ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。



「災害」を新たな宇宙活動の柱に  宇宙航空研究開発機構(JAXA) 理事長  立川敬二
これまで宇宙活動をやってきてデッドロックになっていたのは、通信・放送・気象に次ぐ新しい利用がなかなか芽生えない、具体化していないという問題でした。従って社会からも「宇宙活動って何のメリットがあるの?」と言われるわけです。それを払拭するために、何が役に立つかと考えたところ、今求められているのは、やはり「安全で安心な社会の実現」。これは日本のみならず、世界的にも求められています。その中で「災害」というのが1つのキーになるプロジェクトではないかと考えたわけです。日本をはじめ、アジア地域では自然災害が多いことで有名です。特に地震や台風の影響が大きいですが、これに対応するために、宇宙から監視をし、発生した時に直ぐに情報提供出来るようにしたいと思いました。

日本の宇宙開発は、宇宙開発事業団(NASDA)、宇宙科学研究所(ISAS)、航空技術研究所(NAL)の3つに分かれていましたが、2003年に統合し、JAXAとして再発足しました。この目的の1つに「宇宙技術の利用拡大」が入っています。この精神を受けて、われわれは2005年に長期ビジョンを作りました。「安心・安全を確保できる社会」を作っていくために、もっと宇宙活動を利用しようということで、その1つが「災害対策」でした。われわれとしては、衛星からの情報をうまく活用して、日々の災害対策に役立ててもらいたいと思ったのです。それを具体化するために、宇宙機関のみならず、防災機関に利用してもらいたいと考え、JAXAの中に「防災利用システム室」を設置して、日本の関係機関と協調を図っています。また、国際的な協調も重要だと考え、人道的な立場で相互に衛星画像を供給し合う、国際的な災害チャーターにも加盟しました。

このような背景の中で、われわれは「センチネル・アジア」をアジア太平洋州宇宙機関会議(APRSAF)で提唱しました。何しろアジアは、自然災害が多い地域ですから、その地域を中心に具体化して、これで上手くいったら、世界に拡大したいと思った次第です。APRSAFは、アジア太平洋州の宇宙関係者に集まっていただいて、年1回フォーラムを開いていましたが、単に意見交換をするだけの場で、これでは先行きが良くない。もっと具体性を持たせたらどうかと考え、「センチネル・アジア」を提案しました。その結果、予想以上にアジア各国から賛同を得ることが出来ました。実ははじめはそんなにアピールするとは思ってなかったのです。なぜならその時は、まだ日本の地球観測衛星はなかったからです。「日本はこれから打ち上げますよ」という前宣伝でやったのですが、それにもかかわらず高く評価されました。そして翌年の1月には実際に打上げが成功し、具体的な話に発展していきました。

これまで2年間が経過しましたが、第1段階として、地球観測衛星からの情報を、インターネットを介して、各国へ提供できる態勢を作りました。そして利用されはじめたところです。また、これまでに各国から代表に来ていただいて、プロジェクト会議を4回行い、これが大きな成果を上げたと思っています。今後もより円滑な利用方法を開拓して、できるだけ多くの方に利用していただけるようにしていきたいと考えています。こういう新しい利用分野を共同してやるというのは、構想としてはあるのですが、実現しているものはなかなかありません。そういう意味で皆さん、「センチネル・アジアはうまくいくのかな?」と見ておられると思いますが、この2年間で、着実に実績を作ってきました。つまり、不幸にもアジアで自然災害が起きたということですが、災害発生後、衛星画像をうまく活用できたことを皆さんが認識できたので、たいへん評価していただいています。

現在は、まだ日本の地球観測衛星「だいち」1つだけですが、今後、衛星の数を増やして常時観測ができる体制を作ることが必要です。日本の衛星だけではなく、各国からも衛星を提供してもらいたいのです。現在、インドから観測衛星提供の申し出ていただいているので、間もなく使えるようになると思います。そのほかの国からも、ぜひ、幅広く参加していただきたいと思っています。日本もさらに観測網を充実させるために衛星を4つぐらい打ち上げて、ほぼ常時観測できる態勢を作りたいと思っています。また、画像処理についてもより充実した、使いやすいデータにしていく必要があります。さらにリモートセンシング技術について、幅広い人々が関与できるように、人材育成も重要です。これらについて、日本も積極的に貢献していきたいと思います。

新たな取り組みとしては、情報通信網の強化を図りたいと思っています。2008年に高速インターネット衛星「きずな」を打ち上げる予定です。これを活用して、災害時に地上系のインターネットがないところでも衛星画像や映像など、大容量情報を受信したり、テレビ電話などの双方向通信も可能にするインフラを構築していきたいと考えています。

Back