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新たな展開を迎える日本の宇宙輸送
国際宇宙ステーションの運用にかかせないHTV
HTV プロジェクトマネージャ
虎野吉彦
国際宇宙ステーションに物資を補給
宇宙ステーション補給機HTV
宇宙ステーション補給機HTV
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宇宙ステーション補給機(H-II Transfer Vehicle:HTV)は、国際宇宙ステーション(ISS)へ補給物資を運ぶための無人の輸送機です。全長約10m、最大直径4.4m、質量約10.5トンの円筒形で、約6トンの物資を運ぶことができ、「補給キャリア与圧部」「補給キャリア非与圧部」の2つの貨物区画と、「電気モジュール」と「推進モジュール」で構成される本体に分かれています。補給キャリア与圧部の内部は地上と同じ1気圧に保たれ、内部には宇宙飛行士の生活物資や実験用の機材などが搭載されます。一方、補給キャリア非与圧部は、宇宙の真空状態にさらされる状態で物資を運び、船外実験用の装置や、ISSの維持に必要なバッテリーや姿勢制御機器などの交換資材が搭載されます。電気モジュールにはコンピュータや電源、通信装置などが搭載され、人間でいうと頭脳にあたります。また、推進モジュールにはエンジンや推進薬を搭載し、HTVの軌道変更や姿勢制御のための推進力を発します。
ロボットアームをつかった初のドッキング
ISSのロボットアームに捕獲される直前のHTV(想像図)
ISSのロボットアームに捕獲される直前のHTV(想像図)

HTVは現在開発中のH-IIBロケットで、種子島宇宙センターから打ち上げられます。ロケットと分離した後、カーナビでお馴染みのGPSを使って自分の位置を確認しつつ、NASAのデータ中継衛星を経由して筑波宇宙センターにある地上の管制センターと通信しながら、約3日間かけて少しずつISSに近づきます。 ISSから23kmの距離まで近づくと、「きぼう」日本実験棟に搭載されている近傍通信システム(PROX)と直接通信できるようになります。PROXはHTVにも搭載されており、双方向で電波通信を行いながらお互いの位置や速度を確認します。ISSの下方500mからはレーザーセンサも使ってISSに接近し、最終的にISSの下方10mのあらかじめ決められた位置で停止します。停止といっても、ISSは秒速約7.7kmで地球を周回していますので、当然、HTVも同じ秒速約7.7kmで一緒に動いている(このような状態を相対的に停止していると言います)ことになります。このランデブー飛行に持っていくことと、この状態を継続させることがとても難しいところです。
そして、ISSのロボットアームでHTV に装備されている把持部分をつかんで、 ISSに結合させます。HTVは自動ドッキングではなく、あらかじめ決められた位置に相対的に停止しているHTVをISSのロボットアームで捕獲しますが、このようなランデブー手法をとる宇宙船は世界で初めてです。しかも、ロボットアームで捕まれるために、1m立方程度の範囲内に、HTVの把持される部分を5分以上留めておくことが求められます。なお、この方式を採用した理由として、他の方式(スペースシャトルのドッキング方式やヨーロッパの宇宙ステーション補給機ATV、ロシアのプログレス補給船のドッキング方式:これらのドッキング方式は元々ソヴィエト連邦時代に開発されたドッキング方式です)に比べて、貨物区画の開口部が広く、大きな荷物の出し入れができること、入手性が良いこと、価格が安かったことがあげられます。
ISSにドッキングすると、ISSの中にいる宇宙飛行士が与圧キャリアのハッチを開け、中の荷物を運び出します。ここには空気もあり気圧も地上と同じなので、宇宙飛行士はISSの中と同じように作業できます。また、補給キャリア非与圧部の荷物は、曝露パレットという机の引き出しのようなものに搭載されていて、ISSのロボットアームで引き出されます。荷物をすべてISSに補給した後は、ISSで不要になった物をHTVに搭載します。そして、結合から約1ヶ月後にISSから分離して、大気圏に再突入します。その時の高熱で、HTVはほとんど燃え尽き、ほんの一部の耐熱性の高い部品があらかじめ決められた海上へ落下します。
HTVの初号機(技術実証機)の打ち上げは、2009年度を予定しています。その後は、年に1〜2機を打ち上げ、合計7機でISSへ物資を補給します。
宇宙船の自動ランデブーと安全化機能
ISSとドッキングしたHTV(想像図)
ISSとドッキングしたHTV(想像図)


高度400km付近を秒速7.7kmの高速で飛行しているISSは、複雑な形状をしていますので、姿勢がふらつき、揺れています。そういう状態のISSに、総質量約16.5トンのHTVが、主エンジン4基(内2基は冗長系)と姿勢制御用エンジン28基(内14基は冗長系)を使って繊細にコントロールしながら自動で接近し、ISSから10m離れたところで相対的に停止します。これは世界的にも画期的な技術です。
ISSの中には人がいますので、絶対にHTVと衝突するというような事故があってはなりません。そのための、さまざまな安全措置がとられています。例えば、HTVの能力的には、自動でISSに近づくことはできますが、あえて、ISSの下方300m、30mのところで一旦止まり、地上からのコマンド(命令)がないかぎり先へ進まない方法をとっています。また、一部の機器が壊れても安全に飛行できるよう、すべて二重構成、更に重要なところは三重構成にしています。例えば、電力の供給は2系統で2分の1ずつの部分を担当しており、一方の系統に不具合が発生した場合は、残りの1系統が即座に全ての部分を担当します。また、搭載コンピュータも第1階層に3台、第2階層に2台、第3階層(これは緊急処置用です)に1台の三重構成になっており、不具合発生時に多数決判断や上位の階層による制御に切り替えます。

  
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