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JAXAの宇宙教育活動〜心の教育を子どもたちへ〜 「宇宙の学校」で子どもたちに明るい未来を KU-MA(NPO法人 子ども・宇宙・未来の会)理事 遠藤純夫

宇宙で感じる命のつながり

Q. 先生が理事を勤めるKU-MAとはどのような組織でしょうか?

親子学習に重点をおく「宇宙の学校」
親子学習に重点をおく「宇宙の学校」


国分寺市「宇宙の学校」開会式(2009年5月)
国分寺市「宇宙の学校」開会式(2009年5月)

KU-MAは「子ども・宇宙・未来の会(Kodomo Uchu Mirai Association)」の略称で、宇宙の魅力を通して、子どもたちの明るい未来を築きたい、豊かな心をもった子どもたちを育てたいと思う人たちの集まりです。KU-MAの会員は現在320名ほどいます。私たちは、JAXAと連携して「宇宙の学校」を全国で展開しています。「宇宙の学校」というのは、親子で行う家庭学習に重点をおいた教育プログラムです。

Q. 先生が考える宇宙の魅力とは何でしょうか?

宇宙の魅力は、私たちに「生命」と「夢」を感じさせてくれることです。宇宙は137億年前の大爆発に始まり、46億年前に地球が生まれて、そこから生命が誕生し、現在の私たちの生命につながっています。
私たちにつながる生命のリレーは地球の誕生の遙か遠くまで続いていること、地球という星の今に生きている奇跡、すべての生き物と共に地球の今を築いていることなどを「宇宙」は教えてくれます。このことは、命の尊さを感じさせ、子どもたちに、なぜ命が大切かということを伝えることができる宇宙教育の柱の一つです。
また宇宙には、まだ分かっていない不思議なことがたくさんあります。不思議には魅力がたくさん内在しています。不思議は子どもたちの胸の中にずっと残り、これからの人生の中で経験する何かと関連して蘇り、新しい発見へとつながっていくでしょう。
宇宙にはいろいろな可能性があり、私たちの心をわくわくさせる素材がいっぱいあります。宇宙を探求することは、人間が本来もって生まれた知的好奇心を揺り動かし、冒険心を駆り立てます。このようなことから、私は、宇宙が子どもたちの夢をはぐくむものであると信じています。

充実した教材で、親子の絆を強くする

Q. 「宇宙の学校」では、具体的にはどのようなプログラムを行っていますか?

高く飛んだ熱気球
高く飛んだ熱気球

「宇宙の学校」には、学校で理科の授業を受ける前の、主に5歳から小学校2年生くらいまでの子どもを対象にした1年間の家庭学習のプログラムがあります。現在「宇宙の学校」は、地域の教育委員会、ロータリークラブなどと連携をして、北海道から沖縄まで全国で約20校あり、各地域で参加者を公募しています。また「宇宙の学校」には、必ず親子で参加していただいています。
開校式となる1回目のスクーリング(授業)で教材を渡し、2〜3ヵ月間に1度、交流の場としてスクーリングを行います。次のスクーリングが開催されるまでの間は、最初に渡した教材を使って家庭で学習してもらいます。どの教材を使うか、いくつやるかはそれぞれ自由ですが、必ず親子で行うよう指導しています。スクーリングは年に5回ほど行われ、家庭ではできないようなことを取り上げるようにしています。例えば、家庭にあるドライヤーを使って小さい袋を浮かせるという教材がありますが、スクーリングでは、30〜40m上空にまで上がる大きい熱気球をみんなで作るといった具合です。
「宇宙の学校」では、さまざまな子どもの要求に応じることができるよう、たくさんの教材を提供しています。ここでいう教材とは、家庭にある身近なもので行う実験や観察を紹介したパンフレットのことです。この教材は、子どもが興味をもてるように、子どもの目線に立って作るようにしています。教材の題名についても、例えば、「吸収反応」というテーマの実験をする場合、「ラムネ菓子を食べると、口の中が涼しくなるのはどうして?」というように、子どもが分かりやすいテーマにします。実験を通して、子どもにとって新しい発見をしてもらえるよう、また、保護者の出番をつくる上からも、詳しい解説をわざと書かないこともあります。
今年は新しく14の教材を作る予定なので、教材の数は全部で60以上になります。これは、1週間に1つ教材を使ったとしても、1年間でまだ終わらないくらいの量なので、とても充実していると思います。

Q. 教材のほかに、「宇宙の学校」で特に心がけていることはありますか?

親子で風車をつくる
親子で風車をつくる

親と子どもをできるだけ結びつけるよう心がけています。そのため、教材には、親の手を借りないと完成しない“仕かけ”のようなものを入れたり、年に数回開催されるスクーリングでは、指導者だけが教えるという指導形態はとっていません。まず親に向けて説明をして、あとは、お父さんやお母さんに聞くよう子どもたちには言います。ときには苦手な方もいらっしゃるので、うまく理解できないことがあります。その場合、見ていると、周りの親同士で教え合ったり、隣の児童のめんどうも見るという場面が多くあります。
会場のスペースは限られていますので、できるだけ多くの方に参加いただけるよう、また、周囲の方と交流しやすくするため、スクーリングでは机を使わないことが多いです。体育館に養生シートを敷いて、その上に親子が集まり一緒に何かを作っているという光景が一般的です。スクーリングに参加した保護者によると、最近は子どもと一緒に何かを作るという機会がほとんどないようで、中には、このような体験は初めてという方も多くいらっしゃいます。そういう意味では、親と協力して物を作るというのは、親子の絆を深め、子どもがお父さんやお母さんを見直すよいチャンスになっていると思います。
また、私が教育の適時性についてよく挙げる、「啐啄の機(そったくのき)」という言葉があります。これは、卵の中のヒナ鳥が内側から殻を突き破ろうとする時に、親鳥が外側から殻をつついてヒナ鳥が卵から出るのを助けます。この絶好のタイミングのことを指しています。これと同じように、子どもが「何かを知りたい」「やってみたい」と思ったその「時」に手をさしのべてあげることが、とても重要だと思います。そして、それができるのは、子どものそばにいる親しかいません。いつ何を教えるかというカリキュラムが決められている学校教育では、1人1人の背丈に合った学習というのは難しく、柔軟に対応できるのは、近くにいる親だと思います。
子どもの一番近くにいる親が、子どもと触れ合いながら行う教育、それが家庭学習であり、それを支えるのが「宇宙の学校」の目的でもあります。

  
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