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新たな展開を迎える日本の宇宙輸送
大型の装置が運べる唯一の補給船
ロボットアームで取り出されるHTVの曝露パレット(想像図)
ロボットアームで取り出されるHTVの曝露パレット(想像図)


日本がISS計画の参加を決めた1980年代から、HTVの構想はありましたが、当時はアメリカのスペースシャトルが退役するとは想像もしていませんでした。そのため、HTVの重要性があまり認知されていなかったように思います。一方、ISSの維持に必要な機器類の一部交換品は、スペースシャトルがなくなると、HTV でしか運べないことも事実でした。その後2004年になって、スペースシャトルは2010年に退役するという発表があり、一挙にHTVの価値が国際的に高まりました。例えば、補給キャリア非与圧部に搭載される、国際宇宙ステーションのバッテリーや姿勢制御装置のような大きなものは、ヨーロッパの宇宙ステーション補給機ATVでは運べません。このため、補給キャリア非与圧部の開口部は、2.7 m×2.5mもあります。これだけ大きな開口部を構造体に開けるとその強度が弱くなりますので、これをつくるのは非常に難しい技術ではありましたが、世界でほかにはない日本独自の宇宙船をつくったことで、多岐にわたる活躍が期待されます。さらに、ISSとドッキングするATVの出入り口は、直径0.8mの円形ハッチであるのに対して、HTVのハッチは1.2m×1.2mのほぼ四角い形をしており、大型の実験装置などが運搬できます。
一方で、ヨーロッパのATVには、HTVではできない機能があります。ISS は、地球の上層大気の空気抵抗によって徐々に高度が下がってきますので、現在、スペースシャトル、或いはプログレスがドッキングしている間に、それらのエンジンを噴射して定期的に高度を上昇させています。ATVはこれらの宇宙船と同様に、エンジンを噴射してISSの高度を上げることができます。また、ISSに燃料を補給することもできます。ATVやこれと同じような機能をもつプログレス(ただし、補給能力はATVよりも小さい)にHTVも加わり、それぞれの特長を活かして、国際宇宙ステーションの運用に貢献していきたいと思います。
ほぼ完成したHTV初号機
HTV技術実証機(与圧キャリアと非与圧キャリア結合状態)
HTV技術実証機(与圧キャリアと非与圧キャリア結合状態)


2009年度に打ち上げられるHTVの技術実証機(初号機)はほぼ完成しています。今年の9月には、軌道上での熱環境を模擬する熱真空試験等も終わり、引き続き実施したロケット打ち上げ時の振動や音響環境に耐えられるかの試験も完了しました。現在は、これらの環境試験の影響を確認する機能試験が行われています。この試験の完了後、来年の春には種子島宇宙センターに搬送され、打ち上げの最終準備に入ります。
初号機はHTVの機能・性能を確かめる技術実証が目的ですが、実際にISSに補給物資も運びます。ただ、初号機にはバッテリーと推進薬を多めに積み、初号機であることから幾つかの技術試験を実施したり、トラブルが発生した場合に解決できるだけの時間を確保します。そのため、通常なら補給物資を6トン積めるところ、バッテリーと追加推進薬等の質量を差し引いた4.5トンの物資を積んで打ち上げます。
2009年度にいよいよ打ち上げですが、地上でできる試験をすべてやって、平常心をもって本番に臨みたいと思います。
将来の宇宙輸送技術の基盤として
宇宙ステーション補給機HTV(想像図)
宇宙ステーション補給機HTV(想像図)


現在HTVは、ISSに物資を運び、不要品を大気圏再突入で燃やすことを目的としていますが、補給ミッションのほかにもいろいろな可能性があります。HTVにはTransfer Vehicle(軌道間輸送機)という名前が付いているように、これ自身が宇宙空間で自由自在にものを運んだり、好きなところに行くことができます。ですからISSやほかの人工衛星との距離を利用した伝送実験、人がいない環境での無重力実験(近くに人がいれば無重力環境へ微妙な影響を与える為)、低高度による地球観測、ISSで実験したサンプルを持ち帰るための回収カプセルの搭載などが考えられます。
さらに、月惑星探査機や有人宇宙船へと発展させることも可能だと思います。有人宇宙船に必要な主な構成要素としては、「宇宙船の推進制御」「空気のある与圧空間」「宇宙飛行士を地球にもどす帰還カプセル」「緊急脱出装置」の4つですが、そのうち「宇宙船の推進制御」と「空気のある与圧空間」の2つは、HTVが成功すれば手に入ることになります。もちろん、「帰還カプセル」や「緊急脱出装置」には大きな開発要素がありますので、HTVをそのまま有人飛行に使えるということではありません。さらに遠くの月や火星に行くためには、生命維持装置などの課題も出てくるでしょう。ただ、HTVやH-IIBロケットの開発によって有人宇宙船の基盤はできていますので、これからもっと信頼性や安全性を高めて、将来の輸送技術の発展につなげていきたいと思います。

関連リンク: HTV(宇宙ステーション補給機)
虎野吉彦(とらのよしひこ)
JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 HTVプロジェクトマネージャ
1974年、大阪府立大学卒業。同年、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。打上管制部に所属し、種子島宇宙センターでの勤務も含め、N-Iロケット及びN-IIロケットの打ち上げ総指揮者(LCDR)などを担当。H-Iロケットの開発、H-IIAロケット打ち上げ射場の開発に携わった後、2000年にJ-Iロケットプロジェクトマネージャ。2004年、H-IIAロケットプロジェクトのサブマネージャーを経て、2005年より現職。
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