
インドでは、宇宙開発計画をスタートさせた当初から災害対策を重要な分野と位置付けてきました。初期の頃から静止衛星を使って、雲の様子や動きなどを観測してきました。経験を積み重ねることによって、各地を襲う暴風雨や大雨などを事前に予測することも出来るようになったのです。そして、衛星による情報をもとに、災害が予想される地域の住民に警報を出すことも出来るようになりました。おかげで災害が起きる前に迅速な避難が可能となったのです。さらに私たちは複数の衛星の観測機器も利用して、洪水が発生しやすい地域のデータベースも構築しました。実際に洪水が起きた場合、どの地域が浸水していて、どこに救援活動が必要かを見極めることが出来るようになりました。このように私たちは、リモートセンシング(遠隔観測)に役立つ低軌道衛星や静止衛星を活用して、災害警報の発信や災害対策に役立てています。
現在、インドでは7機の地球観測衛星を運用しています。中でも災害対策において、資源探査衛星(RESOURCESAT)と地図作成衛星(CARTOSAT)がとてもユニークな存在だと自負しています。資源探査衛星からは、マルチスペクトルカメラによる画像が得られます。この衛星のカメラは最高600キロもの範囲をカバーすることができます。ですからこの衛星は、災害発生時の被災地の観測にとても役に立ちます。一方、地図作成衛星からは高解像度の光学カメラによる画像が得られます。このように複数の衛星を活用することで、災害対策に貢献できることは間違いありません。さらに私たちは、まもなくレーダー衛星を打ち上げます。そうすれば雲が掛かっていても観測が可能になり、災害が発生しやすい地域を日夜監視することが出来ます。
このようにインドではとても内容の濃い宇宙開発計画を進めています。地球観測衛星や通信衛星を社会的なニーズに合わせてさまざまな目的に利用し、我が国は活気に満ちた宇宙開発計画を確立しようと努力しているのです。一方で、近隣諸国には衛星などの宇宙技術を持っていない国々もたくさんあります。ですからJAXAが「センチネル・アジア」を提案した時に、私たちはとても有意義なことだと思い、日本と協力して共通のデータベースを開発し、ほかのアジアの国々が被災したときに役立つような情報を蓄積すべきだと考えたのです。これはインドにとって国際貢献する絶好の機会ですし、この計画に参加することで国際協力のいい事例となることを願っています。
「センチネル・アジア」でインドは、衛星データの提供だけでなく、データベースの構築も行なう予定です。さらに衛星による単なる観測画像でなく、森林や農地、市街地など、その地域の種別や道路、インフラなど、付加情報も併せてデータベース化することで、例えば被災地での医療対策などに役立つはずです。アジア全域をカバーする巨大なデータベースを構築し、防災の面から実際に災害が発生した時の警報発信などに役立てたいと思います。さらに通信もとても重要な役割を果たします。ある地域をカバーする通信衛星があれば、携帯端末による通信が可能です。これもわが国の次の貢献の目標となりえます。さらにアジア地域の人材の育成も重要です。すでにインド北部のデラドゥン(Dehradun)には、アジア地域の人々を対象とした国連の学校があります。この学校は宇宙技術を使った災害対策に従事する人々のトレーニングに大きな役割を果たすことが出来るでしょう。このようにさまざまな面で貢献していきたいと思います。