほど静かでした。上昇して行く時もソユーズ宇宙船が動いているのをほとんど感じません。信号が青になった途端にクラッチを切って急発進するスポーツカーというよりも、空へ向かってものすごい速さで舞い上がって行く、自信に満ちたバレエダンサーのような動きでした。
そして、打ち上げから約8分半後にエンジンが停止して切り離されます。それまでの間はとても快適なシートに背を押さえつけられていて、あっという間に時間が過ぎました。そして、今度は無重力となって自分の身体が浮くわけですが、これが何とも素晴らしい体験でした。私は父からアドバイスをもらっていましたが、幸い気持ち悪くはなりませんでした。その代わり、宇宙船内に浮かびながら自由に動き回ることができることに、大きな喜びと解放感を感じました。宇宙飛行は絶対面白いに違いないと思っていましたが、想像以上に素晴らしい経験がたくさんできましたね。

Q. 宇宙滞在中のことで最も印象深いことは何でしょうか?

一番印象に残っているのは、宇宙から地球を眺めたことです。地球を見ていると、気候や浸食、地殻変動などの地球の活動や自然の仕組みについて、少しずつ発見がありました。宇宙から地球を眺めた経験は、真に私の人生を変えてしまうほどの出来事でした。本当に素晴らしい眺めでした。
しかし、宇宙から地球を見ていて特に思ったことは、地上における人間の影響力です。地球のあらゆる場所に人間がいて、地球を占拠しているのが良く分かりました。沼の多いアマゾンの盆地や雪に覆われた高山地域、広大な砂漠にさえ縦横に道路が走り、ダムや井戸、農場などがあります。このような遠隔地や困難な土地にまで及んでいる開発の規模にショックを受けました。こうした光景を見て環境問題について深く考えさせられたのです。

被験者となった宇宙医学実験で成果をあげる

Q. ギャリオットさんは宇宙でどのような実験を行ったのでしょうか?

小型衛星SPHERESとリチャード・ギャリオット (右)(提供:NASA)小型衛星SPHERESとリチャード・ギャリオット (右)(提供:NASA)

私が携わった科学実験は30件ほどあります。約2週間という宇宙滞在期間で、他の宇宙飛行士と同じくらいの任務と科学実験を行い、目標を達成できたと思います。具体的にはタンパク質の結晶生成実験が私の主な任務でしたが、骨密度や宇宙酔いに関する実験などいろいろ行いました。それはNASAだけでなく、欧州宇宙機関やロシア連邦宇宙局、韓国航空宇宙研究院などの実験もありました。私がボランティアで参加した骨密度に関する医学実験の1つは、JAXAの実験でした。
中でも最も成果があげられたと自負しているのが、宇宙飛行士の目に関するものです。私は子どもの頃に視力が弱かったので、大人になってから視力回復のためのレーザー手術を受けました。実は、視力回復手術をして宇宙飛行をした人は私が初めてでした。そのためNASAは、私の目が無重力環境でどのように反応するのかとても興味を持ったのです。そのため飛行前に何ヵ月もかけてかなり詳細な目の医学的検査を受け、飛行中にも多くの視力検査を行い、帰ってからも経過観察のための検査が数多く行われました。そして私の検査データの結果から、レーザー視力回復手術を受けても、宇宙飛行による視力への影響はないという判断が下されたのです。その結果、現在レーザー視力回復手術は、宇宙環境における術後の視力の安全性や安定性が認められ、NASAをはじめ日本やロシアなどのISSに参加している宇宙飛行士にも認可されることになりました。
自分の目を使って、レーザー視力回復手術の安全性を初めて実証できたことは嬉しかったですね。視力回復手術を受けても大丈夫だろうと理論的には言われていましたが、実際にどうなるかは誰にも分かりませんでした。そのため、世界各国の宇宙機関は慎重な態度を取っていて、レーザーによる視力回復手術を受けたことがある人を宇宙に送るリスクを避けていたのです。ですから、私のような民間の宇宙飛行士によって理論が正しかったことを証明できたのは嬉しいですね。

Q. 子どもの頃からこのような科学実験には興味をお持ちだったんですか?

南極大陸で隕石探査を行うリチャード・ギャリオット(提供:Richard Garriott)南極大陸で隕石探査を行うリチャード・ギャリオット(提供:Richard Garriott)

そうですね。実は、家族で珍しい場所へ旅行に出かけた時には必ず科学実験を行うというのが、家族の習わしの1つだったんです。例えば、父と一緒に南極や深海熱水噴出孔に行くと、そのような条件下に生息する極限環境微生物を科学サンプルとして採取し、そのサンプルを大学の研究者や民間の研究所へ提供していました。
このような活動によって新種の細菌を発見したこともありますし、新種のタンパク質もよく見つかっています。これらの発見を研究所や医療分野に売り込むための小さな会社もいくつか作りました。私たちの周りの珍しい環境を利用して面白い実験を行ったり、何か提供できる価値を見つけ出すという習慣は両親から影響を受けていて、これまでの私の人生では一貫して行っていることです。

「きぼう」日本実験棟の窓から見た地球に感動

Q. 国際宇宙ステーションについての印象をお聞かせください。「きぼう」日本実験棟はいかがでしたか?

「きぼう」日本実験棟の窓(提供:NASA)
「きぼう」日本実験棟の窓(提供:NASA)

私は「きぼう」日本実験棟が国際宇宙ステーション(ISS)に取り付けられた後に宇宙へ行くことができて、本当に運が良かったと思います。私が飛行した当時、「きぼう」日本実験棟は最も新しい施設だったのです。また、建設開始から10年が経ったISSの全貌を見ることができたことは素晴らしい経験でした。この10年でいかに技術が進歩したかをこの目で見られるのは、とても興味深かったですね。例えば古いモジュールは新しいモジュールよりも小さくて暗く、ファンや他の装置の騒音もすごく大きいです。一方、「きぼう」日本実験棟やヨーロッパの実験棟「コロンバス」は飛び抜けて良くできていて、静かで騒音もなく、照明も明るかったのが印象的でした。モジュール内の空気循環システムの音さえ聞こえないくらいなので、心地よく過ごせました。
しかし何と言っても「きぼう」日本実験棟の素晴らしい点は、2つの窓です。私たちの住む地球に感動したりインスピレーションを受けたい時には、ISSの中で最も居心地の良い場所でした。

Q. ギャリオットさんはゲームの開発者としても活躍されています。何かを創造するという点で、宇宙環境はいかがでしたか? 近年、文化人を宇宙飛行させてみようという意見が出ていますが、それについてどう思いますか?

宇宙で芸術作品づくりに挑むリチャード・ギャリオット(提供:NASA/Richard Garriott)
宇宙で芸術作品づくりに挑むリチャード・ギャリオット(提供:NASA/Richard Garriott)

宇宙を体験することは、これまでと違った新しいアイディアが生まれるきっかけになると思います。より多くのクリエイティブな人間が宇宙へ行けるようになることは、とても重要なことだと思います。私自身、飛行後に、何百、何千人というアーティストや詩人を宇宙へ送り出すことはとても大切だと強く感じました。彼らが宇宙で感じたことをもとに何かを創作すれば、その作品はきっと地球に住む人たちに影響を与え、人間の感性をより豊かにしてくれると信じています。
アポロ12号の宇宙飛行士として月面を歩いた経験があり、私の父の同僚としてアメリカ初の宇宙ステーション「スカイラブ」にも滞在したことがあるアラン・ビーンさんが、私の宇宙飛行の計画を聞いて、とても心のこもった手紙を書いてくれました。
「リチャードはずっと宇宙へ行きたがっていましたね。それをついに君が実現させたことを心から嬉しく思います。そして、君のようなクリエイティブな人が宇宙へ行くチャンスを得られたことをとても喜んでいます」と。そして、テストパイロットや科学者という理由で宇宙飛行士に選ばれるのとは異なり、私のような民間の人たちが宇宙へ行けるようになったことは、とても意義のあることだとも書いてありました。その理由は、私のような民間人の場合、宇宙で体験したことを、プロの宇宙飛行士たちができなかった方法で、地球の人たちと分かち合えるからだそうです。私もこの意見には賛成です。

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