小惑星探査機「はやぶさ2」(提供:池下章裕)
「はやぶさ」では本当にいろいろな経験をしましたが、特に、運用が大変でした。「はやぶさ」のイオンエンジンの運用は、毎日のように通信をして、「はやぶさ」の位置や速度を確認しながら、翌日、翌週の運用を決めていくという方法だったため、イオンエンジンを噴いている期間は全く休む時間がなかったと言ってもいいくらいです。常に軌道制御をしているような状態でしたね。ですから「はやぶさ2」では、イオンエンジンが改良されて自動運転になれば、常に人が介入しなくてもよくなります。運用者の負担をなるべく少なくなるよう工夫したいと思います。
また、「はやぶさ」はトラブルが原因で帰還が3年延びて7年間の旅になってしまいましたが、もともとは4年間のミッションでした。その予定では、軌道の問題で、イトカワでの滞在期間が3ヵ月しかとれませんでした。3ヵ月ですべてをやって、地球へ戻らなければならないという条件だったのです。初めて行く場所で、天体の調査、着陸場所の選定からサンプル採取までを全て3ヵ月でやらなければならず、とても忙しかったです。時間的な余裕がなかったことが、ある意味、いくつかの失敗や不具合の原因になっているようにも思います。そのため「はやぶさ2」では、小惑星に到着してから1年半くらいは滞在できる軌道にしてあります。今度は、じっくりと小惑星を観測することができますし、着陸する際も、燃料が許す限り何回かリハーサルをして万全を期すことが可能だと思います。
小惑星探査機「はやぶさMk2」(提供:池下章裕)
「はやぶさMk2(マークツー)」というサンプルリターンミッションを検討しています。これは、「はやぶさ」をフルモデルチェンジしたもので、「はやぶさ」の2倍から3倍の大きさの探査機を考えています。地球からより遠くの小天体に行くことを考えていますので、探査機を大型化する必要があるのです。「はやぶさMk2」がめざす候補は、D型の小惑星か、ガスを噴出しなくなった彗星を考えています。このような遠くの天体からは隕石がほとんど来ていないため、どのような物質でできているか分かっていません。「はやぶさMk2」は、未知の物質を地球に持ち帰り、太陽系初期の謎に迫ります。 Q. 先生の今の目標は何でしょうか? 私の今の目標は、「はやぶさ2」を実現することです。予算がついてプロジェクトがスタートすれば、なるべく多くの若手にも参加してもらい、将来のミッションにつなげていきたいと思います。次の「はやぶさMk2」へと進むためにも、まずは「はやぶさ2」を成功させなければならないと思っています。
JAXA宇宙科学研究所 宇宙情報・エネルギー工学研究系 准教授。理学博士
月・惑星探査プログラムグループ システムズエンジニアリング室 「はやぶさ2」プロジェクト準備チーム リーダー
東京大学理学部天文学科、同大学院卒業。日本学術振興会の特別研究員を経て、1991年から郵政省通信総合研究所に勤務。1998年に旧文部省宇宙科学研究所(現JAXA)に着任。小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトサイエンティストを務める。専門は天体力学。小惑星や彗星といった太陽系小天体の軌道解析の研究を行う。人工衛星や惑星探査機などの軌道決定に関する研究を進めるほか、天体の地球衝突問題(スペースガード)にも取り組む。