あかつき特設サイト

特集

プロフェッショナル暁

あかつきの設計・開発から打ち上げを経てその後の運用まで、あかつきに携わるスタッフのコラムをお届けします。
中村 正人 / 担当:プロジェクトマネージャ
金星探査計画を宇宙科学研究所(当時)に提案したのは2001年1月の第一回宇宙科学シンポジウムでの事です。この年から、全ての提案科学プロジェクトは宇宙科学シンポジウムで出席者の共感を得られなければ、宇宙理学委員会の審査そのものにかけない、という厳しい決まりができたので、それはそれは緊張しました。その前の年末一杯をかけて、提案チームで発表の内容を繰り返し繰り返し議論しました(当時いた東大での講義を全部休講にしましたが、その頃の学生さん、ごめんなさい)。今までアメリカや旧ソ連が繰り返し訪れた惑星を再訪して新しい日本独自のサイエンスを切り開くにはどうしたらよいか?議論は尽きませんでした。幸いにして300名近くの聴衆を前にしてのプレゼンテーションは大成功を収め、その日のうちに宇宙理学委員会で審査を受けられることが決まったのです。それから足かけ10年、チームが一丸となってプロジェクトを遂行してきました。いよいよ、その成果を世に問うときです。皆さん、見ていてください!

[2010年3月15日 更新]

田中 勲 / 担当:明星電気−雷・大気光カメラ(LAC)のハードウェア製作
弊社が「あかつき」に搭載する雷・大気光カメラ(LAC)を開発するというお話をいただいて、検討を始めたのは、もう7、8年前になろうかと思います。LACは当初の構想から、センサが変更になったり、質量の大幅削減などあり、最終的なフライト形状に落ち着くまでには紆余曲折がありました。また、試験中も様々な問題に遭遇して、先生方のご支援の下、何とかフライトまで漕ぎ着けたという思いがあり、いろいろな意味で勉強になったミッションです。
金星に到着したあかつきには、元気にデータを送ってきてくれることを切に願っております。

[2010年9月13日 更新]

向井 香織 / 担当:ニコン−IR1・IR2・UVI・LACの光学設計
「あかつき」プロジェクトの最初の検討依頼があったのは、1999年でした。初期の構想段階から最後まで携わらせていただき、思い出深い製品です。当初の光学仕様は最終版とは全く異っており、当時の資料を見ると「ずいぶん変わったなぁ」と感慨深いものがあります。
当初、私自身は入社3年目で新人に毛が生えた程度で、耐放射線性などわからないことだらけでした。「あかつき」ではいろいろと良い経験をさせていただき、一緒に成長してきたように思えます。
無事打ち上がり、画像も送られてきており一安心です。今後は無事金星周回軌道に乗り、綺麗な画像を送ってきてくれることを祈っています。

[2010年8月30日 更新]

川勝 康弘 / 担当:姿勢軌道制御系の開発・運用
私がプロジェクトに加わったのは2004年です。私が姿勢系の開発にたずさわるのは月周回衛星「かぐや」に続いて二度目。仕事の仕方もわかり、今回はだいぶ落ち着いて取り組めたように思います。
実は今回、開発メーカ(NEC)側で技術面を取りまとめていた吉沢さんは大学の同期。最初の会議で会った時は驚きましたが、始めてみると、遠慮せずに本音で議論できたり、あるいは言外に考えていることの察しがついて速やかに議論をまとめられたり、プラス面が多かった気がします。私達の世代が、このような立場で協働できる時代になったと、感慨深いものもあります。
幸いなことに、「あかつき」の姿勢軌道制御系は、打ち上げ以来、すこぶる順調に機能しています。しかし金星探査機は、金星を周回する軌道に投入できてこそ合格点です。12月に予定している金星周回軌道投入をぜひとも成功させ、胸を張りたいたいと思います。

[2010年8月23日 更新]

市川 勉 / 担当:軌道決定(航法)
「あかつき」の軌道決定を担当しております。現JAXAでは、探査機の初号機はハレー彗星を目指した「さきがけ」「すいせい」でした。その時は私は院生でしたが、それから約25年経過しました。その間月探査「ひてん」、火星探査機「のぞみ」、そして小惑星探査機「はやぶさ」と軌道決定(航法)に携わって来れたことを光栄に思っています。軌道決定は内之浦宇宙空間観測所34m及び臼田宇宙空間観測所74mのアンテナを用い測距・距離変化率(ドップラー)観測のデータで軌道推定するのが基本で、NASA/JPLのナビゲーションチーム及びDSN(Deep Space Network)チームとの共同観測・研究を行って高精度な軌道推定を目指し、電波科学で用いられるVLBI(超長基線干渉計)を応用した手法でJAXA局とNASA局で共同観測を行い、その観測量を加え高精度化の研究を進めている段階です。この観測量は非常に高い精度で取得されるので、軌道決定としては今後主なデータになりつつあります。又、「あかつき」は今年7月に高精度軌道決定をするためのキャンペーン期間を設けていただき、十分なデータを取得(新規測距方式含め)できたので今後解析を進めて行き、航法・誘導として金星周回軌道投入が成功するよう関係者一同頑張るつもりです。さらに周回軌道上での電波(測距・ドップラー)+VLBI航法の高精度化も工学的に関心の高い研究テーマです。ミッションとしては、予定している周回軌道に入り金星科学として新たなる発掘を期待をしております。

[2010年8月9日 更新]

豊田 裕之 / 担当:電源系
“あかつきくん”の耳、もとい太陽電池パネルには、金星の高温環境できちんと働けるよう、様々な工夫が凝らされています。例えば、私が左手に持っているのが表、右手に持っているのが裏ですが、裏は全面鏡張りになっています。太陽電池パネルが最も高温になるのは、表面が太陽光に、裏面が金星からの熱にさらされる時です。そこで裏面を鏡で覆い、金星からの熱をはね返しているのです。それでもなお、「あかつき」の太陽電池パネルは+184℃という高温に耐えねばなりません。私の2007年は、太陽電池パネルの高温環境試験で過ぎてゆきました。しかし今思い返すと、私達が「あかつき」を作っていたようで、実は「あかつき」に教えられていたように思います。当時の苦労がなければ今の私はありませんし、現在進んでいる水星探査機の開発だってもっと困難なものになっていたに違いありません。
さて、光が当たらない夜の期間は、「あかつき」は内部に搭載した電池で動きます。リチウムイオン電池を搭載しているのですが、この電池は満充電に近いほど劣化が速く進んでしまいます。そこで私達は、できるだけ充電をしないようにしながら運用を続けています。例えば地球から金星へ向かう軌道では夜の期間はありませんので、緊急時に対応できる40%程度の充電状態にとどめます。金星に到着すると、今度は昼と夜が交互にやってきますが、夜の期間を維持できる電力しか充電しません。皆さんは帰宅したら携帯電話を充電すると思いますが、その時に明日一日分の一目盛りしか充電しないようなイメージです。電池は探査機の生命線ですから、こうしてできるだけ長持ちするように使っていきます。今年の終わりから、「あかつき」の本格的な観測が始まります。できるだけ長生きをして、未知の世界の映像をたくさん送ってほしいと思います。

[2010年8月9日 更新]

小郷原 一智 / 担当:公開サイエンスデータ(高次データ)処理
特定の測器に属することなく、「あかつき」の5つのカメラのLevel3高次データ処理を担当しています。Level 3高次データというのは、「あかつき」の各カメラが捕らえた画像を、ちょうど世界地図のように経度緯度分布に変換したもの、またそれらを使って求めた風速分布のことを指します。主なデータユーザとして気象学者、惑星科学者を想定しており、彼らが日ごろから使っている気象データとほぼ同じデータフォーマットとすることで、「あかつき」データの利用を促進し、惑星大気科学が「あかつき」によって大きく進歩することをもくろんでいます。
朝夕合計3時間ほどの通勤ですが、朝から晩まで自分のデスクでプログラミングの日々ですので、運動不足が深刻です。あかつきの金星到着を控え、体力勝負の期間が1年ほど続きますので、しっかり鍛えて望みたいと思います。この文章を書いているのは相模原キャンパスの特別公開日です(何をやっているのだ!)。びっくりするくらい多くの方に来ていただきまして、今年の惑星科学はただ事ではないと感じております。最後の締めをあかつきが成功させてくれることを願っています。

[2010年8月2日 更新]

大石 真実 ・ 加藤 良子 / 担当:プロジェクトサポートスタッフ
(大石)「あかつき」プロジェクトの事務担当になってから、早くも四年が経とうとしています。
未だに、日々起こる新しいことをクリアするだけで精いっぱいですが、周りのかたに恵まれ、なんとか仕事をしている次第です。思い出は尽きませんが、「あかつき」のアルミプレートに印字される応援メッセージを、横綱・白鵬関、大関・魁皇関から頂けたことが、相撲好きの自分にとっては一番の思い出でしょうか。「あかつき」を相模原から送り出す際の壮行会や懇親会等で、お聞き苦しいことを承知で演奏させてもらったり、フェルトで作成した「あかつき」マスコットを恩着せがましく配ったりと、何かと迷惑をかけている自分ですが、12月の朗報を楽しみに、二人体制で本日も楽しくやっております。

(加藤)ここは通称、「金星室」。打ち上げ後に「あかつき部屋」と改名したとかしないとか…。
私たちの立ち位置は、「あかつき」に一番近い一般ピープル。そんな風に、日々進化(?)していく“彼”を見つめてきました。勤務したての頃は、LIR、IR、UVIにLACやUSOなどなど。何のことかさっぱりわからず戸惑いばかりでしたが、今では探査機をみているだけで開発に携わった方々のお顔まで浮かぶようになりました。これなら「あかつき」オタクの称号をいただけるのではと自負しております。これも支えていただいた多くの方々のおかげです。これからも皆さんの応援の言葉につつまれて、ミッションの成功を祈ってゆけたらと思います。

[2010年7月27日 更新]

上水 和典 / 担当:IR1(1μm)・IR2(2μm)カメラ検出器の性能評価
2006年度より「あかつき」の2つの赤外線カメラIR1、IR2の検出器の性能評価とカメラの開発に参加しております。それまで赤外線検出器を扱った経験はあっても、金星の気象??というところからのスタートでしたが、衛星搭載機器の開発に魅力を感じ、今に至っております。実験室での検出器に写るのはもっぱら、砂嵐(ノイズ)か試験光源といった、なんとも華のない画像ばかりでしたが、「あかつき」から臨む金星と宇宙の姿をイメージしてやってきました。2つのカメラは「あかつき」に載り、無事に旅立ちましたが、しっかりと期待にこたえてくれるだろうと信じつつ、日々の運用で見守っている次第です。

[2010年7月20日 更新]

田口 真 / 担当:立教大学理学部物理学科−中間赤外カメラ(LIR)責任者
「あかつき」に搭載されるカメラの検討が始まった頃、私は南極観測隊員として昭和基地で越冬中でした。ファックスで送ってもらった赤外検出器の資料をオーロラ観測の合間に勉強し、帰国後、中間赤外カメラ(LIR)の担当として本格的に開発をスタートしました。私がスペースミッションに関わるのはこれが3回目です。過去2回いずれも担当した観測機器開発は困難を極めました。幸いLIRは順調に開発が進み、楽勝ムードでFM総合試験が始まろうかという矢先に、大問題が発生しました。リスクを冒して検出器を交換するか、傷ついた検出器のままで打ち上げるか決断を迫られました。種子島での最終外観検査の際、完全な姿で「あかつき」に搭載されたLIRをながめながら、改めて搭載観測機器開発は一筋縄ではいかないなと感じました。LIRの赤外の目はどんな金星の姿を映し出してくれるのだろうか?お小遣いをためて買った望遠鏡が届く日を指折り数えて待った頃を思い出しました。

[2010年7月13日 更新]

星野 直哉 / 担当:東北大学−雷・大気光カメラ(LAC)
雷・大気光カメラ(LAC)の開発を担当しています。自分がLACに関わり始めたのは3年ほど前、修士1年のころでした。当然、修士1年程度では、探査機関係の知識などなく、初めて出席した「あかつき」の会議では、飛び交う用語も理解できず、ほとんど外国語を聞いているような気分でした。「アウトガスって何?ベーキング?頼むから日本語で話してくれ!」と何度も思ったのを覚えています。それでも、一つ一つ「あかつき」のことLACのことを理解して、三年間LACの開発をおこなってきました。今思うと、LACはかなり手のかかる子だったと思います。小さいものから大きなものまで、数えきれないくらいのトラブルがあり、そのたびに右往左往しました。さぁ、いよいよ完成だという時期になって、レンズ関係でトラブルがおきたときには、正直もうだめかもしれないとさえ思いました。それでも、なんとかLACの開発を終え、「あかつき」に乗せることが出来ました。心配をかけさせられた分、なんだか感慨深いものがあります。なにはともあれ、あとはLACが金星から綺麗な観測結果を送ってきてくれるのを待つばかりです。どうぞ、きちんとLACが動きますように。

[2010年7月13日 更新]

山田 学 / 担当:紫外イメージャ(UVI)/公開サイエンスデータ処理
紫外イメージャ(UVI)チームの一員であるとともに、公開サイエンスデータを作成するためのデータ処理チームの一員として金星到着に向けデータアーカイブの準備を行っています。相模原キャンパスの運用室で「あかつき」打ち上げを見守り、その日の内に実施した地球撮像のデータを得て、UVIが設計通りのパフォーマンスで旅立ったことを確認し、本当に安堵しました。
UVIの開発には北海道大学でまだ大学院生だった頃から携わり始め、その後、東北大学、ドイツマックスプランク研究所、そして今年よりJAXA宇宙科学研究所と所属を変えつつ、気がつけばもう10年近い付き合いとなりました。UVIの質量はちょっと大きめの赤ちゃん(4kg)ぐらい、昨年生まれた娘はUVIの半分ぐらい(2.2kg)だったはずなのに、もうすぐ歩き始めそうです。どちらもこれからどんどん目の離せない時期になりますが、とかく健康第一でいて欲しいと願う日々です。来年にはいっぱいおしゃべりができる(金星データ取得ができる)ようになるはずなので、今以上に研業主父(夫)として頑張らねば!!です。ともあれ、
あかつきに、いつも良い風が吹きますように…

[2010年7月5日 更新]

永松 弘行 / 担当:衛星監視・診断システム(ISACS-DOC)
「あかつき」の地上システムの中で、ISACS-DOC と呼ばれる監視・診断システムを担当しています。ISACS-DOC(Intelligent SAtellite Control Software - DOCtor)とは、衛星/探査機の健康状態(例えば、バッテリの温度が上がりすぎていないか、推進系タンク圧力が下がりすぎていないかなど)を自動的に監視・診断して、運用の安全性向上を図るためのシステムです。これまでにも「のぞみ」「はやぶさ」「あかり」「ひので」などで使われてきました。
探査機の健康状態を適切にチェックするには専門家の判断が欠かせません。しかし、運用では専門家が常駐しているとは限りません。ISACS-DOCは、彼ら(彼女ら)に代わって探査機の安全な運用の手助けをしてくれる「探査機のお医者さん」と言ってもいいかもしれません。異常やその兆候が見られれば速やかに私たちに知らせてくれます。そこから先の対応(診断結果に応じた運用計画作成とコマンド送信)は、人間にバトンタッチされます。
ISACS-DOCが「専門家に代わって」役割を果たすために、専門家が持っている知識や経験を反映したルール(「知識ベース」と呼んでいます)を計算機上に構築し、診断の基準に用います。ただし、「知識ベース」は一度作ってしまえばそれでおしまい、というわけではありません。常に探査機自身や宇宙環境の変化に適応した、適切な診断をするために知識ベースを維持・改訂し続けてゆくことが、ISACS-DOC システムを運用する際の最大のポイントとなります。
「あかつき」の知識ベースも、地球の近く、金星までの軌道上、金星周回軌道上で、それぞれ改訂してゆく必要があります。また、ミッション内容に応じた見直しも行います。私たちを診てくれるお医者さんも、常に新しい医学知識を仕入れ、私たちの年齢、性別、また季節、天候などを総合的に配慮しつつ、診察やアドバイスをしてくれますね。探査機にとっての ISACS-DOC も、まさにそのような役割が期待されます。
これから金星に近づくにつれ、「あかつき」を取り巻く宇宙環境も大きく変化し、それに応じた適切な診断と迅速な対応が、ますます重要になってきます。「あかつき」の安全な運用と観測ミッションの成功に、ISACS-DOCが役に立てば、たいへん嬉しく思います。

[2010年6月28日 更新]