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「はやぶさ」の後継機にかける熱い思い 「はやぶさ2」プロジェクト準備チーム リーダー 吉川真

サンプルリターンに再挑戦

Q. 「はやぶさ」の後継機にはどのような探査機が計画されていますか?その計画はどこまで進んでいますか?

小惑星探査機「はやぶさ2」(提供:池下章裕)小惑星探査機「はやぶさ2」(提供:池下章裕)

仮称ですが「はやぶさ2」という後継機の打ち上げを検討しています。「はやぶさ2」は、「はやぶさ」と同じく、小惑星に行ってサンプルを採って帰ってくる、サンプルリターンミッションです。小惑星は太陽光の反射スペクトルの形によって分類されますが、「はやぶさ」がS型小惑星のイトカワを探査したのに対し、今度はC型小惑星の1999JU3に向かいます。「はやぶさ2」の規模は、基本的に「はやぶさ」とほぼ同じですが、「はやぶさ」での経験をもとに改良を加え、より確実なミッションができる探査機にします。
「はやぶさ」は2005年にイトカワに到着したものの、サンプル採取は不調に終わってしまいました。地上に落下した隕石をもとに小惑星の組成物質を推測することはできますが、やはり、実際に行ってサンプルを持ち帰って初めて確認できます。サンプルリターンを実現させることは私たちの大きな目標です。そこで、ぜひもう一度挑戦したいと思い、2006年には後継機の検討をし、提案もしました。
「はやぶさ2」は、2007年6月にはプロジェクト準備チームを発足し、準備を進めてきました。そして、2010年6月の「はやぶさ」の帰還をきっかけに、世論の後押しも得て、2010年8月に宇宙開発委員会が「はやぶさ2」の開発を了承しました。国の予算がつくかどうかは今後の審議によりますが、今年中に決まってほしいと願っています。

小惑星から私たちの起源を探る

Q. なぜ小惑星1999JU3が選ばれたのでしょうか?

赤外線天文衛星「あかり」がとらえた1999JU3(画面中央の黄色の丸枠内)赤外線天文衛星「あかり」がとらえた1999JU3(画面中央の黄色の丸枠内)

1999JU3は、C型の小惑星だからです。小惑星はスペクトルの特徴によっていくつかの型に分類されると言いましたが、最も多いのがC型とS型です。C型は炭素系の物質を主成分とするもので、小惑星全体の約75%を占めるといわれています。一方、S型はケイ素を主成分としていて、全体の2割くらいを占めるといわれ、「はやぶさ」が行ったイトカワはこのS型です。この2つの型をきちんと押さえておかないと、小惑星全体のことを理解できないのです。
また、S型の小惑星は火星と木星の間の小惑星帯の内側に多く、地球に近づくものもいくつかあるのに対して、C型は小惑星帯の外側にあり、地球に接近するような軌道を持つ小惑星はあまりありません。ところが、1999JU3は、例外的に地球の軌道に接近するのです。その軌道は、「はやぶさ2」のような小さな探査機でも往復できるものですので、この小惑星が選ばれました。
もともと工学試験が目的の「はやぶさ」は、技術を確立するのが第一の目的でした。しかし「はやぶさ2」では、技術だけでなく科学面にも重点を置いています。そのため、どの小惑星に行くかがとても重要です。前回はS型の小惑星に行ったので、次はC型に行って、異なる種類の小惑星を探査することにしました。これまで、地上から1999JU3の観測をして準備を進めてきましたが、早く、この小惑星を間近から見てみたいです。

Q. 小惑星を調べることで、どのようなことが分かるのでしょうか?

太陽系は約46億年前に誕生しました。宇宙空間にあった星間ガスがだんだん収縮して、真ん中に太陽ができ、その周りにガスの円盤ができ、その中にある小さなチリが集まって惑星が生まれたというシナリオです。小惑星を調べれば、地球を形作ることになったそのチリが、どういうものであったかが分かります。
地球は一度ドロドロに溶けたので、過去の情報は消えてしまいましたが、小惑星には今もまだ太陽系が誕生した頃の物質が残っていると言われています。特に、「はやぶさ2」で行くC型小惑星の表面には有機物がたくさんあります。そして、「含水鉱物」という、水を含んだ岩石があると言われています。われわれの地球を作った「鉱物」、海となった「水」、生命となった「有機物」の元となった物質を調べることで、太陽系や地球の誕生、生命の起源に迫ることができるのです。

クレーターを作る新しいチャレンジ

Q. 「はやぶさ」で確立したどのような技術を「はやぶさ2」に引き継いでいくのでしょうか?また、主な改良点は何でしょうか?

小惑星探査機「はやぶさ2」とミネルバ(提供:池下章裕)小惑星探査機「はやぶさ2」とミネルバ(提供:池下章裕)

「はやぶさ」はもともと工学試験のための探査機で、とてもチャレンジングなミッションでした。成功したものと、失敗したものがありますが、基本的には「はやぶさ」で試みたさまざまな技術を「はやぶさ2」に引き継ぎます。
まずは、イオンエンジンです。「はやぶさ」のイオンエンジンは長期間使っているうちに劣化のため調子がわるくなってしまったものの、世界初の惑星間往復飛行を成功させました。イオンエンジンの長寿命化を図って、電気推進の技術をより向上させたいと思います。
次に、小惑星の表面に着陸して、サンプルを採取して上昇するタッチダウンのときの航法誘導技術です。「はやぶさ」で燃料漏れが起きたのは、タッチダウンがうまくいかなかったことに起因していると考えられますので、今度は不時着を絶対に避けなければなりません。そのために、小惑星近傍での運用方法や航法誘導のやり方を工夫します。
そして、「ミネルバ」の再挑戦です。「ミネルバ」は、日本で初めての惑星探査ローバーですが、残念ながら、「はやぶさ」の際はイトカワへの着地に失敗してしまいました。今度こそ成功させたいと思います。
そのほか、姿勢制御やアンテナ、サンプル採取方法などにも改良を加える予定ですが、ほとんどの機能は「はやぶさ」と基本的に同じです。「はやぶさ」で獲得した技術を成熟したものに仕上げ、惑星間往復ミッションを確実に行うことが、「はやぶさ2」の目標です。

Q. 「はやぶさ」には見られない、「はやぶさ2」の新しいチャレンジは何でしょうか?

惑星探査機「はやぶさ2」

小惑星探査機「はやぶさ2」

小惑星の表面に、人工的なクレーターをつくることです。「はやぶさ2」の本体に、小型の衝突装置を搭載して、それを、小惑星表面から数百mほど離れた上空で切り離し、ゆっくりと降下させます。その間に、探査機本体は衝突装置からは見えない小惑星の陰へ移動します。衝突装置の中には爆薬が入っていて、小惑星に衝突した時に爆発しますので、本体はその爆発の際に飛び散る破片から逃れるのです。衝突装置の爆発により、小惑星表面には直径数m、深さ50cm〜1m程度の人工的なクレーターができます。クレーターを作れば、地下の物質が表面に出てきますので、地表面だけでなく、地下の物質も調べられるというわけです。小惑星の地下は宇宙放射線の影響が少なくなるので、過去の状態をそのまま保っている可能性も高いのです。タッチダウンは、表面と地下物質について2回は行い、その両方のサンプルを採取したいと思っています。ただし、地下物質については、どのような人工クレーターができるのかやってみないと分からないという側面もあるので、可能ならば採取を行うという立場です。無理はしないことにしています。

  
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