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予想外のイトカワの姿に驚愕

Q. 「はやぶさ」のミッションを振り返って、特に印象に残っていることは何ですか?

小惑星イトカワ
小惑星イトカワ
小惑星イトカワ小惑星イトカワ

一番強く印象に残っているのは、「はやぶさ」が小惑星イトカワに到着して、写真を送ってきたときです。想像していたのと全く違って、イトカワの表面は大きな岩がゴロゴロしていて、デコボコだらけだったのです。その写真を見たときは、ものすごく驚きました。それまでアメリカの探査機が見た小惑星には必ずクレーターがあり、小惑星の姿はそういうものだと思っていたのです。ところが、実際にイトカワに行って見たら全然違って、クレーターがほとんど見えませんでした。また、アメリカが探査してきた小惑星はどれも大きさが数十km以上だったのに対して、イトカワはその差し渡しがわずか535mほどです。このような小さい小惑星だから、今まで見たものと違っていたのかもしれませんが、とにかく衝撃的でした。
また、予想外のイトカワの姿に驚くとともに、直感的に、「着陸する場所がない。どうするんだ?」と思いました。クレーターで覆われた小惑星を想定していましたので、どこかに着陸できるだろうと漠然と思っていましたが、表面がデコボコでは着陸させることができません。着陸の際に太陽電池パドルが岩にぶつかって壊れたら大変なので、平らな場所を探さなければなりませんでした。幸いにも滑らかな場所を見つけることができましたが、やはり、実際に行ってみないと、どんな天体が分からないものだなあと思いました。 Q. 「はやぶさ」によって得た、科学的な新しい知見は何でしょうか? まずは、小惑星イトカワが「がれきの寄せ集め」であることが推定できたことです。イトカワの表面の物質をスペクトルで分析したところ、地球に落ちてきている「普通コンドライト」と呼ばれる隕石と非常によく似ていることが分かりました。その隕石の密度をもとに、イトカワの質量を計算したところ、実際に「はやぶさ」が測定した質量の方がはるかに小さいのです。このことから、イトカワの内部に40%くらいのすき間があるという結果になりました。イトカワは一枚岩ではなく、母天体が衝突して破壊したときに生じた多くのがれきが、寄せ集まってできた天体だと考えられます。
また、イトカワの表面には、「レゴリス」と呼ばれる細かい砂や砂利がほとんど見られず、岩や石が露出しています。これまで見てきた小惑星はどれもレゴリスに覆われていましたので、これも大きな発見でした。イトカワは、何も覆っていない、いわば裸の状態の小惑星なのです。イトカワのような小さい天体が寄せ集められて、大きな天体に成長していったのだと思いますので、太陽系形成の初期の天体を見たということにもなると思います。

人々に感動をもたらす「はやぶさ」の挑む姿

Q. 「はやぶさ」での経験を、「はやぶさ2」にどう活かしていきたいですか?

小惑星探査機「はやぶさ2」(提供:池下章裕)小惑星探査機「はやぶさ2」(提供:池下章裕)

「はやぶさ」では本当にいろいろな経験をしましたが、特に、運用が大変でした。「はやぶさ」のイオンエンジンの運用は、毎日のように通信をして、「はやぶさ」の位置や速度を確認しながら、翌日、翌週の運用を決めていくという方法だったため、イオンエンジンを噴いている期間は全く休む時間がなかったと言ってもいいくらいです。常に軌道制御をしているような状態でしたね。ですから「はやぶさ2」では、イオンエンジンが改良されて自動運転になれば、常に人が介入しなくてもよくなります。運用者の負担をなるべく少なくなるよう工夫したいと思います。
また、「はやぶさ」はトラブルが原因で帰還が3年延びて7年間の旅になってしまいましたが、もともとは4年間のミッションでした。その予定では、軌道の問題で、イトカワでの滞在期間が3ヵ月しかとれませんでした。3ヵ月ですべてをやって、地球へ戻らなければならないという条件だったのです。初めて行く場所で、天体の調査、着陸場所の選定からサンプル採取までを全て3ヵ月でやらなければならず、とても忙しかったです。時間的な余裕がなかったことが、ある意味、いくつかの失敗や不具合の原因になっているようにも思います。そのため「はやぶさ2」では、小惑星に到着してから1年半くらいは滞在できる軌道にしてあります。今度は、じっくりと小惑星を観測することができますし、着陸する際も、燃料が許す限り何回かリハーサルをして万全を期すことが可能だと思います。

Q. 「はやぶさ」後継機への期待が高まっています。世間のこのような気運をどう感じていらっしゃいますか?また、「はやぶさ」の人気をどう活用していきたいと思われますか?

小惑星イトカワの模型を手にする吉川准教授小惑星イトカワの模型を手にする吉川准教授

そもそも「はやぶさ」は、2003年の打ち上げ当時は、一般の方にはほとんど知られていませんでした。2005年にイトカワに着陸した頃はそれなりに話題になりましたが、知名度はそれほど高くなく、一部のファンの方が気にしてくださった程度です。やはり、「はやぶさ」がこれほど多くの国民の方に注目されるようになったのは、地球に帰還してからです。正直に言って、帰還前には、これほど注目してもらえるとは思っていませんでしたが、皆さんに応援していただけるのは大変うれしいです。
なぜ「はやぶさ」の人気が出たかというと、やはり、チャレンジングな冒険的なミッションだったからだと思います。惑星に行って着陸してまた地球に戻ってくるという、世界で初めての新しいことに挑戦したことが、「はやぶさ」を魅力的にしているのだと思います。「はやぶさ2」も、いろいろな新しい試みにチャレンジしますので、一般の方にも興味を持ってもらえるような広報活動をしていきたいと思います。また、「はやぶさ2」を通して、宇宙や科学技術に関心を持ってもらえるよう、教育や文化的な活動も積極的に行っていきたいと思っています。

将来につながるミッションを

Q. 「はやぶさ2」の先のミッションも考えていらっしゃるのでしょうか?

小惑星探査機「はやぶさMk2」(提供:池下章裕)小惑星探査機「はやぶさMk2」(提供:池下章裕)

「はやぶさMk2(マークツー)」というサンプルリターンミッションを検討しています。これは、「はやぶさ」をフルモデルチェンジしたもので、「はやぶさ」の2倍から3倍の大きさの探査機を考えています。地球からより遠くの小天体に行くことを考えていますので、探査機を大型化する必要があるのです。「はやぶさMk2」がめざす候補は、D型の小惑星か、ガスを噴出しなくなった彗星を考えています。このような遠くの天体からは隕石がほとんど来ていないため、どのような物質でできているか分かっていません。「はやぶさMk2」は、未知の物質を地球に持ち帰り、太陽系初期の謎に迫ります。 Q. 先生の今の目標は何でしょうか? 私の今の目標は、「はやぶさ2」を実現することです。予算がついてプロジェクトがスタートすれば、なるべく多くの若手にも参加してもらい、将来のミッションにつなげていきたいと思います。次の「はやぶさMk2」へと進むためにも、まずは「はやぶさ2」を成功させなければならないと思っています。

吉川真(よしかわまこと)

JAXA宇宙科学研究所 宇宙情報・エネルギー工学研究系 准教授。理学博士
月・惑星探査プログラムグループ システムズエンジニアリング室 「はやぶさ2」プロジェクト準備チーム リーダー
東京大学理学部天文学科、同大学院卒業。日本学術振興会の特別研究員を経て、1991年から郵政省通信総合研究所に勤務。1998年に旧文部省宇宙科学研究所(現JAXA)に着任。小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトサイエンティストを務める。専門は天体力学。小惑星や彗星といった太陽系小天体の軌道解析の研究を行う。人工衛星や惑星探査機などの軌道決定に関する研究を進めるほか、天体の地球衝突問題(スペースガード)にも取り組む。

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